2021年10月15日

かかりつけ薬剤師・薬局はどこまで医療現場を変えるか-求められる現場やコミュニティでの実践、教育や制度の見直し

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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3――かかりつけ薬剤師・薬局が制度化された経緯

図2:かかりつけ薬剤師の登場回数 1|突然浮上したことを示す数字
実は、政策形成過程で「かかりつけ薬剤師」「かかりつけ薬局」という言葉が一般的に使われるようになったのは最近に過ぎない。図2は国立情報学研究所が提供する「CiNi」(NII学術情報ナビゲータ)、国立国会図書館が運営する「国会会議検索録システム」、さらに『朝日新聞』、『日本経済新聞』、『読売新聞』のデータベースで、「かかりつけ薬剤師」という言葉がヒットした回数の年次別推移である。

これを見ると分かる通り、2016年に増えた様子を読みとれる(国会会議録で2019年の件数が増えているのは先に触れた改正薬機法の審議による影響と思われる)。確かに当時の経緯を振り返ると、かかりつけ薬剤師・薬局の制度化論議は些か唐突に浮上した。その契機は2015年の規制改革会議の指摘だった。
2|規制改革会議の議論
医薬分業に見合うメリットを感じていないのではないか――。政府の規制改革会議は2015年3月の公開ディスカッションで、医師と薬剤師の仕事を分離する「医薬分業」の見直しを提起した。ここで言う医薬分業とは、「医師は処方箋、薬剤師は調剤・服薬指導」と両者の業務を分けることで、薬の副作用や安全性などについて薬剤師がチェックできる体制を指す。医薬分業の歴史的な経緯の詳細は後段で述べるとして、規制改革会議は2015年6月の第3次答申で下記のように指摘した。
 
・医薬分業においては、薬剤師が処方医とは独立した立場で患者に対する薬学的管理を行う必要がある。このため保険薬局と保険医療機関は、一体的な経営だけでなく、一体的な構造も禁止され、公道等を介さずに専用通路等により患者が行き来する形態であってはならないとされている。

・患者の利便性に配慮する観点から、保険薬局と保険医療機関の間で、患者が公道を介して行き来することを求め、(略)その結果フェンスが設置されるような現行の構造上の規制を改める。

ここでのポイントは「フェンス」だった。当時、医薬分業を物理的に担保するため、病院と同じ敷地に薬局を設置することを禁じる規制が導入されていた。このため、規制改革会議は「車いすを利用する患者や高齢者等に過度な不便を強いているのではないかとの指摘がある」と論じた。結局、フェンスの規制は2016年10月から部分的に見直された。

さらに、規制改革会議が医薬分業の有効性にまで疑問を投げ掛けたことで、厚生労働省は「防戦」を強いられた。しかも、当時は薬剤服用歴管理指導料の加算を取得しているのに、薬歴を記載していない不正請求など薬局を巡る不祥事が続発したことで、日本医師会(日医)から医薬分業の意義について疑問が寄せられていた8。こうした状況の下、規制改革会議の第3次答申では、「地域包括ケアの中でチーム医療の一員として専門性の発揮が期待されている『かかりつけ薬局』については、その要件を明確化する」と定められるに至った。
 
8 2012年4月に会長に就いた日医の横倉義武氏は「医薬分業で医療費がどれだけ伸びているのかも検討しなければならない。本当に医薬分業が国民のためになっているのかを考える必要がある」と述べていた。2012年4月4日『m3.com』配信記事。
3|患者のための薬局ビジョン
さらに規制改革会議の議論と並行する形で、厚生労働省は薬剤師・薬局の業務見直しを進めた。2015年10月には「患者のための薬局ビジョン」(以下、薬局ビジョン)を公表し、薬剤師・薬局の業務見直しに関して、(1)立地から機能へ、(2)対物業務から対人業務へ、(3)バラバラから一つへ――という3つを掲げた。これは現在の制度改正論議にも通じる報告書なので、少し丁寧に見て行こう。

1番目の点については、薬局ビジョンはサブ見出しに「『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ」という表現を用いている通り、医療機関の目の前に立地することで患者を獲得する「門前薬局」からの転換を促した。具体的には、「門前薬局など立地に依存し、便利さだけで患者に選択される存在から脱却し、薬剤師としての専門性や、24 時間対応・在宅対応等の様々な患者・住民のニーズに対応できる機能を発揮することを通じて患者に選択してもらえるようにする」と指摘した。

2点目について、薬局ビジョンは「患者に選択してもらえる薬剤師・薬局となるため、専門性やコミュニケーション能力の向上を通じ、薬剤の調製などの対物中心の業務から、患者・住民との関わりの度合いの高い対人業務へとシフトを図る」と強調した。

イメージとしては、処方箋を受け取った後の調剤だけでなく、▽処方内容チェック(重複投薬、飲み合わせ)、▽医師への疑義照会、▽丁寧な服薬指導、▽在宅訪問での薬学管理、▽副作用・服薬状況のフィードバック、▽処方提案、▽残薬解消――といった業務を挙げた。

3番目の「バラバラから一つへ」では、「患者・住民がかかりつけ薬剤師・薬局を選択することにより、服薬情報が一つにまとまり、飲み合わせの確認や残薬管理など安心できる薬物療法を受けることができる」「薬剤師・薬局が調剤業務のみを行い、地域で孤立する存在ではなく、かかりつけ医を始めとした多職種・他機関と連携して地域包括ケアの一翼を担う存在となる」と定めた。

要約すると、門前薬局を中心に調剤業務で報酬を稼ぐビジネスモデルではなく、患者とのコミュニケーションを通じた丁寧な服薬指導とか、医師や介護職との連携を通じた在宅ケアの支援、多剤投与や残薬解消など、患者個人のニーズに合わせた業務を強化するよう訴えたわけだ。その際には患者が複数の薬剤師にかかっていると、継続的な服薬指導や薬学管理などが難しくなるため、かかりつけ薬剤師・薬局が一元的に対応することを重視したと言える。

別の角度で見ると、薬剤師の業務や薬局の機能を多様化させる狙いも読み取れる。2017年に公表された国の委託調査報告書9によると、「薬局は何をするところか」という問いに対し、国民の9割以上が「医師から処方された薬を受け取るところ」と答えていたが、「薬剤師=薬を出してくれる人」「薬局=薬を出してくれる場所」という国民の意識を変えるような行動変容を薬剤師、薬局に迫っていると言える。その際には「門前薬局」に代表される通り、医療機関からのアクセス性だけで選ばれている薬局の機能を多様化させる意図も看取できる10

しかも、規制改革会議の指摘は直接的な引き金に過ぎず、通奏低音に流れる社会的な背景にも注目する必要がある。以下、(1)薬局調剤費の適正化の必要性、(2)多剤投与、残薬の解消の必要性、(3)「生活モデル」への転換の必要性――の順で説明する。
 
9 みずほ情報総研(2017)「患者のための薬局ビジョン実現のための実態調査報告」を参照。「薬局は何をするところか」という問いに対し、「医師から処方された薬を受け取るところ」という回答が94.8%、「医師から処方された薬について説明するところ」という答えが76.2%であり、以下は「薬について相談するところ」は64.5%、「自分の服用している薬に重複した薬がないかどうかや、相互作用を確認するところ」は56.0%、「自分の服用している薬やアレルギー歴などの情報を管理するところ」は45.4%という答えの順番だった。複数回答可。回答者数は2,025人。
10 同上の調査では、利用した薬局を選んだ理由を尋ねる質問(複数回答可)に対し、「以前からよく利用している薬局だから」という回答が55.5%、「受診している病院・診療所から近いから」という回答が51.5%だった。回答者数は2,025人。

4――かかりつけ薬剤師・薬局が制度化された社会的な背景

4――かかりつけ薬剤師・薬局が制度化された社会的な背景

図3:薬局調剤費の推移 1|薬局調剤費の適正化の必要性
第1に、薬局調剤費の適正化の必要性である。保険財政からの支出を示す国民医療費のうち、薬局調剤医療費は図3の通り、2016年度まで右肩上がりの基調で増加しており、国民医療費に占めるシェアも伸びていた。こうした状況の下、かかりつけ薬剤師が制度化された背景として、薬局調剤医療費を抑制したいという思惑があったことは間違いない。実際、規制改革会議による2015年3月の公開ディスカッションでは、健康保険組合連合会や日医が医薬分業を再考する必要性を指摘する際、薬局調剤医療費の増加に言及していた。

なお、2015年度を境にして、薬局調剤医療費の金額と、国民医療費に占めるシェアが低下している点については、特殊要因と制度的な要因が考えられる。2016年度については、C型肝炎治療薬が登場したことに伴って2015年度の医療費が大きく伸びた反動に伴う減少と考えられる。

2018年度の減少に関しては、診療報酬の薬価引き下げに加えて、既述した通り、かかりつけ薬剤師指導料の導入など調剤報酬の改革が奏功した可能性が想定される。例えば、2018年度の薬局調剤医療費は前年度の7兆8,108億円から7兆5,687億円に減っており、65歳以上の薬局調剤医療費も4兆5,523億円から 4兆3,826億円に減少した。

なお、2年に1回の頻度で見直されていた薬価は2021年度以降、毎年改定される予定であり、この後も同じ傾向が続くか見極める必要がある。
2多剤投与、残薬の解消の必要性
第2に、主に高齢者に対する多剤投与、残薬の解消である。厚生労働省が2019年6月に公表した「高齢者の医薬品適正使用の指針」では、65~74 歳の3割と75歳以上の4割でそれぞれ5種類以上の薬剤が処方されている統計が示されている。さらに、1,890薬局から5,447人分の患者データを収集した研究11でも内服薬数の中央値は7種類に上り、めまいや立ちくらみなどの副反応は14.4%の患者に見られたという。

こうした状況の下、既述した薬局ビジョンでは「患者が副作用等の継続的な確認を受けられたり、多剤・重複投薬や相互作用が防止されるようにするためには、かかりつけ薬剤師・薬局に、服薬情報を一元的・継続的に把握してもらい、それに基づき適切な薬学的管理や指導を受けることが非常に重要」との認識が披露されており、かかりつけ薬剤師指導料などの要件にも反映されている。

多剤投与、残薬の解消については、別の制度改正でも意識されている12。例えば、2021年度から本格始動したデータに基づく介護を目指す「科学的介護」では、科学的介護推進体制加算の要件として事業所や施設にデータ提出を義務付ける情報に「服薬情報」が含まれている。さらに、在宅復帰などを支援する介護老人保健施設(老健)に関する「かかりつけ医連携調剤調整加算」でも、かかりつけ医と連携しつつ、かかりつけ医と老健の医師が連携した結果、6種類以上の内服薬を1種類以上減少させた場合、加算を受け取れる類型が創設されている。
 
11 恩田光子ほか(2016)「在宅患者における薬物治療に伴う副作用」『薬剤疫学』21巻1号。
12 2021年度介護報酬改定に関しては、2021年5月14日拙稿「2021年度介護報酬改定を読み解く」、科学的介護に関しては、202年9月15日拙稿「科学的介護を巡る『モヤモヤ』の原因を探る」を参照。
3生活モデルへのシフトの必要性
さらに、在宅ケアを中心とした「生活モデル」へのシフトも意識されている。生活モデルとは、個人と環境の関係性に着目しつつ、その双方に関わることで、自宅を中心とした暮らしを支える医療の考え方であり、一般的に病気の治癒・治療を重視する「医学モデル」と対置される。具体的には、医学モデルでは病院を中心とした病気の治癒や延命が意識されていたのに対し、生活モデルでは患者と患者を取り巻く環境の双方に配慮しつつ、自宅を中心としたケアが重視される。その際には、医師を中心にしたヒエラルキー構造で提供される医療ではなく、多職種による連携が重要になり、ここに薬剤師が関わる重要性が意識されている。

以下、事例で考えて見よう。例えば、軽度な認知症が疑われるものの、身体機能は衰えておらず、自分で病院やスーパーにも行ける高齢者の在宅ケアを意識すると、医師による認知機能の検査・診断や介護保険サービスを使った日常生活の支援だけでなく、互助組織と連携した見守り活動、その高齢者が日常的に使っているスーパー、交通機関との意思疎通など、様々な関係者との連携が必要になる。

では、こうした中で、薬剤師の専門性はどこで期待できるだろうか。従来は薬の正確な調剤とか、薬の飲み忘れを防ぐ「一包化」(服薬する薬を1回ずつまとめて小さな袋に小分けすること)が中心だったかもしれないが、多職種連携が必要な局面では「薬が体内に入った後の専門家」13として、在宅での薬歴管理や服薬指導を通じて、薬の飲み合わせから起因する副反応の把握、その場合の処方変更の提案や多剤投与・残薬解消などで関わる余地が生まれる。その際には、地域ケア会議など多職種が集まる会議に出席し、医師や看護師、リハビリテーション職、ケアマネジャーなどと情報を交換することも求められる。

この点については、薬局ビジョンで「地域で在宅医療を含めた必要な医療や在宅介護サービスを受けるようになることを考慮すると、地域包括ケアが推進される中で、やがては多くの住民が地域の身近な薬剤師・薬局をかかりつけ薬剤師・薬局として選択していくことになる」と言及されている点とか、各種制度に在宅ケアの支援や多職種連携が要件とされている点からも見て取れる。

言い換えると、背景としての生活モデルの重要性を意識しなければ、かかりつけ薬剤師・薬局の重要性は十分に認識されないまま、単に「診療報酬の加算を取るため、どうするか」「地域連携薬局の認定を取るための要件は何か」といった些末な議論に終始しかねない。

後述する通り、実は筆者が危惧しているのは、こうした状況であり、かかりつけ薬剤師・薬局は地域医療の現場を変える可能性を有している反面、疑問を持たざるを得ない面もある。次に「かかりつけ薬剤師・薬局が機能を果たせるのか」という点について議論を深めることにする。
 
13 狭間研至(2015)『薬局マネジメント3.0』評言社の記述を参考にした。

5――かかりつけ薬剤師・薬局の可能性

5――かかりつけ薬剤師・薬局の可能性

1|薬剤師の権限
まず、薬剤師が他の医療専門職と比して、強い権限を有している点を指摘できる。例えば、薬剤師の権限は医師や看護師などと並んで業務独占であり、理学療法士、作業療法士など名称独占となっている他の専門職と異なる。

さらに、薬剤師法を読むと、処方箋に疑義がある場合、その処方箋を交付した医師、歯科医師に問い合わせるだけでなく、「その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない」(第24条)と定められており、こうした権限は「医師の指示」の下で動くことが原則として義務付けられている他の専門職と比べると、強い権限と独立性を有している。この点は薬剤師が地域医療に貢献する強みとして働くと期待できる。
2|薬剤師の数
さらに薬剤師の多さもプラスとなる要素である。厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、2018年度現在で薬剤師の数は31万1,289人であり、これは医師の数(32万7,210人)とほぼ同じである。この数には企業で働く研究職なども含んでおり、全てが薬局で勤務しているわけではないが、それでも薬局には約18万人が勤務しており、その多さは強みになる可能性がある。
3|関連する制度での貢献
既に述べた通り、かかりつけ薬剤師・薬局への期待として、服薬指導の充実や多剤投与の解消、在宅ケアへの参画などが論じられているが、これら以外の制度改正でも貢献できる余地は大きい。

例えば、政府は健康づくりに関して、薬局で買える医薬品(いわゆるOTC医薬品)を上手に利用して自分で手当てする「セルフメディケーション」に期待しており、これを後押しする優遇税制14も2017年から創設されている。こうした健康相談に関して、薬剤師や薬局が関われる余地は考えられる。

さらに医療提供体制改革でも、薬剤師・薬局が関われる余地が考えられる15。例えば、急性期病床の削減などを目指す「地域医療構想」とか、医師の残業時間を減らす「医師の働き方改革」が進められている中、需要面から医療機関や医師の負担を減らす16観点に立ち、患者の適切な受診勧奨が重視されており、薬剤師や薬局の関与が期待される。

実際、健康づくりや受診勧奨に関して、東京都の地域医療構想では「日常的な診療、処方、服薬管理及び健康管理等を行い、必要な場合には専門的な医療につなぐ役割」「適切な受療⾏動を促すため、高度医療提供施設の役割や機能などを分かりやすく情報提供(筆者注:の推進)」を担う主体の一つとして、かかりつけ医17とともに、かかりつけ薬剤師が言及されている。
 
14 セルフメディケーション税制では、特定の医薬品を購入した場合、所得控除を受けられる。
15 提供体制改革のうち、地域医療構想については、2017年11~12月の「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く」(全4回、リンク先は第1回)、2019年5~6月の拙稿「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」(全2回、リンク先は第1回)、2019年10月31日「公立病院の具体名公表で医療提供体制改革は進むのか」、2020年5月15日「新型コロナがもたらす2つの『回帰』現象」。併せて、三原岳(2020)『地域医療は再生するか』医薬経済社も参照。医師の働き方改革に関しては、2021年6月22日拙稿「医師の働き方改革は医療制度にどんな影響を与えるか」を参照。
16 この関係で厚生労働省は現在、患者に適切な受療を促す「上手な医療のかかり方」を提唱している。その論点などについては、2020年2月5日拙稿「『上手な医療のかかり方』はどこまで可能か」を参照。
17 かかりつけ医の論点に関しては、2021年8月16日拙稿「医療制度論議における『かかりつけ医』の意味を問い直す」を参照。地域医療構想を考察する連載の2017年12月8日拙稿「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(4)」も参照。
4研究や実践例
こうした薬剤師・薬局の新たな機能について、今後の発展を期待されるような研究や実践が少しずつ蓄積されつつある。例えば、かかりつけ薬剤師指導料がスタートした直後の研究18では、かかりつけ薬剤師に期待するサービスとして、病気や健康の助言、地域の医療機関や介護施設の紹介、薬の情報の記録・管理が挙がっていた。さらに、かかりつけ薬剤師指導料の同意取得率を高める要因として、薬局が閉まっている時間帯での相談対応、地域の病院・診療所や介護施設の紹介、自宅訪問による薬の説明や管理、残薬の整理といった活動が背後要因として抽出できるという実証も示されている19

実践に関しては、厚生労働省のウエブサイトでは好事例として、▽在宅における残薬解消に向けた資材キットの整備(埼玉県)、▽会員薬局による休日当番を輪番で回す取り組み(千葉県松戸市)、▽多剤投与の解消に向けた病院薬剤師と薬局薬剤師の連携(新潟県)、▽行政と薬剤師会の連携による糖尿病重症化予防の取り組み(長野県松本市)、▽地域の現状や足りない機能を明らかにすることで、薬剤師や薬局の自主的な対応を促す「薬局版地域医療構想」(京都府)、▽多職種連携による分割調剤を通じた服薬指導の充実(岡山県)、▽高血圧対策などに取り組む薬局を認定する県独自の「健康づくり支援薬局」制度、多剤投与の解消を目指す「在宅服薬支援事業」の取り組み(高知県)、▽電子版お薬手帳の導入助成(沖縄県)――などが紹介されている20

このほか、広島市や茨城県那珂市では残薬解消に向けて薬剤師と自治体の連携が進められているほか、約3カ月間に及ぶ延べ5,748人に対する服薬指導や薬歴管理の徹底を通じて計949万円の薬剤費を節減できた青森県薬剤師会の事例も報じられている。岡山市は薬剤師の在宅での服薬指導や残宅解消などに取り組む薬局を認定する独自の「在宅介護対応薬局」を2013年度から開始しているほか、高齢者の残薬解消に向けたケアマネジャーと薬剤師による茨城県古河市の連携事例、新型コロナウイルスへの対応として受診相談などに取り組む静岡県内の薬局による事例、生活雑貨の量販店に薬局や健康関連商品などを販売する「まちの保健室」を設置した事例もメディアに取り上げられている21

こうした事例が各地で広がれば、「薬剤師=薬を出してくれる人」「薬局=薬を出してくれる場所」という国民の意識が変わる可能性もある。かかりつけ薬剤師の制度を認識することで、お薬手帳の提示や処方の一元化など、患者の行動に変化が見られたという研究結果も出ている22

しかし、国が描いているような展望、あるいは筆者が上記で挙げた期待が実現するかどうか、疑問を持たざるを得ない面もある。以下、制度が必ずしも広がっていない定着度から見た疑問、医薬分業の歴史から見た疑問、さらに技術革新から見た疑問の順で考察する。
 
18 佐藤健太ほか(2016)「患者が求めるかかりつけ薬剤師とは」『調剤と情報』Vol.22 No.14。
19 堀井徳光ほか(2021)「かかりつけ薬剤師指導料算定同意に影響をおよぼす薬剤師のサービス」『医薬品情報学』23 巻 1 号。
20 好事例に関しては、厚生労働省ウエブサイトに掲載されている2017~2018年度「患者のための薬局ビジョン実現に資するテーマ別モデル事業」、2016年度「患者のための薬局ビジョン実現のためのアクションプラン検討事業」に加えて、地域包括ケアに関する「市町村職員を対象とするセミナー」の第138回と第128回を参照。
21 メディアに取り上げられた事例については、2021年7月22日『新潟日報』、2021年4月3日『中国新聞』、2020年5月13日『静岡新聞』、2020年5月4日・2018年10月6日『茨城新聞』、2018年8月30日『朝日新聞』、2018年4月5日『山陽新聞』を参照。
22 堀井徳光ほか(2021)「かかりつけ薬剤師制度認識前後のかかりつけ薬剤師の役割に対する患者の行動変化」『薬局薬学』13 巻 1 号。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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