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マイナポイント等がマイナンバーカード取得に与えた効果と、普及に向けた課題
清水 仁志
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1――はじめに
マイナポイント付与によるマイナンバーカードの普及促進については、一定の効果があったと考えられる。全国の新規マイナンバーカード交付枚数は、マイナポイントの予約が開始された2020年7月以前では、月平均で28万枚であったが、予約開始後には150万枚となっており、取得ペースは加速している(図表1)。マイナンバーカードはかねてより使い道がないといった批判があったが、マイナポイントという金銭的インセンティブを与えることで、ポイント目当てで取得した人も多かったと思われる。また、マイナポイント開始直前の2020年5月から実施された10万円の特別定額給付金もカード取得に追い風となった。マイナンバーカードを用いたオンライン申請を利用することで、郵送での手続きよりも迅速に給付金を受け取ることができると考えられたことから、カードの認知度は急速に上がり、交付申請も増加した。
本稿では、マイナポイント導入前後におけるマイナンバーカード取得の動向を分析することで、マイナポイントを主とする一連の施策によるマイナンバーカード取得への効果(以下、マイナポイントの効果)がどの程度あったのかについて確認し、今後の普及について考えたい。
2――マイナポイントによるマイナンバーカード取得効果
1 交付率=交付枚数÷住民基本台帳人口(住民票に記載されている者の数)
次に、全国と同様の方法で、性・年齢別でのマイナポイントの効果を推計した(図表3)。
この結果から、どの属性においてもマイナポイントによりマイナンバーカードの取得が進んだことがわかるが、特徴的な3つの点について述べたい。
一つ目は、15歳以下ならびに、子育て世代でマイナポイントの効果が大きかったことである。マイナンバーカードは、主に内蔵されている電子証明書や、マイナンバー確認のために使用されることが多い。しかし、15歳以下では、行政手続きやマイナンバーを提出する機会は限られるため、マイナポイントが始まる前まではカード保有のメリットが薄く、交付率は他の世代よりも低かった。
マイナポイントは、一人当たり最大で5,000円分のポイントを受け取ることができる。マイナンバーカード取得のための申請手続きは面倒であるが、子供の分も合わせて手続きすればその分ポイントを多くもらうことができるため、カード取得のメリットは相対的に大きくなる。15歳未満の場合、カードの申請は、保護者が代理で行う。子供にとってカード自体は必要でなくとも、ポイント獲得のために、親が子供の分も一緒に申し込み手続きをした可能性が高い。
また、コロナによる手続きの緩和措置もカード取得を押し上げた可能性がある。マイナンバーカードの交付は、未就学児等で本人の同行が困難である場合を除き、通常、保護者と子供が一緒に受け取りを行う必要がある。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえて、当面の緊急措置として、外出自粛を行っている申請者については、代理人による受け取りを可能としている自治体も多いようだ。申請から受け取りまで一貫して保護者が代理で行えることで、自身のカード取得のついでに子供の分も手続きをした人も多いと思われる。
二つ目は、どの年齢においても女性のほうが男性よりもマイナポイントの効果が大きかったことである。マイナンバーカードの交付は、平日の日中に役所の窓口に取りに行くことが一般的である。就業率や、雇用者に占める正規雇用の割合が相対的に少ない女性のほうが、役所に足を運ぶための都合をつけやすかったと思われる。
また、女性は男性と比べて、ポイントに対する感度が高いこともカード取得を促した可能性がある。ネットエイジアが実施したアンケート調査「日本人のポイント活用に関する調査2020」(対象は20~49歳の男女各1,000名)によると、「ポイントサービスが好き」と回答した割合は、男性(77.8%)よりも女性(86.3%)の方が高かった。図表3を見ると、15歳未満と子育て世代の女性のマイナポイントの効果が同程度であることから、母親が子供の分のカードを一緒に申請した家庭が多かったのではないだろうか。
三つ目は、高齢者層では相対的にマイナポイントの効果が小さかったことだ。高齢者層は、身分証明書での利用によるメリットや、手続きのための時間的余裕があることから、もともとマイナンバーカードの交付率は相対的に高く、マイナポイントの効果が出づらかった。また、子育て世代のように、子供の分のポイントを受け取ることができるわけではないため、手続きの手間と比べてマイナポイントのメリットは小さい。さらに、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、重症化リスクが高い高齢者は、マイナンバーカード取得手続きのための人との接触を避けていた可能性も指摘できるだろう。
3――今後のマイナンバーカード普及の課題
マイナポイントの予算は5,000万人分(当初は4,000万人分)確保されているが、4月22日時点での申込者数は約1,677万人にとどまっている。4月の締め切りを前にして、マイナンバーカード、マイナポイントともに申し込みが急増しているが、それでも5,000万人には届かないと見込まれる2。
政府が目指す令和4年度中にほとんどの住民がマイナンバーカードを保有するという目標の達成も難しい状況にある。
確かに、マイナポイントによりマイナンバーカードの取得ペースは明確に加速し、また、カード申請の締め切りを前にして、さらにそのペースは加速している。しかし、マイナポイントという金銭的インセンティブがなくなれば、取得ペースの失速は必至である。
また、今回のマイナポイントにより、マイナンバーカード保有に対しての抵抗が比較的小さい層におけるカード取得が進んだため、今カードを保有していない人たちに普及を促すのはこれまで以上に難しくなっていると考えられる。
10万円の特別定額給付の際には、今まで使う機会がなかった電子証明書の暗証番号がわからず、ロックされてしまった人も多かったようである。今後、オンライン手続きで機能発揮が期待される電子証明書が無効になれば、カード保有の意義は半減してしまう。
政府は、一部の行政手続きに限られていたマイナンバーカードの使用場面をより日常的にするために、保険証との一体化、電子証明書のスマホ搭載、免許証との一体化などを検討している(図表5)。
しかしながら、3月末に予定されていた保険証との一体化は、患者情報が正しく確認できないトラブルにより、本格運用の開始時期は10月をめどに先送りされた。運用開始後も、医療機関がマイナンバーカード読み取り機を設置していない場合には、保険証を持参する必要があり、しばらくは完全な一体化は実現しない3。
マイナンバーカードの本来の目的は、デジタル・ガバメントや、社会全体のデジタル化の実現である。肝心の「利用」までの道筋を立てないまま、取得にばかり専念してもカードの普及や活用には自ずと限界がくる。普及のために大掛かりな施策をするのみではなく、地道な施策の積み重ねにより、利便性向上に向けたシステムづくり、そして広報を進めていき、取得から利用へと繋げることが重要である。
2 4月23日の武田総務大臣記者会見によると、令和3年4月21日時点で、マイナンバーカードの有効申請受付数の累計は約4,767万枚、交付済件数の累計は約3,733万枚である
3 マイナンバーカードを健康保険証として利用できるよう、医療機関・薬局のシステム整備を支援しており、「令和5年3月末には概ね全ての医療機関等での導入を目指す」ことを掲げている
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(2021年05月07日「基礎研レター」)
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