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企業にとってのESGへの取組み~ESGは外部不経済を抑制する~

金融研究部 常務取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 サステナビリティ投資推進室長 德島 勝幸
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1――企業にとってESGはコストなのか
企業にとって、ESG経営が何らかの支出を伴う行動であることは否定できない。わかり易い例で言えば、環境に配慮した形で工場を稼働させるにしても、再生可能エネルギーへの投資にしても、従来の経営活動に対し追加の支出が不可避である。原油等化石エネルギーを燃焼させた方がコストは安いだろう。それでも、環境に配慮して再生可能エネルギーの利用にシフトしているのが、現在の産業界におけるESGやSDGsへ向けた取り組みである。これらの取り組みに要する追加的な支出を費用と認識するか、資本的支出である投資と認識するかという論点である。会計的に見れば、貸借対照表に載せるか、損益計算書に載せるか、という判断が求められるテーマでもある。確かに短期的な支出のみに着目するならば、費用とすることが必ずしも誤りであるとは言えない。しかし、その支出が中長期的な観点から企業の収益力を高めたり、株主等からの信認を得たりする効果をもたらすのであれば、資本的支出としての投資と考えることに十分な妥当性はあると考えられる。つまり、短期的な視点では費用と考えられても、中長期的には投資とみることが妥当なのである。以前からESGに関しては、短期的にではなく中長期的に見て評価することが望ましいと主張しているが、まさにESGの在り方と会計的な評価の時間軸を問われる論点である。
企業はESGに取り組むことが自社の評価を高め、中長期的に自社にとってプラスになると考えて行動しているのであり、背景には株主やステークホルダーからのESGに取り組んでほしいという要請がある。株主の要請に答えることが付託された企業経営者の職務であるから、ESGへの取り組みが経営執行者の独善によるものでないことが重要である。しかも、ESG経営に取り組んでいるという努力を、株主総会などの場で株主に説明するだけでなく、従業員に向けて発信するとともに、ホームページなどを活用して広くステークホルダー全般に語り掛ける必要がある。ESGに取り組むことは、株主のためのものだけではなく、地球環境全体をも意識した広い範囲のステークホルダー全体のためのものであろう。
2――ESG指数のパフォーマンスを考える
ようやく東証プライム指数もリアルタイムでの算出を開始されるが、プライムに区分される銘柄数があまりにも多く、引続き継続されるTOPIXの算出方法も銘柄を除外するための暫定対措置が少なからず導入されているため、両者とも斬新さを欠き、必ずしも有用な存在ではなくなっているのではないか。米国株式に関するニュース報道ではダウ工業株30種平均やNASDAQが注目を集めるが、理論的に投資を検討する際に用いる市場インデックスとしては、S&P500などを利用されることが多い。どの指数が一般的に用いられるようになるかは、市場慣行によるものもあり、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの大手機関投資家によって採用されるかどうかなどによって影響されることもある。
もしESG投資が広く一般的になるのであれば、ESG指数を株式投資のベンチマークとして用いる機関投資家が出現してもおかしくないのであるが、残念ながら総合的なESG指数といったものを考えることは難しい。例としてGPIFの採用するESG指数の一覧をみると、様々な指数があり、ジェンダーダイバーシティやカーボンエフィシェントなど特定領域に絞ったESG指数も少なくない。以前から主張しているように、E(環境)S(社会)G(ガバナンス)というESGの3要素が等価値であるとは考え難いし、投資に際してのアプローチとしても、ポジティブリストかネガティブリストかによって銘柄選定に対する姿勢が大きく異なるものである。
ESG指数に関しては、ESG投資の本質に鑑みると、四半期や1年といった短期間での評価を行うことは適切でないし、少なくとも数年単位での観察が必要である。可能であれば、より長い長期間を踏まえて上での議論が必要になるだろう。その間に、産業や技術の変化もあるものと思われるが、中長期的に追随して行くことが望ましい。
近年のESG投資の高まりにおいて、必ずしもESG指数のすべてが市場インデックスほどの上昇を示すことはなかったが、昨年度の後半を除いたコロナショック以降の株価上昇がグロース株主導であったことによる影響を考えられるのではないか。ESGを意識した投資信託や年金向けの運用においては、グロースバイアスのある銘柄を多く組み入れて来たようであるが、それはESG銘柄というラベルを有するものの、同時に、市場の上昇トレンドに追随するためのものではなかったろうか。本来的に企業がESG経営に注力することは、中長期的な観点からの取組みであり、バリュー株としての評価が高い方が適切なものかもしれない。かつて、企業によるCSR経営やフィランソロフィーなどが強く意識された時代は、経営余力のある企業がそれらの活動に取り組むとみられており、結果としてバリュー株で規模の大きな企業が評価される傾向にあった。ESG投資の流れが、単なる銘柄ピックアップのラベルになってはならないだろう。
昨年度からはバリュー株の強くなる局面も見られており、さまざまな相場局面におけるESG投資の効果を検証することで、将来に向けてESG投資を拡充することの意義を確認できるものと考えられる。ESG投資もESG経営も、長い時間軸の中において考えられるべきであり、早急にESGに対する評価を改める必要はないだろう。ウクライナ戦争の影響でロシアからのエネルギー輸入が停止・減少する中で、E(環境)に対する主張がトーンダウンするのではないかといった懸念も見られるが、中長期の観点から見れば、今回は一時的な価格上昇に過ぎず、緩やかであっても化石エネルギーから脱却し再生可能エネルギーへの依存を高める方向に押されることになるのだろう。
3――外部不経済を否定してこそのESG経営
ESGに関する昨今の風潮は、ESGに取り組むことが是であり、取組まない企業は非であるとみなされているように思える。株主やステークホルダーの要請があるのであれば、取り組むことを否定する必要はなく、公害防止に取り組んだのと同様な観点から、企業はESG投資に取組む必要があるものと考えられる。しかし、求められないESG投資に邁進する必要はないのかもしれない。機関投資家は、ESG投資を推進することで、ESG経営に注力しようとする企業の努力を支援することが求められているのである。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年06月15日「基礎研レター」)

03-3512-1845
- 【職歴】
・1986年 日本生命保険相互会社入社
・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
・2025年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・日本ファイナンス学会
・証券経済学会
・日本金融学会
・日本経営財務研究学会
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