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コロナ禍におけるがん検診受診動向(3)~コロナ禍で検診受診が減った人の特徴

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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1――はじめに
こういった状況を背景に、国では「第3期がん対策推進基本計画(2018年閣議決定)」や「働き方改革実行計画(2017年働き方改革実現会議決定)に基づき、がん検診受診の推奨や、治療と仕事の両立を社会的にサポートするための環境整備に取り組んでいる。
がん検診受診率は、国が目標としている50%には至っておらず、諸外国と比べても低い水準ではあるが、近年徐々に向上してきていた。ところが、(公財)日本対がん協会によると、2020年のがん検診受診者は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて前年と比べて30.5%と、大幅に減少した。緊急事態宣言中は、市町村などで実施されるがん検診が中止や延期されたことがあったほか、その後もコロナ禍における感染不安があったり、困窮して費用を理由にためらったり、家族の在宅時間が増えることによって検診の時間がとれなかったりしたことが要因となり、受診率の低迷が続いている。
同協会によると、検診が減ったことによって、2020年のがん診断件数は、2019年と比べて9.2%減少していた。人数に換算すると、2020年は4万5000人の診断が見過ごされている可能性があることになる。また、診断時のステージごとの診断数を見ると、早期がんの診断が減少していた。早期に発見し、治療をするほど、治療成績が良いことを踏まえると、コロナ禍における検診や体調不良等による受診の敬遠によって、今後、がんが進行した状態で見つかるケースが増加することが懸念されている。
こういった状況から、「コロナ禍におけるがん検診受診動向(1)~国のがん検診受診政策・コロナ前までの動向1」では、国内におけるがん発症の動向とがん検診受診動向、受診率向上に向けた政策の概要を示した。また、「コロナ禍におけるがん検診受診動向(2)~受診阻害要因・推奨間隔での受診促進要因8」では、厚労省が推奨する5つのがん検診について、どういった人ががん検診を受診しているのか(いないのか)、がんに対する考え方やがんに関する知識の有無で受診動向は異なるか等について紹介した。本稿では、ニッセイ基礎研究所がおこなったインターネット調査を使って、新型コロナウイルスの感染拡大によって検診が減った人の特徴をみていく。
1 村松容子「コロナ禍におけるがん検診受診動向(1)~国のがん検診受診政策・コロナ前までの動向」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2022年3月1日)
2 村松容子「コロナ禍におけるがん検診受診動向(2)~受診阻害要因・推奨間隔での受診促進要因」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2022年3月3日)
2――分析方法
分析には、ニッセイ基礎研究所が実施した「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」のデータを使った。本調査は2020年6月に第1回にはじまり、おおむね3か月ごとに2021年12月までに計7回定期的に実施しているインターネット調査である。対象は、第1~4回までは20~69歳の学生を除く男女個人、第5~7回は20~74歳の学生を含む男女個人とした3。
本稿では、全7回とも回答をしている883人のうち、第7回調査で、「がん検診(自治体、職場・学校、自費によるもので、健診機関や会場等に出向いたり検体を持参するもの)」を新型コロナウイルスの感染拡大前に受けていたと回答した369人について分析を行った。
3 ニッセイ基礎研究所「2020・2021年度特別調査:新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64814?site=nli)
(1) がん検診受診動向
「がん検診(自治体、職場・学校、自費によるもので、健診機関や会場等に出向いたり検体を持参するもの)」に関して、感染拡大前後での行動の変化を尋ねた4。その結果、全7回とも回答している883人の31.6%が「感染拡大前から受けていて、この1~2年も受けている」、10.2%が「感染拡大前は受けていたが、この1~2年は減った」と回答していた。あわせて41.8%(369人)が感染拡大前にがん検診を受けており、残る58.2%は、感染拡大前から受けていなかった5(図表1)。
感染拡大前に検診を受けていた369人でみると、75.6%は検診を続けて受けており、24.4%がこの1~2年で検診が減ったと回答していた。
第1~6回は回答していない人も含めて、第7回の回答者全体(n=2543)でみると、順に29.1%、11.6%、55.2%、4.1%であり、今回の分析対象者と分布に大きな差はなかった。
4 新型コロナウイルスの感染拡大によって、受診率に影響があるとすれば、受診者が検診会場に出向くものであることから、本稿では会場に出向く検診の受診動向のみを扱った。検体を郵送する検診については、全体の16.5%が感染拡大前に受けており、9.6%が感染拡大後も受診、6.9%が感染拡大後は減っていると回答していた。
5 第1~6回は回答していない人も含めて、第7回の回答者全体(n=2543)でみると、順に29.1%、11.6%、55.2%、4.1%であり、今回の分析対象者と分布に大きな差はない。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、受診率が下がった理由として、自治体におけるがん検診が一部で中止や延期されるなどといった検診機関側の理由以外に、感染不安によって検診を敬遠したこと、自分自身や家族の生活時間の変化によって、検診の時間が確保できなかったことなど、受診者側の理由が考えられる。
そこで、本稿では、感染拡大前に検診を受けていて、感染拡大後も継続して検診を受けている人と、感染拡大前は受けていたがこの1~2年は検診が減った人を比較することで、どういった人で検診受診が減ったのか確認する。比較は、基本的な属性とコロナ禍における収入の減少、感染拡大にともなう不安、生活時間の変化、受療行動の変化について行った。
基本的な属性として、第7回調査(2021年12月)における性、年齢、ライフステージ、職業、世帯年収、健康状態で比較した。
ライフステージは、育児負担を考慮して、未婚・既婚で子どもなし/第1子誕生~第1子中学生以下/第1子高校生以上~末子独立前/末子独立・孫誕生の4つに分類した。職業は、公務員・会社員/自由業・自営業/パート・アルバイト/専業主婦(夫)・無職の4つに分類した。健康状態は、持病がある/妊娠中である/いずれもない/わからない・答えたくない、の4つに分類した。ここで持病とは、新型コロナウイルスのワクチンで優先接種対象とされた「心疾患・脳血管疾患・糖尿病・高血圧・呼吸器疾患」「免疫系の持病がある/免疫の機能を低下させる治療を受けている」「それ以外の持病」「肥満」とした。
また、コロナ禍における収入の減少があったかどうかは、第4回調査(2021年3月)と第6回調査(2021年9月)の2時点で尋ねている。本稿では、その2時点いずれも感染拡大前と比べて収入が「やや減った(1割未満)」、または「減った(1割以上)」と回答した人を収入が減少したとみなした。
調査では、感染拡大にともなう不安として、いくつかの項目を示し、第1回調査では調査時点と、最初の緊急事態宣言中の2時点について、第2~7回調査ではそれぞれ調査時点について、計8時点での不安の程度を、いずれも6段階(非常に不安/やや不安/どちらともいえない/あまり不安ではない/全く不安ではない/該当しない)で尋ねている。本稿では、8時点の不安が、いずれも「非常に不安」または「やや不安」と回答した人を、「不安がある」とみなした。
使用した不安項目は、感染そのものの不安として、「感染による健康状態の悪化」「感染が懸念されても適切な検査が受けられない」「感染しても適切な治療が受けられない」、感染そのものではないが、感染にともなう不安として「持病や新型コロナ以外の疾患などによる健康状態の悪化」「自分や家族の収入減少」「自分や家族が仕事を失う」の6つの項目である。なお、「持病や新型コロナ以外の疾患などによる健康状態の悪化」については、第2回調査から追加したため、6時点での結果である。
生活時間の変化については、検診の受診に関係がありそうな項目として、「仕事・学業時間」「家族と過ごす時間」「一人で過ごす時間」の増減を使用した。
調査では、生活時間についても計8時点での状況を6段階(増加/やや増加/変わらない/やや減少/減少/利用していない・該当しない)で尋ねており、このうち「増加」または「やや増加」を増加、「やや減少」または「減少」を減少したとみなした。生活時間については、8時点のいずれも増加、または減少している人はほとんどいなかったため、1時点でも該当するかどうかで判定した。
コロナ禍においては、感染不安や医療機関のひっ迫から、医療機関を敬遠する動きがあったことが報じられている。こういった状況を受けて、2020年4月に特例的な対応として、オンライン診療の対象が拡大されている。
本稿では、「家族や自分の通院が減少した」、「オンライン診療・オンライン処方が増加した」を使用した。これについても、8時点のうち1時点でも該当するかどうかで判定した。
3――分析結果
基本的な属性別にみると、男性よりは女性、高齢よりは若年で検診が減った人の割合が高かった。また、健康状態については「わからない・答えたくない」と回答していた人で検診が減った人の割合が高かった。ライフステージでは、第1子誕生~第1子高校入学未満の人で検診を継続していた。
感染拡大にともなう不安として、「感染による健康状態の悪化」に対して不安を感じていること、すなわち感染不安そのものでは、検診を控える傾向はみられなかった。しかし、受療行動として「家族や自分の通院を減少」した人では、検診も減っていた。
「自分や家族の収入減少」を不安に思っている人や、実際に、新型コロナウイルス感染拡大以降、収入が減少している人で検診が減っていた。一方、「感染しても適切な治療が受けられない」「持病や新型コロナ以外の疾患などによる健康状態の悪化」を不安に思っている人では検診を継続していた。
生活の時間の変化では、仕事・学業時間が増加した人、家族と過ごす時間が減少した人で検診に行かなくなっていた。一方、一人で過ごす時間に変化があった人(特に、一人で過ごす時間が増加した人)で検診を継続する傾向があった。
4――おわりに
今回の結果からは、「感染による健康状態の悪化」を不安に思っている人ではがん検診を控える傾向は確認できなかった。しかし、家族や自分の通院が減少していた人で、検診が減っていたこと、有意な差ではなかったが、オンライン診療・オンライン処方が増加した人で検診を減っている傾向があったことから、感染不安や医療機関のひっ迫への不安等から受診を控える人がいた可能性がある。
本人職業や世帯収入による大きな差はなかったが、収入が減少していたり、収入減少に対する不安があると、検診が減った人が多くなっていた。検診費用だけでも、支出を減らそうとしたこと、収入の減少という大きな不安があったために、検診が後回しになったこと等が考えられる。
また、仕事・学業時間が増加した人、家族で過ごす時間が減少した人で検診が減っており、一人で過ごす時間が増加した人で検診を継続していたことから、仕事や家事などで時間に余裕がなくなることで、検診時間を確保できなかった可能性が考えられた。しかし、一方で、有意差はなかったものの、仕事・学業時間が減少した人、家族で過ごす時間が増加した人でも全体と比べて検診が減っている傾向があったことから、生活時間に変化があると受診が後回しになる可能性も考えられる。
若いほど検診が減っている傾向があったことと、持病があったり妊娠・授乳中では検診を減らす傾向が見られなかったこと、および、「感染しても適切な治療が受けられない」「持病や新型コロナ以外の疾患などによる健康状態の悪化」を不安に感じている人では、受診を継続していたことから、自分自身の体調に気がかりなことが少ない人で、検診が減った可能性が考えられた。
収入不安など、別の大きな不安を抱えたり、生活時間が変わると、検診が後回しになる可能性がある。また、がんが身近でない世代に対しても、がんは特に早期に発見し、早期に治療をはじめることが重要であることを改めて周知し、検診の重要性を伝える必要があるだろう。
がんは、他の病気での通院をきっかけに見つかるケースも多くあるが、他の病気の通院を控えたことでがんの発見が遅れる可能性も指摘されている。今回の結果でも、検診を受けなくなった人は、通院も減っていたことから、通院が途絶えている人に対しては、まずは家庭内で受診再開を勧めたり、かかりつけ医でも受診の推奨やオンライン診療の案内などのサポートをしていくことが必要だろう。
(2022年03月04日「基礎研レポート」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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