2021年11月05日

OPECプラスが追加増産を拒否、原油価格はまだ上がるのか?

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2. 日銀金融政策(10月):円安への懸念払拭に苦慮

(日銀)現状維持
日銀は10月27日~28日に開催した金融政策決定会合において、金融政策の現状維持を決定した。長短金利操作、資産買入れ方針ともに変更なしであった。

同時に公表された展望レポートでは、景気の総括判断を「(内外における新型コロナウイルス感染症の影響から)引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」に据え置いた。ただし、個別項目では、輸出や生産、公共投資の判断を前月から下方修正する一方、個人消費の判断を上方修正している。政策委員の大勢見通し(中央値)では、緊急事態宣言の長期化や供給制約の影響を織り込んで2021年度の経済成長率を前回(7月時点)から下方修正する一方、2022年度の成長率をやや上方修正した。また、消費者物価(生鮮食品除き)については、基準改定を反映して2021年度の物価上昇率を大幅に下方修正したが、2022・23年度の見通しは据え置いた。この結果、見通し期間末である2023年度の物価上昇率は前年比1.0%に留まり、2%の物価目標に全く届かないとの見通しが維持されている。
 
会合後の会見で、黒田総裁は日本の消費者物価が米欧との対比で弱い動きとなっている背景について、(1)需要回復が遅れていたこと、(2)感染拡大時における雇用の維持によって速やかに供給を増やす余地が残されていること、(3)企業が原材料コスト上昇分の多くをマージンの圧縮によって吸収し、価格を可能な限り据え置こうとする傾向が根強く残っていることを挙げた。

その後は足元で進んだ円安の影響についての質問が相次いだ。黒田総裁は、円安の動向について、「為替レートは経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましく、現在の為替レートはその範囲内で動いていると思う」と問題視していないことを表明。円安の影響については、「円安によって輸出が増加する度合いは、企業の海外生産の拡大等を通じて従来よりも低下している」ものの、「円安が企業収益を押し上げる効果は、海外生産の拡大と海外子会社の収益増加等を通じてより大きくなっている」ため、「グローバル展開する企業が円安局面では賃上げや設備投資を積極化しやすいことを意味している」とその効果を説明する一方、内需型企業の収益や家計の実質所得に対する下押し圧力になり得ることにも言及。まとめとして、「円安がわが国経済全体に与える影響は様々な要素の相互作用で決まり、その時々の内外の経済・物価情勢によって変化し得る」ものの、「現時点の(若干の)円安が悪い円安だとか、日本経済にとってマイナスということはない」、「今進んだ若干の円安は総合的にみてプラスであることは確実」と前向きな見解を示した。
 
また、日銀が実施しているイールドカーブ・コントロールの為替への影響については、「イールドカーブ・コントロールが金利差を拡大することを通じて更なる円安をもたらすことは、可能性としてはあるとは思うが、(実際にそうなるかと問われると、)あまりそうはなりそうもないと思う」と述べた。

なお、足元の円の実質実効為替レートが、かつて2015年6月に黒田総裁が「実質実効為替レートについてさらに円安になることはありそうにない」と踏み込んだ発言をした水準に肉薄していることを受けて、今後さらに下がる可能性を問われた場面では、「水準について絶対的なノルム(法則)のようなものがあるわけではないので、具体的にコメントすることは差し控えたい」、「(事後的な経済分析に何か意味があるとしても、)事前の政策的な議論にとって何か意味があるとは思わない」と頑なに言及を避けた。
 
また、足元で世界的に問題になっている供給制約については、「供給制約はあくまで海外からのものであり、国内的には供給制約はあまりない」、「海外の供給制約が次第に剥落していくにつれて、わが国の経済も需要が増える限り供給も追い付いていくということになる」との認識を示した。
展望レポート(21年10月)政策委員の大勢見通し(中央値)/円の実質実効レートとドル円レート
(今後の予想)
今後の金融政策に関しては、日銀は大枠として、長期にわたって現行の金融緩和を続けると予想している。今回の展望レポートで示しているように、日本において原材料コストが販売価格に幅広く転嫁されて2%に向けて物価上昇率が大きく上昇する可能性は低い。またそうしたコストプッシュ型のインフレは日銀の目指す姿ではないため、出口戦略の開始はほど遠い。一方でマイナス金利の深掘りは副作用の増大が避けられないため物価上昇率を押し上げるために追加緩和を実施するという手も取りづらい。従って、日銀は「強力な金融緩和を粘り強く続けていく」という建前を掲げながら、現状維持を続けざるを得ない。金利の膠着が長期化するなど、副作用の緩和が十分に見られない場合には、政策をさらに微調整する可能性が出てくるが、緩和の大枠に影響はない。
 
なお、今回の会合では、円安進行に対する日銀の苦悩が垣間見えた。今後も円安が進み、賃金が上がらない中で家計の負担感が強まれば、日銀の金融緩和継続に対する批判に繋がる恐れがある。とはいえ、円安をけん制した場合には、想定以上に円高に振れてデフレ圧力がぶり返す懸念がある。従って、日銀としては、現在の円安は日本経済にとってプラス面の方が大きいとの見解を強調して世論の不安を抑えつつ様子を見るという判断をしたと考えられる。ただし、日銀は、円安の影響というのは「その時々の内外の経済・物価情勢によって変化し得る」としているだけに、今後も大幅な円安が進む場合には、円安けん制姿勢に転じる可能性がある。従って、円相場の動向とそれに対する日銀の姿勢は引き続き注目点になる。

3. 金融市場(10月)の振り返りと予測表

3. 金融市場(10月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
10月の動き 月初0.0%台半ばでスタートし、月末は0.1%付近に。
月初から、原油価格上昇・インフレ懸念に伴う米金利上昇に加え、岸田政権発足に伴う国債増発懸念が金利上昇圧力となり、11日には0.1%の節目に接近した。その後はIMFの世界経済見通し下方修正や米PPI鈍化などを受けて一旦上昇が一服し、しばらく0.1%をやや下回る水準での推移が継続。月終盤には、米インフレ懸念や国債増発懸念がまたも意識され、25日に0.1%に上昇。月末も0.1%付近で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(10月)
(ドル円レート)
10月の動き 月初111円台半ばでスタートし、月末は113円台後半に。
月初、中国不動産大手の経営危機、米債務上限問題、米インフレ懸念によってリスクオフの円買いが入り、5日に110円台後半に。その後は債務上限問題の先送りが決まったほか、原油や天然ガスなどのエネルギー高に伴って米金利上昇と日本の貿易赤字拡大観測が強まり円安が進行、12日には113円台半ばに上昇した。さらに、その後も原油高が続いたうえ良好な米経済指標もあり、円安ドル高の流れが継続、20日には114円台半ばに到達した。月終盤は米金利の上昇一服や利上げ前倒し観測の高まった他通貨に対するドル売りなどからドルが弱含み、月末は113円台後半で着地した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
10月の動き 月初1.16ドル付近でスタートし、月末は1.16ドル台半ばに。
月初、米インフレ観測に伴う米金利上昇や米欧金融政策の格差を受けてユーロが売られ、6日に1.15ドル台半ばへと下落し、以降しばらく1.15ドル台での推移が続いた。その後は世界的な株価上昇局面にリスク選好的なユーロ買いが入ったほか、英早期利上げ観測に伴うポンド高が同じ欧州通貨であるユーロの上昇圧力になったことで19日には1.16ドル台半ばに上昇した。月終盤も米利上げ早期化観測で下落する場面があったものの、ECB理事会後のインフレ見通しに関するラガルド総裁発言がタカ派的と受け止められたことがユーロの支えとなり、月末も1.16ドル台半ばで終了した。
金利・為替予測表(2021年11月5日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年11月05日「Weekly エコノミスト・レター」)

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