2021年07月06日

コロナ禍で成立した改正医療法で何が変わるか-医療計画制度の改正、外来医療機能の見直しを中心に

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   三原 岳

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1――はじめに~改正医療法で何が変わるか?~

6月16日に閉会した2021年通常国会(第204国会)では、医療提供体制改革を目指す改正医療法が成立した。今回の改正では、医師の長時間勤務を制限する「医師の働き方改革」に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、医療計画に新興感染症への対応を位置付ける改正が盛り込まれた。さらに、医療提供体制改革を目指す「地域医療構想」を進める一環として、統廃合などで病床を削減した医療機関を財政支援する財政制度の恒久化とか、外来医療機能の明確化、医師の業務範囲を見直す「タスクシフト」など、かなり広範な内容が含まれている1。さらに、医師の働き方改革や地域医療構想の推進などを通じて、医療や自治体行政の現場が影響を受ける可能性もあり、国会審議ではコロナ禍で医療提供体制を改革する是非が焦点となった。

本稿は改正内容のうち、(1)新興感染症への対応を医療計画に追加、(2)病床再編・削減を支援する予算措置の恒久化、(3)外来医療機能の明確化――という3つの点を中心に、改正内容や背景・経緯を簡単に説明する。その上で、別稿2で触れた医師の働き方改革の影響も加味しつつ、医療機関の経営や地域医療の体制、都道府県の実務に及ぼす影響などを考察する。
 
1 正式には「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」という名称で、医療法や医師法、感染症法、労働基準法など幾つかの法律が一括して提出された。ここでは煩雑さを避けるため、「改正医療法」「医療法改正」と総称する。
2 医師の働き方改革に関しては、2021年6月22日「医師の働き方改革は医療制度にどんな影響を与えるか」を参照。
 

2――改正医療法の概要

2――改正医療法の概要

改正医療法について、厚生労働省が公表した概要は資料1の通りであり、医療法や医師法、地域医療介護総合確保促進法など多くの法律が一括して取り扱われた点、さらに医療提供体制改革に関する数多くの内容を含む点を理解できる。

このうち、資料1の1番目に挙がっている医師の働き方改革については、別の拙稿で内容や影響を取り上げたため、以下は筆者の関心事に応じて、改正内容のうち、(1)新興感染症への対応を医療計画に追加、(2)病床再編・削減を支援する予算措置の恒久化、(3)外来医療機能の明確化――という3点について、背景や経緯を考える。

ただ、医師の働き方改革の影響は決して無視できない上、一連の制度改正は相互に複雑に絡み合っている。このため、後半では医師の働き方改革の内容や影響も加味しつつ、制度改正が及ぼすインパクトについて俯瞰を試みる。
資料1:改正医療法の内容

3――改正医療法の内容と影響(1)

3――改正医療法の内容と影響(1)~新興感染症への対応を医療計画に追加~

1改正の主な内容と経緯、背景
1番目の新興感染症への対応を医療計画に位置付ける改正については、昨年来の新型コロナウイルスを踏まえて実施された。医療計画とは、各都道府県が6年サイクルで策定する計画であり、5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)と5事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療)と在宅医療を計画に位置付けることが義務付けられている。

一方、感染症は専ら感染症法の枠組みで実施されてきたため、医療計画では新興感染症が位置付けられていなかったが、新型コロナウイルスへの対応では医療提供体制の逼迫に伴い、病床確保などが焦点となった。そこで、新興感染症への対応を医療計画に位置付けることで、都道府県を中心とした対応の強化が企図された。
2|2024年度の次期医療計画への反映が必要に
この制度改正については、2024年度の施行が予定されている3。2024年度とは次期医療計画の改定年次であり、ここでは少し議論を俯瞰するため、医療計画の歴史を簡単に振り返ろう。

医療計画は元々、1985年改正の医療法で導入された。当時は「増加する医療費を抑制したい」という点が意識され、病床過剰地域における民間病院の病床について、上限を設定するための計画を各都道府県が5年周期で策定することになった。同様の病床規制については、既に公立・公的病院に導入されていた4が、この改正を通じて民間病院にも規制が掛かった形となった。このため、当時は「民間を含むあらゆる医療資源の整備を法的コントロールに置いたこの改正は、日本の医療供給体制の従来からのあり方に対して大きな変化をもたらす」と理解されていた5

その後、計画は段階的に拡充され、先に触れた通り、現行制度では5疾病、5事業と在宅医療を計画に位置付けることが定められており、2018年度に始まった現行計画では、医療・介護連携を確保する観点に立ち、市町村が3年周期で作る介護保険事業計画と平仄を合わせるため、見直しのサイクルが5年から6年に変更された。

さらに、この後から詳しく述べる「地域医療構想」も制度上、医療計画の一部を構成しており、2018年度からスタートした現行医療計画に取り込まれた。このほか、医師の偏在を是正する観点に立ち、都道府県が2020年3月までに策定した「医師確保計画」「外来医療計画」についても、医療計画の一部として策定された6。このため、2024年度にスタートする次期医療計画では、従来の5疾病、5事業と在宅医療、地域医療構想に加えて、医師確保計画と外来医療計画の内容、さらに新興感染症への対応も盛り込まれることになる。

なお、制度改正の詳細に関しては、厚生労働省が6月に設置した「第8次医療計画に関する検討会」を中心に、2022年末の取りまとめを目指して議論が進む見通しだ。
 
3 ただ、施行時期に関して、日本医師会(日医)は「新型コロナは依然として予断を許さないし、新たな感染症がいつ発生するか分からない」として前倒し実施を要請している。2021年5月26日の中川俊男会長による記者会見の発言。『社会保険旬報』No,2822を参照。
4 公立・公的病院に関しては、議員立法による1962年の医療法改正で病床規制が導入されていた。
5 郡司篤晃監修(1987)『保健医療計画ハンドブック』第一法規p15。
6 医師偏在是正については、2020年2~3月の「医師偏在是正に向けた2つの計画はどこまで有効か」(2回シリーズ、リンク先は第1回)を参照。
3|既存の感染症法、予防計画との整合性が論点に
今後の論点の一つは既存の感染症法に基づく予防計画との整合性である。元々、感染症対策は保健所を中心とする公衆衛生の枠内で実施された7経緯があり、都道府県は発生時の対策や医療提供、患者の移送などを定める「予防計画」を策定している。これに対し、今回の制度改正で医療計画に新興感染症対策が位置付けられたことで、医療計画と予防計画の整合性が問われることになる。

さらに、保健所を所管する市区と、都道府県の関係も論点になる可能性がある。感染症対策を最前線で担っている保健所については、原則として広域自治体である都道府県が設置主体となっているが、政令指定都市、中核市、東京都の特別区は特例的に保健所を所管している。このため、新興感染症対策を医療計画に組み込む上では、感染症対策を担っている保健所を所管する市区と、医療計画・予防計画を策定する都道府県との連携が重要になる。
 
7 ここでは詳しく触れないが、保健所を中心とする感染症対策の歴史に関しては、2020年9月15日拙稿「感染症対策はなぜ見落とされてきたのか」を参照。
 

4――改正医療法の内容と影響(2)

4――改正医療法の内容と影響(2)~病床再編・削減を支援する予算措置の恒久化~

1改正の主な内容と経緯、背景
2点目については、医療提供体制の改革を目指す地域医療構想に関係している。地域医療構想は2017年3月までに各都道府県が医療計画の一部として策定し、人口的にボリュームが大きい団塊世代が75歳以上となる2025年に向けて、病床削減や在宅医療の普及など医療提供体制を改革することが想定されている8

具体的には、「病床機能報告制度」に基づいて各医療機関から都道府県に報告される現状と、2025年の医療需要を病床数で比べることで、病床数の需給ギャップを明らかにした上で、都道府県を中心に、民間医療機関や介護事業所、市町村などとともに、そのギャップを穴埋めする方策を各地域で模索することが想定されている。

その際には医療機関の機能や役割に応じて、病床の機能が高度急性期、急性期、回復期、慢性期に区分されたほか、2次医療圏を中心とした「構想区域」も設定され、それぞれの病床区分に関して、341に上る区域ごとに病床数のギャップが明らかになった(現在の構想区域の数は339区域)。

各都道府県の地域医療構想に盛り込まれた数字は表1の通りであり、全国的には高度急性期、急性期、慢性期の削減、回復期の充実、さらに慢性期に入院する軽度な患者の受け皿となる在宅医療の整備が必要と理解されている。

しかし、日本の医療提供体制は民間中心であり、国や都道府県は民間医療機関に対し、病床削減や機能転換、合併再編などを命令できない。このため、地域医療構想の推進に際しては、構想区域ごとに設置された「地域医療構想調整会議」を中心に、民間医療機関や介護事業所など関係者の合意形成に力点が置かれており、一気に議論が進む状況ではない。
表1:地域医療構想に盛り込まれた病床数
一方、財務省は「地域医療構想の推進→病床削減→医療費適正化」という経路を期待し、地域医療構想の加速を迫っている。例えば、財務省は財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の席上、「高度急性期・急性期▲21万床」「回復期+22万床」「慢性期▲7万床」という数字を具体的に示しつつ、病床削減に関する都道府県の権限強化などを訴えた9。さらに、2019年10月の経済財政諮問会議でも地域医療構想が話題になった際、民間議員から「無駄なベッドの削減は増加する医療費の抑制のために大変重要であり、官民合わせて13万床の過剰病床の削減、急性期から回復期への病床転換等について、期限を区切って必ずやり遂げて行かなくてはならない」といった期待が示される一幕もあった10

こうしたプレッシャーの下、厚生労働省は2019年9月、病床再編の議論を「活性化」させるため、「再編・統合に向けた検討が必要な公立・公的病院」11として、424病院を名指しした(通称「424リスト」、後に436病院に修正)。これに対し、全国の首長や関係者から反発が出たため、国と地方の関係が正常化する際の条件の一つとして、財政支援の充実が挙げられ、全額国費の予算措置が2020年度予算から創設されるに至った。

この予算措置のポイントとしては、医療機関の合併再編で稼働病床を10%以上削減した場合、それに伴う損失分が全額国費で補填される点である。既に地域医療構想を後押しする制度として、社会保障目的に引き上げられた消費税収を充当する形で、「地域医療介護総合確保基金」が整備されており、再編統合に伴い必要となる施設・設備整備費、急性期から回復期病への転換に必要な建設費、不用となる建物の処分に関する損失、早期退職で退職する職員の退職金の割増額などを支援する体制が整備されていたが、病床を削減した場合の穴埋めを支援する財政制度の創設を通じて、厚生労働省は「財政支援の死角を無くし、地域医療構想の推進を加速化させる」と説明していた12

その後、2020年に入って新型コロナウイルスの感染が国内で拡大したことで、医療提供体制改革の議論は足踏みを余儀なくされているが、厚生労働省は「(筆者注:大規模な感染症が)起こっても十分に対応できるような体制はどういう体制なんだということも含めて、各地域でこの地域医療構想の検討をしていただきたい」として、都道府県を主体にして地域医療構想を推進する考え方自体を変えていない13。こうした経緯と状況の下、今回の法改正では予算制度の恒久化を図るため、「病床機能再編支援事業」という名称で、地域医療介護総合確保基金の事業メニューの一つとして位置付けられた14
 
8 地域医療構想については、過去の拙稿を参照。2017年11~12月の「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く」(全4回、リンク先は第1回)、2019年5~6月の拙稿「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」(全2回、リンク先は第1回)、2019年10月31日「公立病院の具体名公表で医療提供体制改革は進むのか」、2020年5月15日「新型コロナがもたらす2つの『回帰』現象」。併せて、三原岳(2020)『地域医療は再生するか』医薬経済社も参照。
9 2018年10月9日、財政制度審議会財政制度分科会資料。
10 2019年10月28日、経済財政諮問会議議事要旨における新浪剛史議員(サントリーホールディングス社長)の発言。
11 正式名は「再検証対象医療機関」、政府は都道府県に対し、2019年3月までに期限を設定する形で、公立・公的医療機関の機能を民間医療機関で担えない部分に限定するよう求めたが、見直しが不十分と判断され、再検証を促すため、「424リスト」が公開された。
12 2019年12月24日、第 3回地域医療確保に関する国と地方の協議の場に提出された厚生労働省の資料を参照。
13 2020年9月17日会見における田村憲久厚生労働相の発言。
14 これらの財政支援とは別に、再編に伴って土地や建物を取得・建築する際の登録免許税を軽減する支援制度が2021年度から創設されている。
2|予算の本格的な執行はコロナ収束後?
では、こうした財政制度が今後、どれぐらい活用されるだろうか。地域の動向をウオッチすると、コロナ禍にもかかわらず、病院再編の動きが少しずつ進んでおり、その一例として、病院再編を重点的に進める地域として、厚生労働省が指定する「重点支援区域」を指摘できる。

これは元々、「国自身が重点区域を設定して直接助言を行う」という考え方15でスタートした仕組みであり、厚生労働省は指定のメリットとして、地域の医療提供体制や医療機関の経営に関するデータ提供とか、地域医療介護総合確保基金の優先配分、病床機能の再編支援に向けた一層の財政支援などを挙げている。具体的な区域は2020年1月から段階的に指定されており、これまでに表2の通り、▽宮城県仙南区域、▽同県石巻・登米・気仙沼区域、▽滋賀県湖北区域、▽山口県柳井区域、▽同県萩区域――など14区域が指定されている。
表2:地域医療構想の推進に関する重点支援区域
注目点は重点支援区域の選定プロセスである。重点支援区域の選定に際しては、地元における協議と申請を踏まえることが前提となっており、2019年9月に厚生労働省が一方的に示した通称「424リスト」(後に436病院に修正)とは性格が異なる。このため、地域レベルでは一定程度、病院再編を議論することについて合意形成がなされていると言える。実際、厚生労働省によると、いずれの区域でも再編に向けた協議が始まったり、再編に関する基本的な方針が合意・実行されたりしているという16。このため、今後の展開次第では、重点支援区域に立地する医療機関の再編に関して、恒久化された病床機能再編事業が充当される可能性がある。

さらに、これらの地域だけでなく、病院再編の動きは幾つか広がっている。例えば、青森県では青森市民病院と県立中央病院の統合・再編を意識した議論が外部有識者会議で模索されているほか、広島県では三原赤十字病院と三菱三原病院の統合論議が持ち上がっているという17。詳細については、今後の協議に委ねられる面があるものの、以上のような病院・病床再編を支援する一環としても、恒久化された病床機能再編事業が使われる可能性がある。

しかし、病床機能再編事業が大々的に使われる事態も想定しにくい。まず、そもそもの問題として、重点支援区域の指定が直ちに病院再編や病床削減に繋がるわけではない18。さらに、コロナ禍を受けて、多くの医療機関では逼迫する医療需要に対応するため、病床の確保が求められている上、見直しのターゲットとなった公立・公的病院が積極的にコロナ患者を受け入れているため、再編の議論を進められる環境にない。実際、知事からも「うちとあの病院を統合しようとか連携病院にしようとか、話し合いができる状況ではない。この議論は差し控えてほしい」という声も出ている19ほか、改正医療法の国会審議でも「地域医療構想、やはり一旦立ち止まって考えるべき」という批判が野党から示された20。こうした事情を踏まえると、2番目の制度改正に関する影響については、一部の事例を除けば、新型コロナウイルスが収束した後に本格化することになりそうだ。
 
15 2019年5月31日、経済財政諮問会議議事要旨における根本匠厚生労働相(当時)の発言。
16 2021年2月12日第28回地域医療構想に関するワーキンググループ資料を参照。
17 青森県の事例は2021年4月6日『読売新聞』、広島県の事例は2021年6月26日『中国新聞』を参照。
18 実際、重点支援区域に指定されている山口県萩区域では、市が運営する萩市民病院と民営の都志見病院を統合して中核病院を作る構想が協議されていたが、2021年3月の市長選で当選した田中文夫市長がゼロベースで再検討すると述べたことで、協議に暗雲が垂れ込めている。2021年6月30日『毎日新聞』などを参照。
19 2021年5月18日『m3.com』配信記事における平井伸治鳥取県知事(全国自治体病院開設者協議会長)の発言。
20 2021年5月13日、第204国会会議録参議院厚生労働委員会における田島麻衣子参院議員の発言。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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