2021年03月31日

成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2020年)-「オフィス拡張移転DI」の動向

金融研究部 准主任研究員   佐久間 誠

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三幸エステート株式会社(本社:東京都中央区、取締役社長:武井重夫)と株式会社ニッセイ基礎研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:手島恒明)は、賃貸オフィス成約データをもとに、オフィス市場動向を分析する共同研究(以下、本研究)を開始した。

両社はこれまで、成約賃料指数である「オフィスレント・インデックス」1を開発するなど、オフィス市場分析に共同で取り組んできた。本研究では、賃貸オフィスの成約事例に関する各種データを活用し、オフィス市場における企業の移転動向などに関する分析を行う。

本稿では、本研究の一部である「オフィス拡張移転DI」を紹介し、コロナ禍によって転換期を迎えた2020年の東京都心部2を中心にオフィス市場の動向について確認する。
 
本稿は三幸エステート「オフィス ユーザー レポート」を加筆・修正の上、転載したものである。

1 三幸エステート(2021)「オフィスレント・インデックス2020年第4四半期」(2021年2月4日)
2 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2021」27ページを参照。
 

1――オフィス成約動向

1――オフィス成約動向 (2020年、東京都心5区)

三幸エステートの公表データ3によると、2020年の東京都心5区におけるオフィス成約面積は51万坪と、前年比▲31%減少した。月別に見ると、新型コロナウイルス感染症が拡大した3月(前年同月比▲42%)に大きく減少したのち、緊急事態宣言中の5月には前年同月比▲71%と過去最大の落ち込みを記録した(図表1)。6月~8月にかけても同3割~6割程度の減少が続いたため、3月~8月(6カ月間)における成約面積の減少が、2020年全体の減少の9割を占める結果となった。9月は前年同月比+16%と回復したものの、10月~12月は同1割~2割程度減少して推移した。このようにコロナ禍によって人々の移動が制限されるなか、2020年は企業によるオフィス移転の動きも大きく鈍化した4
図表 1:月別成約面積(2020年vs. 2019年、東京都心5区)
 
3 三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」を参照。
4 2021年1月のオフィス成約面積は、5.3万坪と前年同月比▲26%の減少となった。緊急事態宣言の再発令に伴い、オフィス成約面積は再び落ち込んでいる。
 

2――オフィス拡張移転DIの推移

2――オフィス拡張移転DIの推移 (2019年~2020年、東京都心部)

まず、東京都心部の「オフィス拡張移転DI」5を確認する(図表2)。オフィス拡張移転DIは、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す。

オフィス拡張移転DIは、オフィス市場が活況を呈していた2019年には70%~80%と高い水準で推移した(図表 2)。2018年以降、新築オフィスビルの大量供給が続いたにもかかわらず、こうした企業の旺盛なオフィス拡張意欲が新規供給を吸収し、東京都心部の空室率(全規模)は2019年1月に0.99%と初めて1%を下回り、その後もタイトな需給バランスが継続した。

しかし、2020年にコロナ危機が訪れると、オフィス拡張移転DIは低下し、2020年第4四半期は51%と、拡張・縮小が拮抗する水準となった。空室率もやや遅れて上昇に転じ、2020年3月の0.79%を底に、2021年2月には2.71%まで上昇するなど、東京オフィス市場は調整局面を迎えている。

もっとも、前回のリーマン・ショック(2008年)後の調整局面と比較して、雇用環境の悪化は限定される6。法人企業景気予測調査の従業員数判断BSIによると、新型コロナウイルスの感染拡大により雇用環境は厳しさを増しているものの、依然として人手不足の状況が続いている。その結果、オフィス拡張移転DIが示す通り、縮小移転の事例が顕著に増えているわけではない可能性がある。一方、前回の調整局面とは異なり、今回はテレワークの普及がオフィス需要を構造的に下押しするとの懸念もある。また今後、企業の業績悪化等で縮小移転がさらに増加しオフィス拡張移転DIが一段と低下した場合、オフィス市況の調整スピードが加速する可能性もあり、その動向に留意したい。
図表 2:オフィス拡張移転DIと空室率の推移(2019年~2020年、東京都心部)
 
5 算出方法については、末尾の【参考資料1】「オフィス拡張移転DIについて」を参照。
6 吉田資(2021)「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2021年)」(不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2021年2月19日)
 

3――オフィス拡張移転DIの業種別動向

3――オフィス拡張移転DIの業種別動向(2020年、東京圏)

次に、2020年の東京圏7におけるオフィス拡張移転DIについて、業種別に比較する。図表3は、横軸に売上高(前年比)を、縦軸にオフィス拡張移転DIを示した。これによると、両者の相関は高く、2020年は業績不振の業種を中心に縮小移転が増加し、オフィス拡張移転DIが低下したことが分かる。具体的には、売上高が大幅に減少した「宿泊業・飲食サービス業」や「教育・学習支援業」ではオフィス拡張移転DIが低いのに対して、売上高がさほど減少しなかった「不動産業・物品賃貸業」や「その他サービス業」、「情報通信業」ではオフィス拡張移転DIが総じて高い傾向にある。

現状、オフィス床の解約理由として、コロナ禍を起点とした、(1)企業業績悪化、(2)テレワーク拡大、が指摘される。(2)テレワーク拡大によるオフィス縮小は、話題として取り上げられる機会が多いものの、実際の動きとしてそれほど顕在化しているわけではなく、今のところ(1)企業業績悪化の影響が大きいことが示唆される。
図表 3:業種別にみたオフィス拡張移転DI vs. 売上高(前年比)(2020年、東京圏)
 
7 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県。業種別の分析を行うために十分なデータ数を確保するため、本分析は東京都心部ではなく、東京圏とした。
 

4――オフィス拡張移転DIのエリア別動向

4――オフィス拡張移転DIのエリア別動向(2020年、東京都心部)

最後に、2020年の東京都心部の16エリア8を対象に、オフィス拡張移転DIをエリア別に比較する(図表 4)。まず、拡張移転の多かった「上位5エリア」をみると、第1位が「西新宿(オフィス拡張移転DI85%)」となり、続いて「渋谷・桜丘・恵比寿(同67%)」、「麹町・飯田橋(同65%)」、「五反田・大崎・東品川(同64%)」、「新宿・四谷(同61%)」の順となった(図表4)。上位5エリアのうち、「西新宿」、「渋谷・桜丘・恵比寿」、「五反田・大崎・東品川」、「新宿・四谷」の4エリアは、今回、オフィス拡張移転DIの高かった3業種(「IT業」・「不動産業・物品賃貸業」・「その他サービス業」)の従業員数の割合が高いエリアとなっている(図表5)。これらの業種が集積しているエリアでは、オフィス拡張意欲の高い企業がさらに集積するという好循環がもたらされている可能性がある。

新型コロナの落ち込みから回復する過程では、好調業種の業績がさらに伸び、不振業種の業績が伸び悩む「K字型回復」が指摘されている。したがって、今後はエリア毎の業種集積の違いによって、オフィス市況の回復スピードにも差が生じるかもしれない。
図表 4:オフィス拡張移転DIの上位5エリア・下位5エリア(2020年、東京都心部)
図表 5:「IT業」・「その他サービス業」・「不動産業・物品賃貸業」の従業員比率(東京都心部)
一方で、縮小移転の多かった「下位5エリア」をみると、オフィス拡張移転DIが低い順に、「京橋・銀座・日本橋室町(オフィス拡張移転DI52%)」、「新橋・虎ノ門(同52%)」、「赤坂・青山・六本木(同52%)」、「内神田・外神田(同54%)」、「築地・茅場町・東日本橋(同56%)」となった。下位5エリアでは、オフィスコスト削減を目的とした移転が増加しているが、業種集積などのエリア特性に大きな特徴は見られなかった。縮小移転が移転件数全体に占める割合を「下位5エリア」と「東京都心部(下位5エリアを除く)」で比較すると、双方とも2020年第1四半期から緩やかに縮小移転が増加している。一方、下位5エリアは、2020年後半から縮小移転の増加が加速し、2020年第4四半期には縮小移転が移転件数全体の42%を占め、下位5エリアを除く東京都心部の26%を上回っている(図表6)。今後、オフィスコスト削減を目的とした縮小移転の動きが市場全体に広がるのかどうか、注視したい。
図表 6:オフィス移転件数に占める縮小移転の割合(2019年~2020年、東京都心部)
 
8 東京都心部の各16エリアの概要については、末尾の【参考資料2】「本稿の東京都心部16エリアと三幸エステート「オフィスレントデータ2021」記載エリアの対応表」を参照。
 

5――おわりに

5――おわりに

本稿では、三幸エステートとニッセイ基礎研究所の共同研究の一部であるオフィス拡張移転DIを紹介し、転換期を迎えた2020年の東京都心部のオフィス市場を振り返った。そのなかで、

(1)これまでは企業の旺盛なオフィス拡張意欲が新規供給を吸収しタイトな需給バランスが継続していたが、今回のコロナ禍を受けてオフィス拡張移転DIは拡張・縮小が拮抗する水準まで低下。その後、空室率がやや遅れて上昇に転じたこと

(2)オフィス床の解約は、テレワーク拡大に伴う企業のオフィス再構築の動きよりも、企業業績の悪化による影響が大きいこと

(3)IT業などコロナ禍の影響が限定的であった業種はオフィス拡張移転DIが高く、これらの業種が集積するエリアではオフィス拡張移転DIが高い傾向にあること、

を確認した。

調整局面を迎えた東京オフィス市場は依然として先行き不透明であり、不確実性の高い状況が続いている。三幸エステートとニッセイ基礎研究所は、今後とも本研究をはじめオフィス市場におけるデータ活用並びに情報発信を通じて、都市経済の発展に寄与することを目指す。
 

【参考資料1】

【参考資料1】 オフィス拡張移転DIについて

オフィス拡張移転DI9は、オフィス移転後の賃貸面積が移転前と比較して(1)拡張、(2)同規模、(3)縮小、した件数を集計し、次式により計算している。

オフィス拡張移転DI
 =1.0×拡張移転件数構成比+0.5×同規模移転構成比+0.0×縮小移転件数構成比

オフィス拡張移転DIは0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを表す。例えば、図表7のように、オフィス移転が合計500件あり、そのうち拡張移転が150件、同規模移転が300件、縮小移転が50件の場合、オフィス拡張移転DIは60%となり、企業の拡張意欲が強いことを表す。
図表 7:「オフィス拡張移転DI」の例
 
9 DIはDiffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略、変化の方向性を示す指標のことである。DIの代表例としては、経済分野では日本銀行の 全国企業短期経済観測調査(日銀短観)や内閣府の景気動向指数、また不動産分野では土地総合研究所が公表する不動産業業況等調査(不動産業業況指数)がある。
 

【参考資料2】

【参考資料2】 本稿の東京都心部16エリアと三幸エステート「オフィスレントデータ2021」記載エリアの対応表

本稿では、東京都心部の16エリアについて分析を行った。同16エリアは、三幸エステート「オフィスレントデータ2021」における東京都心部の29エリアを、図表8の通り、一部集約したものである。
図表 8:本稿における東京都心部16エリアと 
三幸エステート「オフィスレントデータ2021」の東京都心部29エリアの対応
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

(2021年03月31日「不動産投資レポート」)

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【成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2020年)-「オフィス拡張移転DI」の動向】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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