2021年06月14日

ESGのSとは-具体的事例でSに対する理解を深める

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任   高岡 和佳子

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1――Sを具体的にイメージできますか?

図表1 エンゲージメントテーマの割合 ESGとは企業が持続的成長を遂げるために重要な3つの要素、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとった造語である。これら3つの要素を考慮した経営をESG経営、またこれら3要素を重視する投資をESG投資と呼ぶ。当然ながら、SもEやGと同じく重要であるが、機関投資家のエンゲージメント活動におけるSの存在感は小さい。エンゲージメント活動とは、投資先企業の持続的成長を促し、受益者の中長期的なリターンの拡大を目的とした取り組みの一つである。投資先企業との建設的な対話を通じて、投資先企業との認識の共有、問題の改善に努めることが、目的達成に繋がると考えられている。投資先企業の持続的成長を促すためには、建設的な対話におけるESG要素の役割は大きく、エンゲージメント活動におけるESGに関連するテーマの割合は大きい(図表1)1。エンゲージメント活動自体が株主による外部ガバナンス機能の一つなのだから、Gに関するテーマの割合が突出して高いのは当然としても、Eと比べてもSに関するテーマの割合は低い。プロ同士の対話なのだから、国内企業にはSに関する問題が相対的に少なく、結果としてSに関するテーマの割合が低いだけなのだろうが、Sに関する認識共有の難しさが、Sの低さに多少は影響しているかもしれない。そのように感じるのは、異常気象、買物袋の有料化など身近な問題と直結しやすく話題性のあるEと比べて、Sは、具体的なイメージがわきにくいからだ。そこで、本稿では具体的事例の確認を通じてSに対する理解を深めてみたい
 
1 E、S、G別にエンゲージテーマ比率を開示することは義務ではない。著名な機関投資家を中心に開示の有無を確認し、E、S、G別にエンゲージテーマ比率を開示していた4社のみの単純平均値に過ぎない。但し、4社とも、Sの比率が最も低い。

2――GPIFが採用するESG指数からSを学ぶ

2――GPIFが採用するESG指数からSを学ぶ

図表2 男女別 従業上地位の割合 世界最大級の規模を誇るGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、日本株式の3つのESG指数を採用し、これら指数に連動したパッシブ運用を行っている。3つの指数の内、2つは3要素全般を考慮した「総合型」指数、残る1つがSのうち女性活躍に着目した「テーマ型」指数(MSCI日本株女性活躍指数)である。人材確保や、顧客ニーズの多様化への対応力強化等、ダイバーシティの推進は持続的成長に不可欠な要素である。日本では、雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は、女性の方が男性よりもはるかに高く(図表2)、女性活躍推進も重要な課題である。実際のところ、Sの具体的イメージとして女性活躍推進を思い浮かべた人が多いのではないだろうか。しかし、ダイバーシティは性別だけでなく、年齢、人種、国籍、性的指向、宗教、価値観など幅広い多様性を求めている。女性活躍がダイバーシティの構成要素の一つでしかないのと同様に、ダイバーシティもSの構成要素の一つでしかない。
 
Sに対する理解の幅を広げるために、GPIFが採用する3つの指数のうち2つの指数を提供するMSCIがS評価で勘案する4つのテーマ、「人的資本」、「製造物責任」、「利害関係者の対立」、「社会的機会」を確認する2。「人的資本」の具体的課題としては、適切な労働管理、健康と安全への配慮、ダイバーシティ推進といった人的資本の開発などが含まれる。最近の言葉で分かりやすく言えば「ブラック企業を撲滅しましょう」といったところだろうか。そして、自社だけでなくサプライチェーンに対しても、同様の配慮が求められる。つまり、児童労働や強制労働など遠い世界の話に思える人権侵害が、自社製品の原材料から消費者に届くまでの一連の流れの中に組み込まれていないことも重要となる。「製造物責任」には、安全かつ質の高い商品・サービスの提供、個人情報などの保護等が含まれる。「利害関係者の対立」には、地元との良好な関係や武装勢力の資金源となり得る原料調達の回避が含まれる。最後に「社会的機会」にはコミュニケーションや金融、ヘルスケアサービスの利用可能性や健康面・栄養面の機会創出などが含まれる。サプライチェーン内の全労働者の人権を守り(「人的資本」)、安全かつ質の高い商品・サービスを提供し(「製造物責任」)、製造過程においても地域と適切な関係を構築する(「利害関係者の対立」)だけでなく、従業員か顧客か、地域住民か否かに関わらず全人類の生活の質向上を目指す(「社会的機会」)ということである。前段は配慮すべき人が限定的で具体的にイメージしやすいのだが、後段に進むにつれ、テーマが壮大になり、配慮すべき対象が広がるので、抽象的なイメージしかわかないのではないだろうか。
 
2 MSCI ESG Research (2020). “MSCI ESG RATINGS METHODOLOGY.”

3――企業の取り組みからSを学ぶ

3――企業の取り組みからSを学ぶ

ここでは、「SUSTAINA ESG AWARDS」のS部門で表彰された企業の取り組み事例を確認し、特に具体的イメージがわきにくい「製造物責任」、「利害関係者の対立」、「社会的機会」に対する理解を深めてみたい。歴代表彰企業6社の内、表彰回数を基準に選択した3社の多岐に渡るSに関する取り組みの中から、企業の事業内容との関連性が強く、具体的イメージが浮かびやすい取り組みを紹介する3。Sに関する具体的なイメージが分かり、少しでも理解が進めばと思う。
1パナソニック
『より多くの人々への心配りを、商品・サービスを通じて提供し、共に生き生きと快適に、豊かに暮らせる生活の実現をめざす』といった方針に則った商品を多数開発している。具体的には、小さな力でプラグを着脱できるので、コードに足を引っかけても転倒しにくい安全機能付きマグネットコンセントや、ケースに置くだけで充電できる等利便性が高く、楽なコミュニケーションを実現する耳かけ型補聴器といった商品を提供している。
 
2アサヒグループホールディングス
『人に寄り添い、豊かな地域を共につくる』ための活動の一環として、小学生向け出前授業を展開。日本各地の特産果実を使用した「特産三ツ矢」の果実原料の産地にある小学校での授業では、地域産業への興味や特産品に対する誇り醸成に取り組んでいる。また、地域・国の法規制や文化・習慣に合わせたマーケティング活動や、『正しいお酒の飲み方講座』を開催する等、「責任ある飲酒」を推進している。
 
3ヤマハ
社会・環境課題を見据えた製品・サービス開発の一環として、耳の健康に留意した「リスニングケア」機能を搭載したヘッドホン・イヤホンの商品化、地域伝統音楽向け楽器開発、離れていても合奏が楽しめるオンライン遠隔合奏サービスの公開などに取り組んでいる。このほか、器楽教育の普及や音楽の人と人をつなぐ力を活用する、地域活性や企業と社会の共有価値の創出を支援している。
図表3 SUSTAINA ESG AWARDS S部門表彰企業
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

(2021年06月14日「基礎研レター」)

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