2021年04月30日

米FOMC(21年4月)-景気の現状判断を上方修正も、予想通り実質ゼロ金利、量的緩和政策を維持

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、実質ゼロ金利、量的緩和政策を維持

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が4月27-28日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、現行の実質ゼロ金利、量的緩和政策の維持を全会一致で決定した。一方、今回発表された声明文では、景気の現状判断部分で経済活動と雇用の評価が前回の「最近上昇している」から「力強さを増した」に上方修正されたほか、インフレに関しても前回の「引き続き2%を下回っている」から「主に一時的な要因を反映して上昇した」に上方修正された。景気見通し部分では、公衆衛生の危機の影響に関して、雇用やインフレに関する記述が削除されるなど小幅な表現変更に留まった。金融政策ガイダンスに変更は無かった。

2.金融政策の評価:景気判断の上方修正にも、緩和政策の長期化を示すハト派的な内容

政策金利や量的緩和政策に変更がなかったことは予想通り。また、足元の経済状況を踏まえて経済活動や雇用の評価が上方修正されたのも予想通りであった。景気判断が上方修正された一方、金融緩和政策の継続方針が示されたことからハト派的な内容と言えよう。

FOMC会合後のパウエル議長による記者会見では、足元のインフレ上昇が一時的な要因であるとするこれまでの説明を繰り返したほか、今年のインフレ率が2%を超えてもそれが政策金利変更の条件を満たさないことを示した。また、前回会合と同様にテーパリングの時期に関する質問には議論するのは時期尚早と回答しており、足元の景気回復やインフレ上昇によっても現行の実質ゼロ金利政策や量的緩和政策を当分の間継続する方針を明確に示した。今回の会合では金融政策方針、声明文、記者会見とも全般的にサプライズに乏しかった。

今回の会合を受けて、当研究所はインフレ率がFRBの物価目標に到達するのは23年で、物価目標到達後もFRBが暫く利上げを見送る方針を示していることから、実質ゼロ金利政策が解除されるのは早くても24年以降、前回の量的緩和解除と利上げ時期の関係から判断すると、量的緩和政策が解除されるのは23年以降とのこれまでの予想を維持する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを0-0.25%に維持することを決定(変更なし)
  • FRBは引き続き、米国債の保有を少なくとも月800億ドル、エージェンシーの住宅ローン担保証券(MBS)の保有を月400億ドルそれぞれ増やし、委員会の目標である雇用の最大化と物価安定に向けて一段と顕著な進展があるまでそれを継続する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • インフレ率がこの長期目標を持続的に下回っていることから、委員会は長期的にインフレ率が平均2%となり、長期的なインフレ期待が2%にしっかりと固定されるよう、当面2%をやや上回る水準のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 委員会は、これらの結果が達成されるまで、緩和的な金融政策のスタンスを維持すると予想する(変更なし)
  • 委員会は、労働市場の状況が雇用の最大化との評価に一致し、インフレ率が2%に上昇して、しばらくの間2%をやや上回るとの見通しに沿うまで、この目標レンジを維持することが適切であると予想する(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
 
(景気判断)
  • 新型コロナの流行は米国と世界各地に甚大な人的、経済的困難を引き起こしている(変更なし)
  • ワクチン接種の進展と強力な政策支援の中で経済活動と雇用指標は力強さを増した(ワクチン接種と政策支援に関する記述が追加されたほか、経済活動と雇用について前回の「最近上昇している」”have turned up recently”から「力強さを増した」”have strengthened”に上方修正)
  • パンデミックの影響を最も受けたセクターは依然として弱いが、改善もみられる(「改善もみられる」”have shown improvement”を追加し上方修正)
  • インフレは主に一時的な要因を反映して上昇した(「一時的な要因」”transitory factors”を追加したほか、インフレの評価について前回の「引き続き2%を下回っている」”continued to run below 2 percent”から「上昇した」”has risen”に上方修正)。
  • ここ数カ月で全般的な金融環境は、経済および、家計や企業への信用の流れを支えるための政策措置を一部反映して引き続き緩和的だ(変更なし)
 
(景気見通し)
  • 経済の行方はウイルスの成り行きに大きく左右される(変更なし)
  • 現在進行中の公衆衛生の危機は、経済に重くのしかかり、経済見通しのリスクは残っている(前回から雇用やインフレに関する記述が削除)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 今日、FOMCの同僚と私は金利をほぼゼロに保ち、膨大な額の資産購入を維持した。これらの措置は金利およびバランスシートに関する強力なガイダンスとともに、景気回復が完了するまで金融政策が強力な支援を継続することを保証する。
    • 景気回復は一般的に予想されているよりも急速に進んでいるが、回復は一様ではなく、完全ではない。新型コロナの感染拡大を反映した新規感染者数は懸念材料だが、ワクチン接種を継続すれば、今年後半に通常の経済状況に戻る可能性がある。
    • 全般的な経済活動と同様に労働市場の状況は改善し続けている。景気後退がすべての米国人にもたらされた訳ではない。負担を担えない人々が最も大きな打撃を受けている。とくに、サービス業の低賃金労働者、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系の失業率は高い。
    • インフレに関する数値は上昇しており、緩やかになる前にさらに上昇する可能性がある。短期的には2%を超えると予想される。さらに、経済が再開し続けるにつれて、供給のボトルネックから価格に上昇圧力がかかる可能性がある。ただし、これらの一時的な物価上昇はインフレに一時的な影響しか与えない可能性が高い。
    • 雇用とインフレの目標を達成するまで金融政策の緩和姿勢を維持することを期待する。今年の2%を上回る一時的なインフレ率は政策変更の基準を満たさない。経済は我々の目標から大きくかけ離れており、実質的かつ更なる進展が達成されるまでには、ある程度の時間がかかるだろう。
 
  • 主な質疑応答
    • (テーパリングを議論する時期にきたか?)いや、まだ議論するのは時期尚早だ。我々はその話し合いの時期が来たら一般の人々に知らせると言ってきた。我々は資金購入を減らすという実際の決定に十分先立ってそうすると言ってきたし、そうするつもりだ。
    • (完全雇用に復帰する前にインフレ期待が上昇する場合の対応は?)労働市場にはまだ大幅な緩みがある中でインフレが持続的に上昇し、インフレ期待が実際に上昇するとは考えにくい。インフレ期待が上昇する場合には労働市場が非常に強い状況になっている可能性が高い。しかし、実際にそのような状況が起きた場合には、我々は様々な要因を比較検討する。
    • (新型コロナ危機の長期的な傷跡として何が心配か?)人々が長期間労働市場から離れることによる傷跡を非常に心配していた。長期間労働市場から離れていると、以前の生活に戻ることがはるかに困難になるためだ。中小企業についても同じことが言える。これまでの所、労働市場でも中小企業でもそのような傷跡は経験していない。
    • (住宅バブルが局地的に発生している可能性は?)我々は住宅市場を非常に注意深く監視している。パンデミックの前は、世界的な金融危機の前とはまったく異なる住宅市場だったと言っていい。当時と比較して家計の財政状況が非常に良い。住宅ローンを受けている人も信用度の高い人たちである。このため、住宅バブルはない。住宅価格の上昇は人々が最初の家を手に入れるのを困難にするが、金融の安定性に関する懸念が住宅部門にあるとは思っていない。
    • (FRBはインフレ率が2%目標を大幅に上回らないようにさせる自信があるのか?)それが起こらないようにするのがFRBの仕事だ。予想に反してインフレが持続的かつ実質的に2%を超える場合、長期的なインフレ期待が実質的に2%を超える脅威が高まった場合、金融政策ツールを使用してインフレと期待インフレを一貫したレベルに下げることができる。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年04月30日「経済・金融フラッシュ」)

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