2021年07月29日

米FOMC(21年7月)-予想通り、金融政策を維持。声明でテーパリング開始条件の達成に向けた進展を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、実質ゼロ金利、量的緩和政策を維持、雇用最大化と物価安定でテーパリング開始条件の達成に向けた進展を示唆

連邦公開市場委員会(FOMC)が7月27-28日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、現行の実質ゼロ金利、量的緩和政策の維持を全会一致で決定した。一方、今回発表された声明文では、景気の現状判断部分で、経済活動と雇用の回復持続を示唆した上で、パンデミックで最も影響を受けたセクターについて完全には回復していないものの、前回会合の「依然として弱い」から「改善がみられた」と上方修正された。また、量的緩和政策に関して(雇用の最大化と物価安定の目標)について、「経済はこれらの目標に向けて進んでおり、今後の会合で引き続き進展を評価する」との表現が追加され、テーパリング開始条件の達成に向けた進展がみられたことが示された。金融政策のフォワードガイダンスに変更はなかった。

なお、今回会合でオーバーナイト金利の抑制を目的とした、プライマリーディーラーなどの国内企業向けと、海外中銀向けの常設レポ・ファシリティの創設が発表された。

2.金融政策の評価:テーパリング開始条件に向けた進展が示されるなどタカ派的な内容

政策金利や量的緩和政策に変更がなかったことは予想通り。また、声明文の景気判断の変更にも違和感はない。一方、前述のように量的緩和政策についてテーパリング開始条件の達成に向けた進展が示されたことが声明文に明記されるなど、全般的にはタカ派的な内容となった。

FOMC会合後のパウエル議長による記者会見では、インフレやテーパリングの開始時期についての質問が多く出された。同議長はインフレが一時的との見方を示した一方、前回同様に経済を再開させるプロセスは前例がなく、物価上昇の要因となっている供給制約が長引く場合には、インフレが予想以上に高く持続的になる可能性があることを示唆した。また、テーパリング開始時期については今後の会合で引き続き進展の状況を精査していくことを示したものの、テーパリング開始条件である一段と顕著な進展に現状はまだ達していないとの認識を示した。

さらに、政策金利の引き上げ時期については利上げを検討するのは時期尚早と言及されたほか、利上げを検討するのは資産購入が終了した後が望ましいとしており、早期に利上げされる可能性が低いことを改めて示した。

今回の会合を受けて、当研究所はテーパリング開始時期を年内、政策金利引き上げ時期を23年半ばとの見通しを維持する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを0-0.25%に維持することを決定(変更なし)。
  • 昨年12月に委員会は、米国債の保有を少なくとも月800億ドル、エージェンシーの住宅ローン担保証券(MBS)の保有を月400億ドルそれぞれ増やし、その目標である雇用の最大化と物価安定に向けて一段と顕著な進展があるまでそれを継続することを示した(前回の「さらに、FRBは」”In addition, the Federal Reserve will”の表現を削除し、「昨年12月に委員会は示した」”Last December, the Committee indicated”に表現変更)
  • その後、経済はこれらの目標に向けて進んでおり、今後の会合で引き続き進展を評価する(今回追加)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • インフレ率がこの長期目標を持続的に下回っていることから、委員会は長期的にインフレ率が平均2%となり、長期的なインフレ期待が2%にしっかりと固定されるよう、当面2%をやや上回る水準のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 委員会は、これらの結果が達成されるまで、緩和的な金融政策のスタンスを維持すると予想する(変更なし)
  • 委員会は、労働市場の状況が雇用の最大化との評価に一致し、インフレ率が2%に上昇して、しばらくの間2%をやや上回るとの見通しに沿うまで、この目標レンジを維持することが適切であると予想する(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
 
(景気判断)
  • ワクチン接種の進展と強力な政策支援により、経済活動と雇用指標は引き続き力強くなっている(前回の「米国における感染拡大を抑えている」”has reduced the spread of COVID-19 in the United States”が削除されたほか、経済活動と雇用指標が「力強さを増した」”have strengthened”から「引き続き力強くなっている」”have continued strengthened”に表現変更)
  • パンデミックの影響を最も受けたセクターは改善がみられたが、完全には回復していない(前回の「依然として弱いが回復もみられる」”remain weak but have shown improvement”から「改善がみられたが、完全には回復していない」”have shown improvement but have not fully recovered”に上方修正)
  • インフレは主に一時的な要因を反映して上昇した(変更なし)。
  • ここ数カ月で全般的な金融環境は、経済および、家計や企業への信用の流れを支えるための政策措置を一部反映して引き続き緩和的だ(変更なし)
 
(景気見通し)
  • 経済の行方は引き続き、ウイルスの行方に左右される(前回の「大きく左右される」”will depend on significantly”から「引き続き左右される」”continues to depend”に表現変更)
  • ワクチン接種の進展は公衆衛生危機の経済への影響を軽減し続ける可能性が高いが、経済見通しに対するリスクは残っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 連邦公開市場委員会は金利をほぼゼロに維持し、資産購入を維持した。これらの措置は、金利及びバランスシートに関する強いガイダンスと相まって、回復が完了するまで金融政策が経済を支え続けることを確保する。予防接種の進展や前例のない財政政策措置も、復興を強力に後押ししている。
    • ある産業では、短期的な供給制約が活動を抑制している。とくに自動車業界では、今年に入って世界的な半導体不足で生産が激減している。
    • パンデミックに関連する、介護の必要性、ウイルスに対する継続的な不安、失業保険の支払いなどが、雇用の伸びを圧迫しているようだ。これらの要因は今後数カ月で減少し、雇用が大幅に増加するはずだ。
    • インフレは顕著に上昇しており、緩和までの数カ月間は上昇し続ける可能性が高い。経済が再開し、支出が回復し続ける中で、いくつかの部門における供給のボトルネックが価格を上昇させている。これらのボトルネック効果は予想以上に大きかったが、これらの一時的な供給効果が弱まるにつれ、インフレは長期目標に向けて後退すると予想される。
    • 経済を再開させるプロセスは前例がない。再開が続く中、ボトルネック、雇用困難、その他の制約が供給の調整速度を制限し続ける可能性があり、インフレが予想以上に高く持続的になる可能性がある。
    • 委員会は、昨年12月に資産購入ガイダンスを採択して以来、目標に向けた進捗について議論を続けた。また、経済状況の変化に応じて、資産購入のペースや構成などをどのように調整するかについても検討した。今後の会合で、入手データを元に、委員会は目標に向けた経済の進捗状況、及び資産購入のペースの変化のタイミングについて再検討する。
    • 2つの常設のレポ・ファシリティを設立することを発表した。1つは国内のプライマリーディーラー及び追加的な銀行向けであり、もう1つは海外及び国際通貨当局向けである。これらのファシリティは、金融政策の効果的な実施と円滑な市場機能を支えるために、短期金融市場における支援機関として機能する。
 
  • 主な質疑応答
    • (雇用の最大化と物価安定の一段と顕著な進展について数値を挙げて欲しい)物価は平均2%と示せるが、雇用の最大化については労働市場の様々な側面に関する広範囲のデータを監視しており、単一の数値を目標とすることができない。
    • (インフレ見通しについて)最近のインフレ報告は予想を大幅に上回っている。しかし、基本的にオーバーシュートのすべては、新車、中古車、レンタカー、航空券、ホテルなど、いくつかのカテゴリーに結びつけており、全体に広がっているわけではない。これを見てインフレは一時的なものだと考えている。今後は供給側が反応し経済が適応するため、インフレは時間とともに低下するだろう。
    • (インフレ高進時に雇用の最大化が達成されていなくても政策金利を引き上げるのか)。インフレが高ければ、たいていの場合、雇用も高い。現在は完全雇用ではないが、高いインフレを経験している。今後数年のうちに最大限の雇用に向けて、かなりの進歩を遂げていくだろう。今すぐ利上げを検討するのは時期尚早だ。必要ならば、先ず資産購入をゼロにする。資産購入と利上げを同時にするのは理想的な方法ではない。
    • (950万人の失業者に対して930万人の求人がある労働市場の状況をどう評価するのか)失業者に対する欠員の比率がこれほど高くなるのは、本当に珍しい状況だ。新型コロナ感染懸念や学校の休校、非常に寛大な失業手当が復職を妨げているかもしれない。しかしながら、これらの要因はすべて衰えるはずだ。そのため、強力な雇用創出が前進するだろう。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年07月29日「経済・金融フラッシュ」)

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