2021年06月07日

米雇用統計(21年5月)-雇用者数(前月比)は+55.9万人と前月(+27.8万人)から増加も、市場予想の+67.5万人は下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を下回るも失業率は市場予想を上回る低下

6月4日、米国労働省(BLS)は5月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+55.9万人の増加1(前月改定値:+27.8万人)と、+26.6万人から上方修正された前月を上回った一方、市場予想の+67.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は下回った(後掲図表2参照)。

失業率は5.8%(前月:6.1%、市場予想:5.9%)と前月から▲0.3%ポイント低下し、市場予想の低下幅を上回った(後継図表6参照)。労働参加率2は61.6%(前月:61.7%、市場予想:61.8%)とこちらは増加予想に反して前月から▲0.1%ポイント低下した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用回復のモメンタムは改善も、足元の経済状況に比べて物足りない水準

5月の非農業部門雇用者数は、予想外に小幅な伸びに留まった前月から雇用の伸びは大幅に加速した。もっとも、市場予想を下回ったほか、雇用者数は依然として新型コロナ流行前(20年2月)を763万人下回っており、5月の雇用増加ペースが継続した場合に雇用水準が新型コロナ流行前に回復するのに14ヵ月弱を要するため、雇用回復は緩慢に留まっている。4-6月期の実質GDP成長率が前期比年率で2桁の伸びが見込まれている足元の経済状況に比べて雇用回復は物足りない水準と言えよう。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.5%(前月:+0.7%、市場予想:+0.2%)と大幅な伸びとなった前月を下回ったものの、市場予想を上回った。前年同月比は+2.0%(前月改定値:+0.4%、市場予想:+1.6%)と、こちらは+0.3%から上方修正された前月を上回ったほか、市場予想も上回った(図表1)。

このようにみると、5月は賃金の伸びが市場予想を上回ったものの、労働参加率の低下や雇用の伸びが市場予想を下回る結果となった。米国の労働市場は求人数が統計開始以来最高となるなど労働需要は非常に強い。一方、雇用回復の伸びが求人数に対して低調に留まっている要因として、新型コロナの罹患リスクへの懸念や、新型コロナ対策として9月期限で手厚くなっている失業保険給付が失業者の復職意欲を減退させて、労働供給の回復遅れが影響している可能性がある。足元で9月の期限を待たずに失業保険の追加給付等を取りやめている州が出てきており、今後労働供給の回復ペースが早まってくるのか注目される。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊業で高水準の雇用増加が継続

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+48.9万人(前月:+25.5万人)と前月から伸びが加速した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比+29.2万人(前月:+32.8万人)と高い伸びを維持した。一方、それ以外の業種では、小売業が▲0.6万人(前月:▲3.0万人)と前月からマイナス幅を縮小したほか、運輸・倉庫が+2.3万人(前月比:▲5.3万人)、専門・ビジネスサービスも+3.5万人(前月:▲8.1万人)と前月から増加に転じた。さらに、医療・社会扶助サービスでは+4.6万人(前月:+3.6万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+0.3万人(前月:▲3.6万人)と前月から小幅ながら増加に転じた。建設業では前月比▲2.0万人(前月:▲0.5万人)と前月から減少幅が拡大したものの、製造業が+2.3万人(前月:▲3.2万人)と増加に転じて全体を押し上げた。とくに、製造業では半導体不足で雇用が減少していた自動車・自動車部品で前月比+2.5万人(前月:▲3.8万人)と増加に転じたことが大きい。

一方、政府部門は前月比+6.7万人(前月:+5.9万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が▲1.1万人(前月:+1.0万人)と前月から減少に転じたものの、州・地方政府が+7.8万人(前月:+4.9万人)と前月から伸びが加速して政府部門全体を押し上げた。州・地方政府では教育関係者の雇用が前月比+10.3万人(前月:+4.2万人)と前月から伸びが加速したことが大きい。
前月(4月)と前々月(3月)の雇用増加数(改定値)は前月が+27.8万人(改定前:+26.6万人)と+1.2万人上方修正されたほか、前々月は+78.5万人(改定前:+77.0万人)とこちらも+1.5万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+2.7万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って6月3日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+97.8万人(前月改定値:+65.4万人、市場予想:+65.0万人)と+74.2万人から下方修正された前月、市場予想を上回った。この結果、ADP統計は前月から雇用の伸びが加速した雇用統計と整合的な動きとなった。

5月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が30.33ドル(前月:30.18ドル)となり、前月から+15セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.9時間(前月:34.9時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,058.52ドル(前月:1,053.28ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:失業率の低下幅ほど労働需給は改善していない可能性

家計調査のうち、5月の労働力人口は前月対比で▲5.3万人(前月:+43.0万人)と前月から減少に転じた。内訳を見ると、就業者数が+44.4万人(前月:+32.8万人)と前月から伸びが加速したものの、失業者数が▲49.6万人(前月:+10.2万人)と就業者数を上回る減少となって労働力人口を押し下げた。一方、非労働力人口は+16.0万人(前月:▲33.0万人)とこちらは3ヵ月ぶりの増加となった。

これらの結果、労働参加率は61.6%と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表5)。一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は5月が81.3%(前月:81.3%)とこちらは前月から横這いとなった。男女の内訳は、男性が87.8%(前月:87.8%)と横這いとなった一方、女性が75.0%(前月:75.1%)と前月から▲0.1%ポイント低下した。

5月の失業率は前月から▲0.3%ポイント低下したものの、労働力人口の減少を伴い労働参加率が低下しているほか、職探しを諦めて労働市場から退出する人数の非労働力人口も増加しているため、失業率の低下幅が示すほど労働需給の改善を意味している訳ではない。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
5月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は375.2万人(前月:418.3万人)と前月から▲43.1万人減少した。減少幅は11年10月(▲46.6万人)以来の水準となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは40.9%(前月:43.0%)と前月から▲2.1%ポイント低下した(図表7)。一方、平均失業期間は29.9週(前月:28.8週)とこちらは前月から+1.1週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(195.5万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(527.1万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、5月が10.2%(前月:10.4%)と前月から▲0.2%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+4.4%ポイント(前月:+4.3%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年06月07日「経済・金融フラッシュ」)

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