コラム
2022年09月01日

セカンドライフの空洞化問題(2)-高齢者就労は進んでいるのか?

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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人口減少局面下にある日本の未来における重要課題の一つに「労働力の確保」の問題がある。この問題に対して、女性、外国人、障害者等の就労拡大、あるいは兼業・副業の推進といったことも期待されるところであるが、「高齢者の活躍」も同様に重要であることに変わりはないであろう。本稿では、「労働力」の量的変化の見通しを踏まえながら、高齢者就労の意義について確認する。

■減少の一途にある「現役」「労働力人口」

周知のことであるが、今後の日本の人口は、20~64歳のいわゆる現役層1は減少の一途にある一方で(2015年~2065年に向けて2934万人減少)、65歳以上の高齢者は少なくとも2040年までは増加し、その後も一定のボリュームを保っていく見通しにある(図表1)。
図表1:年齢段階別人口の推移と推計(2015~2065年)
また「労働力人口」として今後の見通しを捉え直すと、図表2で確認できるように、現役層を中心に労働力人口は減少の一途にある一方で、未就業の高齢者は増加し続けていくことが予測される。これは2020年時点の年齢段階別の労働力人口比率をもとに、“自然体(その割合を維持)”で推移した場合の単純な試算である。こうした状況は言わずと知れたことではあるが、国力の維持という観点からは、非労働力人口としてカウントされる高齢者が労働力の減少分を埋めていくような変化が求められる。
図表2:年齢段階別労働力人口の推移と推計(2000~2060年)
 
1 労働力人口の対象は15歳以上であるが、ここでは図表1に沿って20~64歳を現役層として表記している。

■高齢者就労は進んでいるのか?

では、期待される高齢者の就労状況は実際どのような状況か。定年後も働く(働ける)高齢者は増えてきているのだろうか。図表3は、65歳以上の労働力人口と労働力人口比率を1970年から見たものであるが、ご覧のとおり、65歳以上の労働力人口は、近年になるに従い“増加”の一途にあることが確認できる。1970年の231万人(136万人+95万人)から、2020年の922万人(424万人+498万人)まで約4倍増加している。働く高齢者の「数」は確かに増加しているのである。しかしながら、そもそも高齢者人口が1970年から2020年にかけて約5倍増加しているため2、当然と言えば当然のことと言えることかもしれない。

注目すべきは「率」であろう。労働力人口比率、つまり各年齢段階人口における労働力人口の割合をみると、65~69歳では1970年代から2005年まで低下し、そこから増加傾向にある。70歳以上では、同様に低下したのち、近年は僅かながら増加傾向にある。水準だけを比べれば、約半世紀前の状況に戻ってきたところと言える。意外と思われた方もいるかもしれないが、昔の高齢者の相当の人は働いていた、仕事があったのである。こうした率の変化は、産業構造の変化(近代化)、つまり第1次産業などの定年のない仕事が減少する一方で、定年のある第2・3次産業が増加したことの影響により低下してきたものが、人手不足の影響や高齢者雇用を推奨する政策的な効果等によって上昇に転じてきたものと推察している。

ただ、今の高齢者は昔の高齢者よりも体力的にも非常に若返ってきている3。社会の中で活躍できる高齢者は非常に多くなってきているにも関わらず、2020年時点を見ても例えば、まだまだ元気に活躍できる65~69歳の2人に1人は就労につかない(つけない)状況である。70歳以上については、高齢者の高齢化の影響も加味する必要があり、もう少し丁寧な見方が必要であるが、労働力人口比率は17.9%にとどまっている。いずれにしても、活躍できるのに活躍できない高齢者が増えてしまうことは、社会にとって貴重な社会資源を無作為に喪失させてしまうことであり、国として大きな損失であることは違いないであろう。
図表3:65歳以上の労働力人口・労働力人口比率(1970~2020年)
なお、高齢化に伴う社会問題の一つとして「社会の支え合いバランス」のことがよく指摘される。「1人の高齢者を何人の現役世代で支えていくか」の割合であるが、現状は2人の現役世代で1人の高齢者を支えている格好だ。図表4にあるパターン1が現在の捉え方、つまり15~64歳を現役世代として65歳以上を高齢者とした場合になる。仮にパターン2のように、15~74歳を現役世代として75歳以上を高齢者とした場合でみると、その比率は倍近く大きくなる。これは、若者を中心とした現役世代の負担を軽減することを意味する。こうした社会の支え合いの構図を考えても、社会の支え手として活躍する高齢者が一人でも多く増えていくことが望まれるわけである(セカンドライフの空洞化問題(3)に続く)。
図表4 社会の支え合いバランスの構造~B世代をA世代が何人で支えるかの割合~
 
2 65歳以上人口は1970年の740万人(総務省「国勢調査」)から2020年の3619万人(総務省「人口推計」)へ増加(4.89倍)。
3 スポーツ庁が毎年実施する「体力・運動能力調査」でも近年、高齢者の体力の若返りが確認できる。
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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

(2022年09月01日「研究員の眼」)

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