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ESG投資について振り返るー単なる流行に終わらせないために考えてみる
基礎研REPORT(冊子版)3月号

金融研究部 常務取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 サステナビリティ投資推進室長 德島 勝幸
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1―はじめに
ESG投資が、すべての企業や団体にとって是認されるものか、一律の回答は難しい。E・S・Gの3要素のどれに力点を置くかで、異なる答えが生じるかもしれない。現在の強い流れの中でも、時に、立ち止まって考えることが必要ではないか。教条主義的な主張や行動に乗ってしまうと後から冷静に振り返った際に、しばしば悔悟の念を産む。ESG投資が今後も重要視されると確信すればこそ、立ち止まってみる必要があるだろう。
2―ESG投資は収益性を否定しない
年金運用者は、受益者に対するフィデューシャリーデューティーを負う。投資の際に意識されるべきは、受益者に対する給付の確実性と収益還元である。したがって、収益性を犠牲にしてまで、ESG要素を追求するべきものではない。短期的な観点と中長期的な観点とで、相反する行動を誘引する可能性がある。年金は、世間の流れに乗るのではなく、自らのESG投資に関する方針を確立し、それに合わせた行動を採ることが望ましい。
近年では、ESG投資が株式から他の資産領域にも拡大する傾向がある。インフラ投資などエクイティ性を有する資産においては、同様にESG要素を考えることが馴染む。一方で、債券の領域にまでESG投資が拡大されつつある。投資の収益性が損なわれなければ、債券投資においてESG要素を考慮することは誰も反対しない。しかし、ESG投資を意識しているからと言って、割高な水準で債券を購入することは、フィデューシャリーデューティーと合致しない。
最近の日本における債券発行を見ると、様々な名目で「環境債」や「グリーンボンド」といったものが募集されている。しかし、固定利付きである債券において、グリーンボンドだからと言って、割高な水準で購入されるべきではない。そもそも、「お金に色はない」から、グリーンボンドで調達した資金が、名目にのみ充当されるということはない。厳密なグリーンボンドにするためには、特約等で使途を厳しく限定するべきだろう。現状で多発されているグリーンボンドは、発行体の売らんかなの姿勢と、ESG投資を訴求する投資家の打算的な合意の上にあるものとしか見えない(それを「ウィンウィン」の関係と呼ぶこともできるが)。
3―ESGをキャンペーンに貶めるな
ESG投資が単なる流行となり、魔女狩りのような排除行動になってはならない。特に、ネガティブリストに基づくダイベストメントを強調するのは危険であり、同時に、企業の一部のみを捉えて肯定的にインベストメントを強調することにも危険性がある。一部のみならず企業全体やグループ会社も含めた集団として考えることも必要だろう。
結局のところ、ESG投資は投資家にとって、根本的な投資の姿勢を強く示すものである。周囲に流されず、また、一時の流行と考えることなく、フィデューシャリーデューティーを遂行する観点から、改めてESG投資への取組み方を見直してはいかがだろうか。
(2019年03月07日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1845
- 【職歴】
・1986年 日本生命保険相互会社入社
・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
・2025年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・日本ファイナンス学会
・証券経済学会
・日本金融学会
・日本経営財務研究学会
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