2025年03月07日

日本の高齢社会対策の行方-高齢社会対策大綱の中身とは

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.336]

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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政府が策定している「高齢社会対策大綱」をご存じだろうか。昨年(2024年)9月に6年ぶり5度目の改訂となる大綱が閣議決定されたのだが、各種報道を確認する限り、残念ながら世間の注目度は高いとは言えない。日本が今後もさらに高齢化していくこと、そして高齢化に伴う様々な課題が山積していることは多くの人が知っている。しかし、それらの課題に対して国がどのように対応していくのか、そのことの全体像まで知っている人は少ないのが現状であろう。その全体像を示しながら国の方向性や社会に対するメッセージを凝縮してまとめたものが「高齢社会対策大綱」*であり、これを知ることは日本が目指すべき未来(超高齢未来社会)の姿を理解することにつながる。

では、今回の改訂のポイントになる部分を簡潔に紹介しよう。
 
詳細は同タイトルの前田展弘「研究員の眼」(2025年2月13日付)を参照ください。
* 高齢社会対策大綱は「高齢社会対策基本法」(1995年制定)に基づいて策定される。「政府の推進する高齢社会対策の中長期にわたる基本的かつ総合的な指針」をまとめたもの。1996年に最初の大綱が策定され、その後、経済社会情勢の変化を踏まえて適宜見直しが行われることとなっている。

1―「高齢社会対策」は高齢者を支えるための取組みだけではない

冒頭の「大綱策定の目的」のところになるが、「高齢社会対策」は高齢者を支えるための取組みだけではなく、全ての世代の人のための取組みであることが明記されている。「高齢社会」のことは「高齢者」の話であり自分には関係ないと考えてしまう人も少なくないこと等を念頭に言及されたものと考えられる。

なお、若干敷衍すれば、高齢社会の問題を解決することは、個人にとっては、人生100年時代と言われる長寿の時代を“如何に最期まで安心して生きていけるか”、という問題の解決に貢献することとも言い換えられ、この点をより優先的に強調する観点からは、「長寿社会対策大綱」と名称変更した方が良いのかもしれない。

2―高齢社会対策大綱の3つの柱(目指すべき未来社会のあり方)

具体的な内容については広範多岐にわたる。ただ、何をすべきか、どのような社会に向かっていくべきかについては、次の3つの社会を実現していくこととして整理されている。これらが今回の高齢社会対策大綱の柱になるものであり、日本が目指す未来社会の姿と言える。

<高齢社会対策大綱が目指す 3つの社会(柱)>
【柱(1)】 年齢に関わりなく希望に応じて活躍し続けられる経済社会の構築→「生涯現役社会」の実現

【柱(2)】 一人暮らしの高齢者の増加等の環境変化に適切に対応し、多世代が共に安心して暮らせる社会の構築→「地域共生社会」の実現

【柱(3)】 加齢に伴う身体機能・認知機能の変化に対応したきめ細かな施策展開・社会システムの構築→「認知症フレンドリー社会」の実現

こうした理想の社会をどう実現していくのか。大綱はあくまで方向性及び施策を示した指針であり、重要なことはこの大綱を受け取った私たち(個人、地域・自治体、企業・団体等)がこれらの理想社会の実現に向けて何をしていくべきか、何を変えていくべきかということであろう。様々な論点・視点が存在するなかではあるが、筆者なりに強調したいポイントを2つだけ述べてみたい。

一つは、“第2・3の地域課題に取り組むシニアを増やしていく”ということである。高齢者の体力的な若返りが確認されている中で、まだまだ元気に活躍できる高齢者が一人でも多く、地域の問題、認知症の問題に向き合って行動していけば、第1の社会のみならず第2・3の社会の実現に貢献していくことになり、一石三鳥と言えるだろう。目指す社会に向けた施策が膨大にあるだけに、このように課題を集約的に相互に関連付けながら効率的・効果的に取組む、いわば立体的な取組みが有益と考える。あくまで本人の希望が優先される話ではあるが、社会として“定年後あるいは高齢期は地域の中で活躍する、貢献することが当たり前”となるような文化・価値観を育んでいくことは有用ではないか。

もう一つは、「加齢に関する理解の促進」という点である。支え合いの社会を目指す上では、様々な面で世代間の理解は必要である。年をとるとどうなるのか、「加齢」に対する理解を深めることは、高齢者に対する理解につながると同時に自分自身の将来に対する備えにもなる。この点、大綱の前提となった検討会の報告書では、それらの知識を提供するジェロントロジー(老年学)を学ぶことが必要であり意義があることが明記されている。加齢の実態と高齢者を正しく理解することが、3つの社会の実現に取り組んでいく上で必須のことと考えられるだけに、ジェロントロジーの教育や研究等が、今後社会に広く広がっていくことも大いに期待したい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月07日「基礎研マンスリー」)

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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)、超高齢社会・市場、高齢者就労問題、ライフデザイン、高齢者のQOL/well-being

経歴
  • 2004年   :ニッセイ基礎研究所入社

    2009年度~ :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員

    2022年度~ :東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員

    2021年度~ :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター 訪問研究員

    2023年度  :早稲田大学Life Redesign College(人生100年時代の大学)講師

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    厚生労働省「生涯現役地域づくり普及促進事業有識者委員会」委員長(2024年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017-19年度)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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