2022年09月28日

居宅介護支援費の有料化は是か非か-介護サービスの仲介だけではない点、利用控えの危険性に配慮を

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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6――ソーシャルワークを阻害する報酬体系の優先的な見直しを

むしろ、居宅介護支援費の有料化よりも、取り組まなければならない構造として、ソーシャルワークを阻害している報酬体系の見直しが挙げられる25。先に触れた通り、ケアマネジャーがインフォーマルケアを組み込もうとしても、介護保険サービスをケアプランに組み込まないと、一銭も受け取れない構造となっている。誤解を恐れずに言えば、ケアマネジャーの法定研修などで、インフォーマルケアを組み込むように指導しているのは、ケアマネジャーに「タダ働き」を強いているのに等しい。

実際、こうした構造はケアマネジャーの行動に歪みを作り出している。その一例として、「本来であればフォーマルサービスは不要と考えていたが、介護報酬算定のため、必要のない福祉用具貸与等によりプランを作成した」という事例を過去1年間で見たり聞いたりしたケアマネジャーは15.7%に及ぶという調査結果がある26

これを指して、財務省は2022年5月の財政審建議で、ケアマネジメントの質を図る上では利用者負担の導入が必要と指摘。さらに、「福祉用具の貸与のみを行うケースについては報酬の引下げを行うなどサービスの内容に応じた報酬体系が必要」と要求した。

しかし、ケアマネジメントを実施しても、最終的に介護保険サービスの利用に至らないケースについて、ケアマネジャーが福祉用具貸与だけのケアプランを作っているとすれば、むしろ「タダ働き」を回避するための合理的な行動と見ることも可能である。筆者自身、こうしたケアプランを擁護する気はないが、福祉用具貸与だけのケアプランを問題視するよりも、「無駄」を生み出しやすい報酬体系の見直しが先決と考えている。しかも、福祉用具貸与だけのケアプランの報酬を減額すれば、制度が複雑化しかねない点にも留意する必要がある。

そこで、一つの解決策として、ケアマネジャーが介護保険サービスを組み込まなくても、居宅介護支援費の報酬を受け取れる構造に切り替える方法が考えられる。先に触れた通り、いわゆる「名寄せ」の問題が制度創設時には影響していたが、現在の技術を使えば、請求書の名寄せは可能であり、紙に頼らざるを得なかった当時の制約条件は取り払われているように見える。

このため、実質的に給付管理しか評価していない居宅介護支援費の報酬構造を改め、介護保険サービス利用の有無に関わらず、ケアマネジメントを純粋に評価する方向での見直しが考えられる。この改正を実施すれば、ケアマネジャーはインフォーマルケアに目を向けやすくなり、ソーシャルワークの担い手としての活躍が期待できる。

さらに一歩進めて、居宅介護支援費を介護保険サービスから切り離した上で、市町村を主体とした「地域支援事業」に移行する方法も考えられる。地域支援事業は介護保険財源の一部を活用し、地域包括支援センターの運営経費などに充当されている予算であり、この選択肢の場合、ケアマネジメントの公共性が高まる。さらに、ケアプランの作成費ということで、居宅介護支援事業所に報酬を支払う形にすれば、インフォーマルケアの調整を含めてソーシャルワークを評価しやすくなる。実際、こうした選択肢を主張する意見は一部で以前から出ている27

ただ、この場合には市町村の権限が強くなるため、ケアマネジャーの立場が相対的に弱くなる危険性も想定される。実際、近年の傾向として市町村がケアマネジメントに関与し過ぎている感がある。

具体的には、掃除や洗濯など生活援助を一定数以上、入れたケアプランに関して、市町村に届出制が2018年度で導入されたことで、こうしたケアプランは市町村設置の「地域ケア会議」28で検討される形に変わった。

この仕組みについて、厚生労働省は「利用制限ではない」と説明しているが、国の委託調査では「ケアマネジャーが同席せず、ケアアプランが検討され、再考が必要と判断されたケースがある」と答えた市町村は6.8%に上る29

こうした運用はケアマネジャーの独立性だけでなく、利用者の自己決定(自立)を掲げた制度の理念に反しているし、「従来の措置制度と変わらなくなる」という判断の下、制度創設時に要介護認定とケアマネジメントを切り離した意義が失われる危険性も伴う。

しかも、ケアマネジメントに当たる居宅介護支援事業所の指定権限が2018年度から市町村に移譲されており、ケアマネジャーが市町村に「頭が上がりにくい」構造になっている。こうした中、地域支援事業に移行する場合でも、ケアマネジャーや居宅介護支援事業所の独立性、利用者の自己決定権には十分、配慮する必要がある。

併せて、現場のケアマネジャーが介護保険サービスの仲介にとどまらない役割を果たせるようにするため、ソーシャルワークのスキルを身に付けてもらう研修を一層、拡充する必要もある。
 
25 ここでは詳しく触れないが、居宅介護支援事業所の多くが他の介護サービス事業所の系列に併設されており、ケアマネジャーが自社系列のサービスをケアプランに組み込むプレッシャーを受けやすい構造も優先的に見直す必要がある。いわゆるケアマネジャーの「公正中立問題」とか、独立性の問題である。しかも、併設型の居宅介護支援事業所が介護サービスの需要を不必要に誘発している可能性が実証されており、給付抑制を考える上では本来、欠かせない論点である。ケアマネジャーによる需要誘発の可能性を実証する研究としては、医療経済研究機構(2020)「ケアマネジメントの公正中立性を確保するための取組や質に関する指標のあり方に関する調査研究報告書」(老人保健健康増進等事業)、中村二朗・菅原慎矢(2017)『日本の介護』有斐閣、岸田研作(2015)「在宅介護サービスにおける需要誘発仮説の検証」『医療経済研究』Vol.27 No.2などを参照。
26 回答は「よくある」の3.3%、「ときどきある」の12.4%の合計。有効回答数は1,303人。医療経済研究機構(2020)「ケアマネジメントの公正中立性を確保するための取組や質に関する指標のあり方に関する調査研究報告書」(老人保健健康増進等事業)を参照。
27 白澤政和(2019)『介護保険制度とケアマネジメント』中央法規出版pp237-238を参照。
28 地域ケア会議とは埼玉県和光市の事例を全国化する形で、2015年の制度改正で全市町村での設置が義務付けられた会議体。個別事例の検討や多職種連携のネットワーク構築、地域課題の把握、政策提言などを目的としているが、目的や機能、運用は自治体ごとに大きく異なる。
29 三菱総合研究所(2020)「訪問介護等の居宅サービスに係る保険者の関与の在り方等に関する調査研究事業報告書」(老人保健健康増進等事業)を参照。

7――おわりに

7――おわりに

介護保険は財源、人材という2つの制約条件に直面しており、制度の持続可能性は大きな課題となっている。このため、給付抑制や負担増の選択肢が欠かせなくなっており、居宅介護支援費の有料化論議が浮上する背景は理解できる。

しかし、介護保険の改革策を考える上では、コストだけでなく、重度な人や低所得者に対する配慮も欠かせない。こうした状況で、介護保険サービスの「入口」に相当する居宅介護支援費を有料化すると、低所得者の利用控えを引き起こす可能性があるし、重度な人などに負担の皺寄せが行く危険性も否定できない。

さらに、これまで繰り返し述べた通り、ケアマネジメントは本来、介護保険サービスの枠内にとどまらない広がりを有しており、厚生労働省が掲げる地域共生社会の理念を踏まえると、むしろインフォーマルケアも意識するソーシャルワークを強化する必要がある。

こうした状況で、居宅介護支援費を有料化した場合、ケアマネジメントを一層、介護保険制度の枠内に閉じ込めてしまうリスクがあり、ケアマネジャーがソーシャルワークやインフォーマルケアに関与できる機会を閉ざす結果になりかねない。

以上のように考えると、居宅介護支援費の有料化はデメリットの方が大きく、慎重に取り扱う必要があると考えられる。むしろ、ケアマネジャーがソーシャルワークの担い手として活躍できるような制度改正を検討するとともに、ケアマネジャーに対する研修の機会を拡充する努力が求められる。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

(2022年09月28日「基礎研レポート」)

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