2020年10月07日

年を重ねると脳は衰えるだけなのか?

生活研究部 主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任   前田 展弘

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Q1.将来の不安の一つに、「頭(脳機能)」の健康のことがあります。“年をとったらボケるだけ”のようなことをよく聞きますが、実際はどうなのでしょうか?

■加齢とともに弱くなる知能と強くなる知能がある
「年をとると脳は衰える一方である」、そうした先入観を持たれている人は少なくないでしょう。ただ、身体の健康のことと同様に、脳の健康についても飽くまで個人差がある話です。その上でのことにはなりますが、心理学研究におけるこれまでの研究の蓄積から、脳の機能を司る「知能」(学習能力や適応能力など)は、成人期を迎えた後、加齢とともに衰退するだけと考えられていました。しかし近年、研究が進められたことによって、高齢期における知能の変化は、「衰退する側面」と高齢まで「維持・強化される側面」の両面があることがわかってきています。

前者の衰退が見られる知能は、「流動性知能」と呼ばれ、主に神経系の機能のもとで決定される能力で、計算力や暗記力など、新しい場面への適応が要求される能力です。新しい商品(IOT機器など)が出たときに、なかなか使いこなすことが難しいと言う高齢者の方もいらっしゃいますが、流動性知能の低下が影響している可能性があります。一方、後者の高齢期まで維持・強化される知能は、「結晶性知能」と呼ばれ、語彙力(言葉の数など)、判断力、問題解決能力など、年を重ね、経験を積み重ねることによって培われ強化されていく知能です。これは「経験」という貴重な財産を脳に蓄えていったり、生活習慣や訓練によって維持していくことのできる能力です1。図表1が示す認知能力(知能を司る機能)の年齢による変化をご覧いただいても、加齢に伴う「強み」と「弱み」の両面があることがわかります。脳の機能は、加齢に伴い衰えるだけと考えていたかもしれませんが、加齢とともに経験によって強化されていく側面もあるということをぜひ知っていただきたいと思います。
 
1 権藤恭之編「高齢者心理学」(朝倉書店、2008年)、浜口晴彦編集代表「現代エイジング辞典」(1996年)等を参考に記載。
■何歳になっても脳は若返る
また、“何歳になっても脳は若返る”ということも知っていただきたいことです。神経科学の分野では、過去何十年もの間、「脳細胞の再成長はありえず、脳は新たな細胞を生成しない」と言われていました。ところが、米国の研究者(ジェセフ・アルトマン)によって90年代後半に、成人の脳でも新たな細胞が生成できることが立証されています(この脳細胞生成のプロセスは「神経生成」と呼ばれています)。この発見は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの脳が衰えていく病気の治療や、自分の知力を維持向上させたいと願うすべての人に希望(可能性)をもたらしました。つまり、年齢にかかわらず“自分の脳をつくる、再生できる”可能性があるということです2

語学の学習などもそうですが、「年だからもう無理」とすぐあきらめず、こうした研究成果も踏まえながら、何歳になっても、新たなチャレンジを心がけることも大切なことだと思います。
図表1:認知能力の年齢による変化

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https://www.nli-research.co.jp/report_category/tag_category_id=15?site=nli
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生活研究部   主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

(2020年10月07日「ジェロントロジーレポート」)

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【年を重ねると脳は衰えるだけなのか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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