コラム
2022年09月05日

セカンドライフの空洞化問題(3)-定年と生き方モデル

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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人生100年時代、2021年4月から「70歳までの就業確保措置(努力義務)1」が施行されたように、「職業寿命の長期化」が志向されている。何歳まで働くことができるのかということは一人ひとりの将来設計に大きな影響を及ぼすことである。本稿では、そうした状況を確認した上で、人生100年時代における理想の生き方・活躍の仕方モデルについて考える。

※本稿は、主に定年のある会社員、公務員等を対象に記載している。
 
1 高年齢者雇用安定法の改正(2021年4月施行)により、事業主は次の(1)~(5)もいずれかの措置を講じるように努めることとされた。(1)定年制 の廃止、(2)70 歳までの 定年の引上げ、(3)70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)、(4)70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入、(5)70 歳まで継続的に次の事業に従事できる制度の導入(a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業)。

■何歳まで働けるのか?

「いつまで今の仕事を続けられるか(=定年がいつか)」は、勤めている企業等によって異なるわけだが、世の中全体で見た場合、どのような状況になっているのだろうか。図表1がその状況をまとめたものになる。厚生労働省が毎年調査している「高年齢者雇用状況報告」をもとに企業の定年設定状況等を記載している。ご覧の通り、定年を廃止している企業は4%、定年を70歳以上に設定している企業は1.9%、66歳以上(66~69歳)は1.1%といった状況である。この段階で確実に65歳以上働ける企業は僅か7%にすぎない。残りの約9割(93%)は、65歳定年か(21.1%)、60歳(以上)定年で(71.9%)65歳まで継続雇用されるパターンと推定される。

注目される「70歳までの就業確保措置(努力義務)」の実施状況であるが、法改正施行初年度では25.6%、4社に1社が実施している状況であった。「努力義務」ということもあり、当面は世の中の状況を様子見する企業が多いのではないかと考えていたが、筆者の見通しよりかは比較的多い状況にあった。ただ、この25.6%の企業に勤める人が、全員70歳まで何らかの就業等を継続できるわけではないことには留意が必要である。採用している措置の大半は「雇用継続支援」であり、条件をクリアーした一部の従業員のみがこの措置を受けられているのが今の実態であろう。したがって、現役からの延長線上で70歳まで働くことができる会社員等は極僅かの人たちだけであり(ざっと見積もって1割程度の人たちではないかと推測している)、多くは65歳を一つの起点として、自らの力で新たなキャリアづくりに励まなければならないのが現状と思われる。
図表1 企業の定年設定等の状況~何歳まで働ける人がどれくらいいるのか~

■人生100年時代の生き方・活躍の仕方モデル

人生100年時代に照らせば、65歳で定年を迎えても35年の人生が残される。この期間はもはや老後や余生と呼べるほど短いものではない。人生100年時代に相応しい理想的な生き方・活躍の仕方とは一体どのようなことなのか少し考えてみたい。

図表2にそのモデルパターンを描いてみた。非常に簡略的なものにはなるが、パターンAは就職後の会社で65歳まで勤め上げる生計就労モデル、パターンBはAから5年延長した70歳までの生計就労モデル、パターンCは65歳までは生計就労に勤しみ、65歳以降は自宅のある“地域”の中で生きがい就労を“楽しむ”モデル、パターンDは若いときから様々なキャリアを流動的に積み重ねながら歩んでいくモデルを示している。

これまでの高年齢者雇用安定法の度重なる改正(雇用確保義務年齢の引き上げ2)によって、多くの人はパターンAを歩めており、パターンAが現在の標準形と言える。パターンBについては、前述のとおり、現段階では一部に限られるモデルであろう。パターンDは一つの魅力的なモデルになるかもしれないが、メンバーシップ型の雇用慣行が根強く、外部労働市場が未成熟な日本の労働市場を考えると現段階でどれだけの人がこのパターンを歩むことができるのか不透明である。こうしたなかで筆者として理想と考えるのがパターンCのモデルである。パターンAにしてもBにしても、65歳あるいは70歳以降も、“何かをしたい”と考える高齢者は実際多い。その高齢者の多くは年金3という経済基盤を手にする。そのこともあって現役当初と同じようなハードな働き方は望まないし、その必要もない。また、自宅に近いところで新たな居場所(活躍場所)を求めたいという意向が強いこともよく見聞きする。これらを踏まえれば、65歳を起点に生計就労から生きがい就労に切り替え、年齢や体力等に応じて担当する仕事の量や中身を適度に変えながら、例えば85歳くらいまで活躍し続けられるパターンCが望ましいのではないかと考える。

なお、これ以外にも様々なパターンが考えられる。高齢者の多くは「自由にマイペースで働けること」を望んでおり、そのことからすれば、「起業」「個人事業主」「フリーランス」として活躍するパターンもニーズがあるだろう。いずれにしても、こうした様々なパターンを考えながら「どこで、いつまで、どのように活躍したいか」、できるだけ若い時から考えていくことが重要なことであろう(セカンドライフの空洞化問題(4)に続く)。
図表2 「人生100年時代の生き方・活躍の仕方」モデルパターン
 
2 2006年4月から事業者に対して65歳までの雇用確保措置が義務付けられている(雇用確保義務年齢は段階的に引き上げられ2013年4月以降65歳となっている)。
3 加入する制度に応じた公的年金。
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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

(2022年09月05日「研究員の眼」)

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