2021年04月05日

米雇用統計(21年3月)-雇用者数(前月比)は+91.6万人と7ヵ月ぶりの高い伸び、市場予想も大幅に上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を上回る一方、失業率は市場予想に一致

4月2日、米国労働省(BLS)は3月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+91.6万人の増加1(前月改定値:+46.8万人)と、+37.9万人から大幅に上方修正された前月、市場予想の+66.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。3月の雇用増加数は20年8月(+158.3万人)以来、7ヵ月ぶりの水準である。

失業率は6.0%(前月:6.2%、市場予想:6.0%)と前月から▲0.2%ポイント低下し、市場予想に一致した(後継図表6参照)。労働参加率2は61.5%(前月:61.4%、市場予想:61.5%)とこちらは前月から+0.1%ポイント上昇し、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:経済活動再開や天候の回復が雇用増加に貢献

3月の非農業部門雇用者数は、新型コロナ感染拡大と感染対策としての経済活動制限で大きな影響を受けた娯楽・宿泊業が前月比+28.0万人と前月の+38.4万人に続いて大幅な増加となったほか、公立・私立の教員が+19.0万人増加しており、これらは経済活動が再開された効果とみられる。さらに、建設業が+11.0万人と前月の▲5.6万人から大幅な増加に転じたが、これは2月の寒波から天候が回復した影響とみられる。

もっとも、雇用者数は依然として新型コロナ流行前(20年2月)を840万人下回っており、雇用水準が新型コロナ流行前に回復するには長期間を要するだろう。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が▲0.1%(前月改定値:+0.3%、市場予想:+0.1%)と+0.2%から上方修正された前月からマイナスに転じたほか、市場予想も下回った。前年同月比は+4.2%(前月改定値:+5.2%、市場予想:+4.5%)と、こちらは+5.3%から下方修正された前月、市場予想を下回った(図表1)。賃金の伸び鈍化は娯楽・宿泊業などの低賃金労働者の雇用増加が顕著であった影響だろう。

このようにみると、3月は雇用増加が7ヵ月ぶりの高水準となったほか、労働参加率の上昇を伴って失業率が低下するなど、雇用回復に弾みがついたことが分かる。米国ではワクチン接種が順調に進捗する中で経済活動正常化の動きが継続するとみられることから、当面は高水準の雇用回復が持続しよう。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊業をはじめ全般的に雇用が回復

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+59.7万人(前月:+60.2万人)と前月から小幅に伸びが鈍化したものの、前月に続き堅調な伸びを維持した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比+28.0万人(前月:+38.4万人)と高い伸びを維持したほか、運輸・倉庫が前月比+4.8万人(前月比:3.6万人)、教育サービスが+6.4万人(前月:+0.1万人)と前月から伸びが加速した。一方、専門・ビジネスサービスが+6.3万人(前月:+7.8万人)、医療・社会扶助サービスが+3.6万人(前月:+5.1万人)、小売業が+2.3万人(前月:+2.8万人)と前月から伸びは鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。

財生産部門は前月比+18.3万人(前月:▲4.4万人)とこちらは3ヵ月ぶりに増加に転じた。製造業が+5.3万人(前月:+1.8万人)と前月から伸びが加速したほか、建設業が+11.0万人(前月:▲5.6万人)と大幅な増加に転じて財生産部門の雇用を押し上げた。

一方、政府部門は前月比+13.6万人(前月:▲9.0万人)と前月から増加に転じた。内訳をみると、連邦政府が+0.7万人(前月:▲0.1万人)、州・地方政府も+12.9万人(前月:▲8.9万人)と前月から増加に転じた。とくに、州・地方政府は教育関連の雇用が州政府で+5.0万人、地方政府で+7.6万人増加したことが大きい。
前月(2月)と前々月(1月)の雇用増加数(改定値)は前月が+46.8万人(改定前:+37.9万人)と+8.9万人上方修正されたほか、前々月は+23.3万人(改定前:+16.6万人)と、こちらも+6.7万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+15.6万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って3月31日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+51.7万人(前月改定値:+17.6万人、市場予想:+55.0万人)と+11.7万人から上方修正された前月は大幅に上回った一方、市場予想は下回った。この結果、ADP統計は雇用統計と同様に前月から雇用の伸びが加速する結果となった。
 
3月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が29.96ドル(前月:30.00ドル)となり、前月から▲4セント減少した。一方、週当たり労働時間は34.9時間(前月:34.6時間)と前月から+0.3時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,045.60ドル(前月:1,038.00ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:主に就業者数の増加で労働参加率は改善

家計調査のうち、3月の労働力人口は前月対比で+34.7万人(前月:+5.0万人)と前月から大幅に伸びが加速した。内訳を見ると、失業者数が▲26.2万人(前月:▲15.8万人)と前月から減少幅が拡大したものの、就業者数が+60.9万人(前月:+20.8万人)と失業者の減少を上回る増加幅となって労働力人口を押し上げた。一方、非労働力人口は▲26.3万人(前月:+1.8万人)とこちらは5ヵ月ぶりの減少となった。

これらの結果、労働参加率は61.5%と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表5)。一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も3月が81.3%(前月:81.1%)とこちらも前月から+0.2%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が87.6%(前月:87.6%)と前月から横這いとなった一方、女性が75.2%(前月:74.9%)と前月から+0.3%ポイント上昇して全体を押し上げた。

一方、3月の失業率は6.0%と前月比▲0.2%ポイントの低下となったが、労働参加率の増加を伴っているほか、非労働力人口が5ヵ月ぶりに減少に転じており、労働需給の逼迫を反映しているとみられる。もっとも、失業率も新型コロナ流行前(20年2月)の3.5%を大幅に上回っており、雇用回復は依然として道半ばである。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
3月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は421.8万人(前月:414.8万人)と前月から+7万人増加した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは43.4%(前月:41.5%)と前月から+1.9%ポイント増加した(図表7)。これは11年9月(45.2%)以来の水準である。さらに、平均失業期間は29.7週(前月:27.6週)と前月から+2.1週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(185.3万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(582.6万人)も考慮した広義の失業率(U-64は、3月が10.7%(前月:11.1%)と前月から▲0.4%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+4.7%ポイント(前月:+4.9%ポイント)と前月から▲0.2%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年04月05日「経済・金融フラッシュ」)

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