2021年06月11日

所有者不明土地への諸対策 (2)-共有制度の見直し

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

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1――はじめに

所有者不明土地問題への対策を定めた法改正を解説するシリーズの二回目は、共有制度の見直しである。共有というのは、たとえば一つの土地と土地の上の建物があって、この土地建物の所有者が複数名存在する状態の権利を指す。民法は共有物について「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」と規定している(民法249条)。

図表1のようなケースを事例として考える。たとえば親から相続した土地建物にこどもたち4人が居住していたが、長子である共有者A以外は独立して家を出ていったというものである。なお、共有者CおよびDは所在不明であるとする。
【図表1】ケース1(共有者A~Dが同じ割合で持分を保有)
Aは「共有物の全部」について利用ができるので、Aは共有物件に単独で居住し続けることができる。この場合、共有者Bはどの様な権利を主張することができるか(C,Dも同様だが、所在不明なのでここでは権利を主張しないものと考える)。Aが共有者としての権利をもって居住(法的には占有という)している以上、全部について利用できるのであるから、Bは明け渡しを請求することができないというのが判例である。明け渡しを求められないのであれば、Bの持分に応じた賃料相当額を請求することができるか。この点、請求できるとする判例もあるが、長期間にわたってAが無償で利用しているケースでは無償での利用(=使用貸借)という契約が成立しているとして、賃料相当額を請求できないケースもあるとされる。

所有者不明土地の中には、登記簿上共有のままで放置されているものもあり、また共有者が行方不明、あるいは共有者に相続が発生しており、相続人が特定できないものもある。このため土地の共有者がわからず(=誰かわからない、誰かわかっても連絡が取れない)1、管理や処分等に支障をきたす例が多く発生しているとのことである。そこで、共有者が所在不明などの状態にある共有の土地建物の利用、権利の集約、処分を行うことを容易にすることとした。これが今回解説する改正内容である。次項2では現行法の問題点を確認し、次々項3で改正法を解説する。
 
1 所在等不明とは登記簿や住民票などの公的記録を確認して権利者が誰か、あるいは権利者の所在や不明であるような場合とされる。
 

2――問題の所在

2――問題の所在

1共有物の変更・管理
共有者は他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることはできない(民法第251条)。したがって、たとえばケース1で共有者Aが家屋を建て増ししようとする場合には、他の共有者B~Dの同意が必要となる。ケース1では共有者CとDの所在が分からない(以下、所在不明の場合に加え、共有者がそもそも誰だかわからない場合も含めて所在等不明共有者という)ので同意の取得はできず、現行の民法下ではどうすることもできない(課題1)。
【図表2】共有物の変更(全員の同意が必要)
また、共有物の管理は持分価格の過半数で決する(民法第252条)とされている。管理行為としては、短期の賃貸借などが挙げられる。たとえばAが転勤などで1年間留守にするため、短期で他人に家屋を賃貸するといったことである。この場合、共有者CとDの二人の所在等が不明であることから、持分の過半数に届かず、賃貸をすることができない2(課題2)。
【図表3】共有物の管理(持分の過半数で決する)
 
2 なお、単なる修繕のような保存行為は各共有者が個々にできる(民法第25条但し書き)。
2他の共有者の持分取得・共有物分割
Aが共有関係を終了させ、不動産の全部あるいは一部を所有したいと考えた場合には、どのような手段があるか。まず、Aが不動産の全部を所有したいときには、B、C、Dの持分をAが取得することとなる。Bとは持分取得の合意ができればよいというだけが、CとDは所在等不明であり、持分の譲渡を受けることは現行法ではできない(課題3)。

他方、Aは今使っている部分さえ自分に残ればよいと考えた場合には、共有物の分割という手段がある。各共有者はいつでも共有物の分割を請求できる(民法第256条)。この場合は他の共有者と協議し、協議が整わない場合には、裁判で分割を請求することができる(民法第258条第1項)。

共有物の分割において、法律上は、現物の分割(不動産を物理的に4分割するなど)、あるいは補完的に、競売を行って代金を分割することが認められている(民法第258条第2項)。ただし、共有物の分割訴訟は固有必要的共同訴訟とされ、共有者が全員参加した訴訟でなければ提起することができない。したがってケース1のように所在等不明共有者がいるときには、共有物の分割はできない(課題4)。
【図表4】現物分割の例
また、共有物の分割は上述の通り現物の分割か競売による代金の分割に限定されているため、共有者が仮に全員判明していても、誰か(例えばB)が現物分割に反対した場合には競売になってしまう。その結果、Aが住み続けることはできない(課題5)。なお、判例によれば、特段の事情がある場合において、価格賠償による分割も許されるとするものがある。たとえばAが不動産を取得する代わりに、他の共有者に対してそれぞれの価格相当分を支払うとするものである(=全面的価格賠償による分割)。
3|共有物の処分(第三者への売却)
共有者が不動産を他に売却(処分)したいとする。共有物の処分について、共有者は自己の持分を自由に処分することができる。ただ、持分を購入した第三者は、その他の共有者がいるため、単独の所有権を得るわけではない。ケース1の例でいえば、第三者が共有者A、Bから持分を譲り受けて土地家屋を利用することができても、単独所有権を得ることはできない。どこにいるともわからない共有者CとDとの共有状態が継続することになる(図表5)。
【図表5】共有物の処分(第三者への売却)
このような事情であるからして、このような物件はそもそも購入希望者が現れないものと思われる。したがって、所在不明の共有者の持分も含めて、共有物全体を処分する方策が必要となる(課題6)。
 
以上をまとめると図表6のようになる。
【図表6】上記まとめ

3――新しい共有制度

3――新しい共有制度

1共有物の変更・管理
共有物の変更にあたっては上述の通り現行法では他の共有者全員の同意を要するとされていたものを、(1)変更の形状や効用の著しい変更を伴わない場合は、他の共有者の同意を不要であるとした3。そして、(2)共有者が、他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない(上記で述べた所在等不明共有者)ときは、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加える裁判を行える(改正民法第251条第2項、課題1への対応)とされた。ケース1でいえば、共有者Bから同意を得て、裁判を行えば共有者Aは建て増しができる(図表7)。
【図表7】新しい共有物の変更(所在等不明者の同意がなくとも裁判で変更が可能)
次に、共有物の管理行為についてであるが、所在等不明共有者、および催告をしても管理行為への賛否を明らかにしない共有者(以下、所在等不明・賛否不明共有者)がいた場合に、所在等不明・賛否不明共有者以外の持分価格の過半数で決する裁判ができるとされた(改正民法第252条第4項、課題2への対応)。ケース1でAがBの同意を得られるのであれば、裁判を求めることで管理行為ができる(図表8)。
【図表8】新しい共有物の管理(不明者以外の持分の過半数で決する裁判を行う)
なお、改正法では管理行為の範囲が明確化された。たとえば建物の賃貸借の場合は3年を超えないものは管理行為に該当することとされた(改正民法第252条第4項第3号)。これは、借地借家法により、建物の賃貸借を更新拒絶するには正当事由が必要となる場合があり、賃貸人からは容易に解約ができない。そのため、管理行為を超えて処分行為に該当するのではないかという疑問があったため、法律上明確にしたものである。

さらに、共有者は共有物の管理者を選任できるとの規定が設けられた(改正民法第252条の2)。管理者の選任は共有物の管理と同じルールである。すなわち、共有者の持分価格の過半数で共有者を選任できることとされ、所在等不明共有者がいる場合には、不明者以外の持分の過半数で決する裁判をすることができる。
 
3 例として、土埃の舞う土地の歩道を舗装するようなケースが挙げられている(2021年3月23日衆院議事録(山下委員発言)。
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松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

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