2021年06月28日

米個人所得・消費支出(21年5月)-家計への直接給付の支給減少に伴い個人所得(前月比)が2ヵ月連続で減少

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得は市場予想を上回る一方、個人消費は市場予想を下回る

6月25日、米商務省の経済分析局(BEA)は5月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比▲2.0%(前月:▲13.1%)と2ヵ月連続でマイナスも前月、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の▲2.5%は上回った(図表1)。個人消費支出は前月比横這い(前月改定値:+0.9%)と+0.5%から上方修正された前月を下回ったほか、市場予想(+0.4%)も下回った。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は▲0.4%(前月改定値:+0.3%)と▲0.1%から上方修正された前月からマイナスに転じたほか、市場予想(▲0.1%)も下回った(図表5)。貯蓄率1は12.4%(前月:14.5%)と、前月から▲2.1%ポイント低下した。

価格指数は、総合指数が前月比+0.4%(前月:+0.6%)と前月から低下、市場予想(+0.5%)も下回った。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.5%(前月:+0.7%)と、こちらも前月、市場予想(+0.6%)を下回った(図表6)。前年同月比は総合指数が+3.9%(前月:+3.6%)と前月を上回った一方、市場予想(+3.9%)に一致した。コア指数も+3.4%(前月:+3.1%)と前月を上回った一方、市場予想(+3.4%)に一致した(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:前月に続き直接給付の減少で所得が減少

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 3月上旬に決まった追加経済対策(米国救済計画)に伴い、家計向け1人最大1,400ドルの直接給付の大宗が3月に支給された反動で、個人所得は前月比で大幅な減少に転じた4月に続き、マイナス幅は縮小したものの、5月も2ヵ月連続でマイナスとなった(図表1)。

また、個人消費(前月比)は4月から伸びが鈍化したものの、所得が減少した影響で貯蓄率は2ヵ月連続で低下した。もっとも、貯蓄率は新型コロナ流行前の7%台からは依然高止まりするなど消費余力を十分に余しており、今後ワクチン接種の進捗に伴ってソーシャルディスタンシングの解消など経済正常化の動きが強まる中で、個人消費は新型コロナで落ち込んだ対面サービス消費を中心に回復してくることが見込まれる。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数がFRBの物価目標(2%)を3ヵ月連続で上回ったほか、08年8月(+4.0%)以来の水準となった。また、物価の基調を示すコア指数も物価目標を上回ったほか、92年4月(+3.4%)以来の水準に上昇した。FRBは足元のインフレ高進を一時的な要因によるものと判断しているが、足元のインフレ率の上昇はFRBの当初の想定を上回っているため、高水準のインフレ高進が続く場合にはFRBに対する信認低下から期待インフレ率が上昇する可能性があり、今後の動向が注目される。

3.所得動向:前月に続き、家計向け直接給付の減少で移転所得が減少

5月の個人所得(前月比)は、移転所得が▲11.7%(前月:▲41.2%)と前月からマイナス幅は縮小したものの、2ヵ月連続のマイナスとなった(図表2)。5月の移転所得は前月比年率▲5,621億ドル(前月:▲3兆3,769億ドル)の減少となったが、このうち米国救済計画に盛り込まれた家計向けの直接給付で5月の支給額が前月比で▲5,594億ドル(前月:▲3兆3,562億ドル)の減少となったことが大きい。一方、移転所得以外では、自営業者所得が+2.7%(前月:+3.2%)と堅調な伸びを維持したほか、賃金・給与が+0.8%(前月:+1.0%)、利息配当収入が+0.4%(前月:+0.5%)とこちらもプラスの伸びを維持した。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、5月の名目が▲2.3%(前月:▲14.6%)、価格変動の影響を除いた実質ベースが▲2.8%(前月:▲15.1%)となり、名目、実質ともに前月からマイナス幅は大幅に縮小したものの、2ヵ月連続でマイナスとなった。(図表3)。
(図表3)(図表3)

4.消費動向:財消費が減少

5月の名目個人消費(前月比)は、財消費が▲1.3%(前月:+0.5%)と前月からマイナスに転じたほか、サービス消費も+0.7%(前月:+1.1%)と前月から伸びが鈍化した(図表4)。

財消費では、耐久財が▲2.8%(前月:+1.7%)と前月からマイナスに転じたほか、非耐久財が▲0.4%(前月:▲0.2%)と2ヵ月連続でマイナスとなった。

耐久財では、自動車・自動車部品が▲5.9%(前月:+6.7%)と前月からマイナスに転じたほか、家具・家電が▲2.3%(前月:▲0.6%)、娯楽財・スポーツカーが▲1.6%(前月:▲0.7%)と前月からマイナス幅が拡大した。

非耐久財では、ガソリン・エネルギーが+1.8%(前月:▲0.5%)、衣料・靴も+0.2%(前月:▲1.2%)と前月からプラスに転じたほか、食料・飲料が▲0.5%(前月:▲0.6%)とマイナス幅が縮小した。一方、その他非耐久財が▲1.0%(前月:+0.4%)とマイナスに転じ、全体を押し下げた。

サービス消費は、金融サービスが+0.6%(前月:▲0.2%)と前月からプラスに転じたほか、住宅・公共料金が+0.5%(前月+0.3%)と伸びが加速した。一方、娯楽が+3.5%(前月:+7.0%)、輸送が+0.4%(前月:+2.2%)、外食・宿泊が+1.5%(前月:+4.3%)、医療サービスが+0.4%(前月:+0.6%)と前月から伸びが鈍化するなどマチマチの動きとなった。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:前年同月比でエネルギーが物価を大幅に押上げ

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が▲横這い(前月:▲0.2%)と僅かながら2ヵ月連続のマイナスとなった(図表6)。食料品価格指数は+0.3%(前月:+0.4%)とこちらは4ヵ月連続でプラスとなった。前年同月比では、エネルギー価格指数が+27.4%(前月:+24.8%)と4ヵ月連続でプラスとなり、物価を大幅に押し上げた(図表7)。食料品価格指数は+0.4%(前月:+0.9%)と47ヵ月連続のプラスとなった。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年06月28日「経済・金融フラッシュ」)

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