コラム
2023年07月19日

官民協働による高齢化課題解決の取組視点~85歳以上1000万人時代をどう支えるか

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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■今後の高齢化の行方と特徴

“官民協働して社会課題を解決しながら成長を目指す”、これは今年(令和5年)の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)」の冒頭で強調されていたことである。産業界の多くの企業もこの具体的な実現に向けて検討を深めているところではないだろうか。本稿では、筆者の専門とするジェロントロジー、つまり高齢者及び高齢化に関する領域からこの点について考えてみたい。

まずおさらいにはなるが日本の高齢化の動向について確認しておこう。周知のとおり、日本は戦後一貫して高齢化が進んできた。図表1に人口の年齢構造(3区分)の変化を示しているが、1920年の人口に占める14歳以下の割合は36.5%、15~64歳は58.3%、65歳以上は5.3%であったものが、その後、特に1970年代以降急速に速度を上げて高齢化が進み、現在(2022年)では、14歳以下は11.6%、15~64歳は59.4%、65歳以上は29.0%と、高齢者が約3割を占める社会となっている。
図表1:日本の人口の年齢構造(3区分)の推移と推計(1920~2070年)
ではこれからの高齢化はどうなっていくのか、3つのポイントを述べておきたい。

(1) 高齢化はやがて落ち着く(今が社会・市場の創り直しの過渡期)
今後も高齢化は進んでいくが、永遠に続くわけではない。2050年あたりを過ぎると、高齢者が約4割、15~64歳が約5割、14歳以下が約1割で構成される社会が常態化していく。もちろん今後の少子化の動向が劇的に変わってくればまた話は変わってくるが、今のトレンドが続く限り未来の日本は、こうした超高齢社会が基本の形になっていくのである。そのことから今は、そうした未来社会の形に合わせるように社会の制度やシステム、市場のあり方などを創り直す過渡期にあると言える。企業にとってこうした変化(課題)に対応する提案ができれば一つのビジネスチャンスになるであろう。

(2) 高齢者だけが今後も増え続ける(高齢者市場は拡大する)
人口減少下にある日本であるが、その中でも唯一65歳以上の高齢者だけは、少なくとも2044年まで増加していく見通しにある1。人口=市場と捉えれば、高齢者市場は当面拡大の一途にあり、また高齢者は他の年代よりも相対的に保有資産が大きいことも加味すれば、高齢者市場が有する経済成長のポテンシャルは大きいと考えられる。

(3) 「高齢者の後期高齢化」が進む(85歳以上1000万人時代の到来)
増加する高齢者の多くは75歳以上の高齢者である。図表2にあるとおり、65~74歳の人口割合は2050年まで13%台で大きな変化は見られない一方で、75歳以上は14.8%(2020年)⇒19.2%(2035年)⇒23.3%(2050年)と増えていく。2035年には5人に1人、2050年には4人に1人が75歳以上の社会になっていく。その中でも特に注目されるのが、85歳以上の高齢者であり2036年には1000万人を超えていく2。2020年の613万人に対して1.6倍の数である。こうした高齢者の後期高齢化の変化を踏まえて、課題解決の道筋を考えていく必要がある。
図表2:日本の将来人口構造(2020~2050年)
 
1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果。高齢者数のピークを迎える2044年の高齢者数は3950万人(高齢化率36.0%)。
2 2036~2040年の5年間、1000万人を超える予測である。

■官民協働による高齢化課題解決の取組視点

では、冒頭の論点に戻り、どのような課題(高齢化課題)に対して官民協働で取り組むことが望まれるか、様々な視点が挙げられるが本稿では次の1点のみ提案したい。

<視点>民間版生活支援コーディネーター(仮称)の配置による官民協働事業の展開
85歳以上の高齢者が1000万人を超えていくということは社会にとって大きなインパクトであり、そうした高齢者を支え切れるのか大きな社会課題になり得る。同居する家族(子ども)がいる、あるいは高齢者向けの施設や住宅(有料老人ホーム等)に入居していれば比較的心配は少ないかもしれないが、身寄りがいない人はもちろん、子供がいても同居せず独り暮らしである場合は非常に心配である3。実際、例えば2035年時点の85歳以上の高齢者の約半分は一人暮らしと予測される(女性の場合は74%が独り暮らし)4。介護や認知症、孤立や孤独の問題をはじめ、買物や病院への通院等、日常の暮らしを支えていく支援が必要となる可能性が高い。現在、民生委員や生活支援コーディネーター5等がそうした高齢者を支えているが、今後対象となる高齢者が増えていくなかで福祉だけで支え切れるのか不安視されるところである。

そこで提案したいことが、民間による「生活支援コーディネーター(仮称)」の配置による協働事業の展開である。一人でも誰かが常にサポートする(気にかける、支援する)、その“誰か”を確保することが重要であり、福祉だけでは量的にカバーしきれないとの観測からその一翼を福祉とともに民間が担うことを企図している。自治体にとって民間と協働することのメリットとしては、マンパワーが拡充されることにより「アウトリーチ」(積極的に対象者の居る場所に出向いて働きかけること)の問題が改善に向かうことに加えて、自治体(福祉関係者)が有する情報にも限りがある中で高齢者にとって有益な情報の量を増やせることが期待される。例えば、近年は“Age Tech”と呼ばれる高齢者を対象に生活や健康をサポートするためのテクノロジーや新しい商品やサービス等が続々と開発されてきている。これだけに限らないが、現在も指摘の多い「高齢者本人に伝えたいことがあってもなかなか伝えることができないという情報伝達の壁の問題」の克服につながる一方策になるかもしれない。一方、企業にとってのメリットは、財源問題はあるものの、社会貢献・地域貢献に加えて、顧客接点の拡大を通じたビジネスが広がる可能性があるのではないか。

いずれにしても、どのような条件で協働関係を構築できるか、互いの目的とメリットを共有できるかということが重要であり、その課題をクリアしなければこうした協働事業は生まれない。企業にとっては、自治体からの委託と予算付与を受ける形、つまりG(自治体) to B(企業)ビジネスとして取り組むことが望まれるが、自治体と調整できるかが大きな課題と言える。なお、当該事業は、住民(生活者)と比較的接点の多い生命保険をはじめとする金融機関が協働対象者として有力な候補になると考えている。

以上、雑駁な提案であるが、これから迎えるのは本格的に超高齢化する社会である。生産年齢人口が減少するなか、発想を柔軟にして、効率よく社会を支えるそういう仕組みを考えていきたいものである。
 
3 現在でも仕事と親のケア(生活支援~介護)に悩む「ビジネスケアラー」という人たちの問題が注目されているように、子ども世代(中高年)で対応し切れないケースも増えていくと思われる。そこで必要とされるのが福祉サービスになるが、果たして福祉だけで対応し切れるか不安視される。
4 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2018年推計)」によれば、2035年の85歳以上の世帯に占める単独世帯の割合は45.4%(男性は21.1%、女性は74.1%)。
5 厚生労働省主導により全国の自治体に配置されている。「通いの場」へのお誘いといったことをはじめ地域の資源を高齢者に伝える中で高齢者の生活を支える役割を担っている。
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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

(2023年07月19日「研究員の眼」)

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