2021年07月30日

米GDP(21年4-6月期)-前期比年率+6.5%と前期(同+6.3%)から上昇、市場予想(同+8.4%)は下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:成長率は前期から小幅上昇も市場予想は下回る

7月29日、米商務省の経済分析局(BEA)は21年4-6月期のGDP統計(1次速報値)を公表した。4-6月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率1で+6.5%(前期:+6.3%)と前期から小幅ながら上昇した(図表1・2)。もっとも、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の同+8.4%は下回った。この結果、4-6月期の実質GDPの水準は新型コロナ流行前(19年10-12月期)を0.8%上回った。
(図表1)米国の実質GDP成長率(寄与度)/(図表2)米国のGDP(項目別)
4-6月期の成長率を需要項目別にみると、個人消費が前期比年率+11.8%(前期:+11.4%)と前期に続き2桁の伸びを維持したほか、民間設備投資が+8.0%(前期:+12.9%)と前期から伸びは鈍化したものの、好調を維持した(図表2)。

一方、住宅投資が▲9.8%(前期:+13.3%)と4期ぶりにマイナスに転じたほか、政府支出も▲1.5%(前期:+4.2%)と前期からマイナスに転じた。

また、在庫投資の成長率寄与度が▲1.13%ポイント(前期:▲2.62%ポイント)とマイナス幅は縮小したものの、2期連続のマイナスとなったほか、外需の成長率寄与度も▲0.44ポイント(前期:▲1.56%ポイント)とこちらもマイナス幅は縮小したものの、4期連続でマイナスとなり、成長を押し下げた。

このように当期は新型コロナの感染者数の減少や経済活動制限の緩和、家計への直接給付などの経済対策効果によって個人消費が好調を維持したほか、設備投資も堅調となった一方、住宅在庫不足や住宅価格の上昇から住宅市場が悪化に転じたほか、経済対策効果の剥落から政府支出がマイナスに転じるなど、マチマチの展開となった。
 
1 以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。

2.結果の詳細:

(個人消費・個人所得)個人消費は財消費からサービス消費へシフト
4-6月期の個人消費は、財消費が前期比年率+11.6%(前期:+27.4%)と2桁の伸びを維持したものの、前期から伸びが鈍化した一方、サービス消費が+12.0%(前期:+3.9%)とこちらは前期から大幅に伸びが加速して消費全体を押し上げた(図表3)。財消費では、耐久財が+9.9%(前期:+50.0%)、非耐久財が+12.6%(前期:+15.9%)と堅調を維持も伸びは鈍化した。

耐久財では、自動車・自動車部品が+14.4%(前期:+58.0%)、娯楽・スポーツカーが+9.0%(前期:+40.4%)と大幅な伸びとなった前期から伸びが鈍化したほか、家具・家電が▲1.3%(前期:+49.7%)と前期からマイナスに転じた。

非耐久財は、ガソリン・エネルギーが+34.3%(前期:+5.7%)と前期から伸びが加速したほか衣料・靴が+34.4%(前期:+35.9%)と前期並みの高い伸びを維持した。一方、食料・飲料が+2.4%(前期:+18.3%)、とこちらは前期から伸びが大幅に鈍化した。

サービス消費は、住宅・公共料金が+0.8%(前期:+1.9%)と前期から小幅ながら伸びが鈍化したほか、金融サービスが+4.6%(前期:+4.7%)と前期並みの伸びとなった。一方、医療サービスが+4.8%(前期:▲4.3%)、と前期からプラスに転じたほか、輸送サービスが+37.6%(前期:+5.5%)、娯楽サービスが+42.9%(前期:+27.7%)、飲食・宿泊サービスが+67.7%(前期:+32.9%)といずれも前期から大幅に伸びが加速した。経済活動制限の緩和により、これまで回復が遅れていた対面型サービス消費で顕著な回復がみられた。

実質可処分所得は前期比年率▲30.6%(前期:+57.6%)と1950年以降で最大の伸びとなった前期から大幅なマイナスに転じた(図表4)。これは経済対策に伴う家計への直接給付の大宗が3月までに実施された反動とみられる。

一方、消費が顕著な回復を維持する一方、可処分所得が減少したことで、貯蓄率は10.9%(前期:20.8%)と前期から▲9.9%ポイント低下した。
(図表3)米国の実質個人消費支出(寄与度)/(図表4)米国の実質可処分所得伸び率と貯蓄率
(民間投資)設備機器投資、知的財産投資が好調を維持
4-6月期の民間設備投資の内訳は建設投資が前期比年率▲7.0%(前期:+5.4%)と前期からマイナスに転じた一方、設備機器投資が+13.0%(前期:+14.1%)、知的財産投資が+10.7%(前期:+15.6%)と前期から鈍化したものの、堅調な伸びを維持した(図表5)。
(図表5)米国の実質設備投資(寄与度)と実質住宅投資 建設投資では、資源関連が+32.8%(前期:+81.5%)と前期からは鈍化も高い伸びを維持した一方、商業・医療が▲11.0%(前期:+0.8%)、製造業が▲10.3%(前期:+18.4%)と前期からマイナスに転じた。さらに、電力・通信が▲14.0%(前期:▲6.4%)と前期からマイナス幅が拡大した。

設備機器投資は、情報処理関連が▲6.1%(前期:+26.0%)と前期からマイナスに転じた一方、産業機器が+31.7%(前期:+7.2%)、輸送機器が+53.6%(前期:+7.6%)と前期から伸びが加速するなど、マチマチの結果となった。

知的財産投資では、ソフトウエアが+10.5%(前期:+26.4%)と前期から鈍化も2桁の伸びを維持したほか、研究・開発が+11.2%(前期:+9.7%)、娯楽・文学等が+8.2%(前期:+0.0%)と前期から伸びが加速した。

最後に住宅投資は、集合住宅が前期比年率+15.6%(前期:+22.7%)と2桁の伸びを維持した一方、戸建てが+2.6%(前期:+30.3%)と前期から大幅に伸びが鈍化した。
(図表6)米国の実質政府支出(寄与度) (政府支出)連邦政府支出は国防、非国防ともに減少
4-6月期の政府支出の内訳は、州・地方政府が前期比年率+0.8%(前期:▲0.1%)と前期からプラスに転じた一方、連邦政府が▲5.0%(前期:+11.3%)と2桁の伸びとなった前期からマイナスに転じて、政府支出全体を押し下げた(図表6)。

連邦政府支出では、国防関連支出が▲0.8%(前期:▲5.8%)と2期連続でマイナスとなったほか、非国防支出も▲10.4%(前期:+40.8%)と大幅な伸びとなった前期からマイナスに転じた。
(貿易)輸出入ともに輸送サービス、旅行サービスの回復が顕著
4-6月期の輸出入は輸出が前期比年率+6.0%(前期:▲2.9%)と前期からプラスに転じたほか、輸入が+7.8%(前期:+9.3%)と前期から伸びが鈍化した。当期は外需の成長率寄与度がマイナスとなったが、輸入額が輸出額を上回ったことが大きい。

輸出を仔細にみると、財輸出が前期比年率+5.7%(前期:▲1.4%)、サービス輸出が+6.7%(前期:▲6.0%)といずれも前期からプラスに転じた(図表7)。

財輸出では、食料・飲料が前期比年率▲31.8%(前期:▲22.3%)、自動車関連が▲25.4%(前期:▲11.5%)と前期からマイナス幅が拡大した。一方、工業用原料が▲1.8%(前期:▲6.3%)とマイナス幅が縮小したほか、消費財(食料、自動車関連除く)が+37.8%(前期:▲2.8%)と前期からプラスに転じた。さらに、資本財(自動車関連除く)が+31.1%(前期:+16.3%)と前期から伸びが加速した。

サービス輸出では、輸送が+39.1%(前期:+6.3%)、旅行が+79.9%(前期:+54.3%)といずれも前期から大幅に伸びが加速した。

一方、輸入は、財輸入が+5.8%(前期:+10.6%)と前期から伸びが鈍化した一方、サービス輸入が+19.3%(前期:+2.2%)と前期から伸びが加速した(図表8)。

財輸入では、資本財(自動車関連除く)が前期比年率+13.4%(前期:+24.0%)と前期から鈍化したものの、2桁の伸びを維持したほか、食料・飲料が+30.2%(前期:+1.4%)と前期から伸びが加速した。また、工業用原料が+9.2%(前期:+9.2%)と前期並みの伸びを維持した。一方、自動車関連が▲15.6%(前期:▲24.1%)とマイナス幅が縮小したものの前期に続き2桁のマイナスとなったほか、消費財(食料、自動車関連除く)が▲3.1%(前期:+31.0%)と前期からマイナスに転じた。

サービス輸入は、輸送が+27.0%(前期:+23.2%)と小幅ながら前期から伸びが加速したほか、旅行が+343.3%(前期:+27.2%)と前期から大幅に伸びが加速した。
(図表7)米国の実質輸出(寄与度)/(図表8)米国の実質輸入(寄与度)
(物価・名目値)PCE価格指数は総合、コアともに前期比、前年同期比ともに前期から大幅上昇
4-6月期のGDP価格指数は前期比年率+6.0%(前期:+4.3%)と前期から上昇したほか、市場予想(同+5.4%)も上回った。この結果、名目GDP成長率は前期比年率+13.0%(前期:+10.9%)となった(図表9)。

一方、FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数2は、前期比年率+6.4%、前年同期比+3.8%(前期:+3.8%、+1.8%)と前期比、前年同期比ともに前期から大幅に上昇した(図表10)。前期比は82年7-9月期(同+6.5%)以来、前年同期比はFRBの物価目標(2%)を大幅に上回り、08年7-9月期(同+3.9%)以来の水準となった。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数は、前期比年率+6.1%、前年同期比+3.4%(前期:+2.7%、+1.7%)と、こちらも前期比、前年同期比ともに前期から大幅に上昇する結果となった。前期比は82年7-9月期(同+6.5%)、前年同期比はこちらも物価目標を大幅に上回り、91年10-12月期(同+3.4%)以来の水準となった。
(図表9)米国の名目と実質の成長率/(図表10)米国のPCE価格指数伸び率
 
2 現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の10-12月期における前年同期比が公表されている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年07月30日「経済・金融フラッシュ」)

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