2022年08月10日

オフィス市場は調整継続。ホテルは国内観光需要が回復に向かう-不動産クォータリー・レビュー2022年第2四半期

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1. 経済動向と住宅市場

国内経済は、コロナ禍前の水準をようやく回復したとみられる。8/15に公表予定の2022年4-6月期の実質GDPは前期比+0.8%(前期比年率+3.2%)と2四半期ぶりのプラス成長になったと推計される1。まん延防止等重点措置の終了を受けて、対面型サービスを中心に民間消費が高い伸びとなったことに加えて、好調な企業業績を背景に設備投資が増加したこともプラスに寄与した。

経済産業省によると、4-6月期の鉱工業生産指数は前期比▲2.8%と3四半期ぶりの減産となった(図表-1)。世界的な半導体不足と供給制約が続くなか中国のロックダウンが加わり、稼働停止の工場が増加した自動車、自動車産業の影響を受けやすい鉄鋼等がマイナスとなった。先行きについては持ち直しに向かうことが予想されるが、米国経済の減速傾向が続くことなどから、そのペースは当面緩やかにとどまる可能性が高い2

ニッセイ基礎研究所は、6月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2022年度+2.0%、2023年度+1.7%を予想する(図表-2)3。実質GDPが直近のピーク(2019年4-6月期)を回復するのは2023年10-12月になると予想するが、資源価格の高騰や中国経済の低迷長期化、金融引き締めに伴う米国経済の減速など下振れリスクの高い状態が続く見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比) / 図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、価格上昇が続くなか、販売状況は一部に減速の兆候も見られる。

2022年6月の新設住宅着工戸数は2カ月連続減少の74,596戸(前年同月比▲2.2%)、4-6月累計では約21.8万戸(前年同期比▲1.3%)となった(図表-3)。着工戸数はコロナ禍による落ち込みを脱し回復傾向にあったが4月以降やや足踏み状態となり、コロナ禍前の水準を下回っている。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2022年6月の首都圏のマンション新規発売戸数は1,917戸(前月同月比▲1.1%)、4-6月累計では6,809戸(前年同期比+3.1%)となった(図表-4)。6月の平均価格は6,450万円(前年同月比+3.8%)、m2単価は99.7万円(同+5.8%)、初月契約率は67.7%(前年同月比▲4.8%)で、価格は上昇基調で推移している。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2022年6月の首都圏の中古マンション成約件数は6カ月連続減少の3,003件(前年同月比▲7.9%)、4-6月累計では8,974件(前年同期比▲10.1%)となった(図表-5)。6月の平均価格は4,231万円(前年同月比+9.2%)と25ヶ月連続で上昇し、m2単価も67.0万円(同+12.8%)と26カ月連続で上昇した。中古マンション市場では成約件数が減少し在庫戸数が増加するなか、市場価格が需要サイドの考える適正水準から乖離しはじめている可能性もある。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
日本不動産研究所によると、2022年5月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は23カ月連続で上昇し、過去1年間の上昇率は+9.9%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

地価は、住宅地を中心に堅調に推移している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2022年第1四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「46」(前回45)、横ばいが「21」(19)、下落が「13」(16)となり下落地点が減少した(図表-7)。同レポートでは、「住宅地はマンションの販売状況が前期に引き続き堅調で上昇を維持し、商業地は低金利環境の継続等により横ばいから上昇、又は下落から横ばいに転じた地区がある」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移(比率)
野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(7月1日時点)は前期比+1.2%(年間+6.4%上昇)となり8四半期連続でプラスとなった。「値上がり」地点の割合は36.1%(前回49.1%)、「値下がり」地点の割合は0.0%(前回0.0%)となった。引き続き住宅取得ニーズは強く、住宅地の地価は上昇している(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向 

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2022年6月の東京都心5区の空室率は6.39%(前月比+0.02%)と、13カ月連続で6%台での推移となっている。平均募集賃料は23ヶ月連続下落の20,273円(前月比▲0.23%)となった。他の主要都市については、新規供給の少ない札幌と仙台の空室率が低下に転じる一方、横浜や名古屋、大阪、福岡の空室率は上昇基調にある(図表-9)。また、募集賃料は仙台を除いて前年比プラスを確保しており4、東京の下落率(前年比▲4.2%)が最も大きくなっている。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2022年第2四半期の東京都心部Aクラスビル成約賃料(月坪)は29,073円(前期比▲0.4%)と低下し、空室率は3.8%(前期比+0.5%)に上昇した(図表-10)。三幸エステートは、「オフィス戦略の見直しにより、定期借家契約の期間満了に伴って大口の現空床が生じているほか、集約移転に伴う空室も生じている」としている。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
 
4 2022年6月時点の募集賃料は、前年比で、札幌(+1.1%)、仙台(▲0.9%)、東京(▲4.2%)、横浜(+0.6%)、名古屋(+1.4%)、大阪(+0.1%)、福岡(+2.1%)となっている。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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