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人生100年時代の働く環境づくり~未来に向けた地域政策の視点として
生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘
ただ、どうすべきかを考えたときに、(1)年齢に関わらず失業を恐れる心配のない可能性(選択肢)豊かな雇用市場の中で働ける、(2)自らしたいことにチャレンジできる社会で活躍できる(自律的な仕事ができる)、(3)自宅あるいは自宅のそばなど働きやすい環境で柔軟に働けることが、「理想」的なことではないかと考え、そのために必要な取組みとして①~⑦のことを挙げている。
取組視点の①は、地域の発展また若者の定着をはかる(都市への若者流出を防ぐ)観点から基本的なことにはなるが、その地域にしかない魅力ある新たな産業を育てることが必要と考える(例えば「スマート農業(AI・IOTを駆使した農業)」など、地域の実情に合わせた発想と創意工夫が必要である)。②は高齢期の活躍場所の拡大をはかることは、人生100年時代には不可欠なことであり、この点については現在進行中の事業である厚生労働省主導の「生涯現役促進地域連携事業」5の充実・発展が必要と考えるものである。③④は政府が現在進める「働き方改革」の中でも目出しされていることであるが、「副業・兼業」(デュアルワーク)を進めることが若者の将来の可能性を拡げることにつながり、経済基盤の確保に向けた「自己防衛策」にもなると考えるものである。またテレワークやシェアオフィス(サテライトオフィス)を地域の中で充実させていければ、職場との距離の制約のない労働環境が整備され、働ける選択肢が拡がると考えるものである。⑤の「モザイク型就労環境」は耳慣れない言葉かと思われるが、1人が複数のスキルを有する業務を行うのではなく、業務ごとにその業務を得意とする人が担うといったイメージである。企業を横断する形で個人が有する強み・スキルを発揮できる労働市場のことであり、ジョブ型労働市場の形成にもつながることである。ただ、こうした市場の形成は労働市場全体の変容が求められることでもあり、中長期的な視点から考えるものである。⑥は働き方の自由度が今後さらに高まると予測するなか、「働きがい」を優先する若者がこれまで以上に増える可能性がある。そのときに「したいことをより容易にチャレンジできる環境」であることが望まれる。経験豊かなシニアがその起業を支えることも望ましい。そのような観点からの「若者の起業サポート制度」の充実である。⑦は政府が「人生100年時代構想会議」の中で検討を進めている「リカレント教育(生涯にわたって教育と就労を交互に行うことを勧める教育システム)」や人生100年を前提とした「ライフデザイン教育」を地域の中で育んでいけば、若者の未来の可能性を拡げることにつながると考えるものである。
以上、総論的なことに止まるが、これからの若者が人生100年をより安心して働きがいをもって活躍し続けられるようにするために地域として何ができるか、この課題に直面している自治体関係者がいれば、今後の検討の視点として僅かでも参考にしていただければ幸いである。最後に付け加えると、こうした働く環境づくりは、行政だけではもちろん、いくつかの企業が取組めばできるということではない。「働く」という意味やあり方に関する文化や価値観を変えていくような大きなチャレンジであり、地域住民を含めあらゆる関係者が一体となった「未来に向けたまちづくり」の一環として取組まれることを推奨したい。人生100年時代を不安ではなく希望を持って生きられるように、各地域また社会全体がより良い方向に変わっていくことを切に願うところである。
1 リンダ ・グラットン/アンドリュー・スコット著、池村千秋(訳)、東洋経済新報社、2016年11月発刊
2 人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインに係る検討を行うため首相官邸内に設置(2017年9月~)
3 高齢期に貯蓄を取り崩していけばいずれなくなることを述べている
4 理想の未来の姿を描き、現実とのギャップを明確にする。現実の延長線の見方や従来の固定観念を払拭し、より創造的な未来・アクションプランを導き出す上で有用な未来研究手法
5 前田展弘「生涯現役促進地域連携事業の実態~先進23地域の動向」(ニッセイ基礎研「研究員の眼」、2017.10.6)
(2018年01月17日「研究員の眼」)
生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任
前田 展弘 (まえだ のぶひろ)
研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)、超高齢社会・市場、高齢者就労問題、ライフデザイン、高齢者のQOL/well-being
03-3512-1878
- 2004年 :ニッセイ基礎研究所入社
2009年度~ :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
2022年度~ :東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員
2021年度~ :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター 訪問研究員
2023年度 :早稲田大学Life Redesign College(人生100年時代の大学)講師
内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)
厚生労働省「生涯現役地域づくり普及促進事業有識者委員会」委員長(2024年度)
財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)
東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)
神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017-19年度)
生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)
全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)
一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)
一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)
【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他
前田 展弘のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2023/08/08 | 官民協働による高齢化課題解決の取組視点~85歳以上1000万人時代をどう支えるか | 前田 展弘 | 基礎研マンスリー |
2023/07/19 | 官民協働による高齢化課題解決の取組視点~85歳以上1000万人時代をどう支えるか | 前田 展弘 | 研究員の眼 |
2023/04/10 | 生涯“貢献”社会の創造を~新たな長寿価値「貢献寿命」の提案 | 前田 展弘 | 研究員の眼 |
2022/11/08 | 定年と生き方モデルの考察-筆者連載「セカンドライフの空洞化問題(1~5)」の(3)より | 前田 展弘 | 基礎研マンスリー |
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