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高齢者雇用政策の新たな展開~地域における高齢者の多様な就業機会の確保・拡充に向けて

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘
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「ニッポン一億総活躍プラン」では、今後“日本が抱える少子高齢化という構造的問題に真正面から立ち向かう”ことを打ち出している。その取り組みを左右する、引いては日本の未来のあり様を左右する大きな論点として「高齢者」と「地域」のことがある。両者を通じる課題の一つの解は、“今後も増え続ける高齢者が地域の課題解決の担い手”になっていくことである。本稿では、そのことを推し進めるために今年度から打ち出された新たな高齢者雇用政策(生涯現役促進地域連携事業他)を取り上げ、その概要を説明しながら、地域における高齢者の多様な就業機会の確保・拡充をはかるためにはどうすればよいか考察する。
■目次
1――はじめに~未来社会を左右する「高齢者」と「地域」
2――高齢者の就業実態
1|全国の状況
2|都道府県別の状況
3――高齢者雇用政策の経緯と今回の法律改正内容
1|65歳までの雇用確保の道程
2|生涯現役社会づくりに向けた検討
3|「地域」における高齢者の就業支援の強化(2016年~)
4|高齢者の就業支援に向けたその他の動向(参考)
4――高齢者の多様な就業機会の確保・拡充に向けて
1|協議会の役割と「生涯現役促進地域連携事業」への期待
2|高齢者の就業支援に向けた「地域」の今後の展望~3つの機関の相乗効果づくりを
1――はじめに~未来社会を左右する「高齢者」と「地域」
その取り組みを左右する、引いては日本の未来のあり様を左右する大きな論点として「高齢者」と「地域」のことがある。今後も増え続ける「高齢者」が、活き活きとした高齢期をすごすことができるのか、一人ひとりの人生に関わる問題であると同時に、社会全体の活力や社会的コストにも影響を及ぼすことである。他方、少子高齢化に伴う様々な社会的課題の解決が「地域」に求められてきている。生活を支えあう基本単位の「家族」の形が変容するなか、“おひとりさま(単身世帯)”が増加の一途にあり、夫婦世帯であっても子供の数は減少傾向にある。家族で支えあう「家族力」が低下してきているなか、安心できる生涯をおくるためには、自助の強化や社会保障に頼るだけでは限界がある。子育てや福祉の問題を含めて、地域の中で助け合う“互助”のあり方が今日的に問われている。しかしながら、地域の実態を見れば、いつしか住民同士のつながりは希薄となり、社会的孤立、孤立死といった問題が顕在化している。住民同士で支えあえる地域に再生するにはどうすればよいか、その方策が待たれている。
両者を通じる一つの解は、“今後も増え続ける高齢者が地域の課題解決の担い手”になっていくことである。このことは決して目新しい話ではなく、すでに多くの地域でそうした活動(ボランティア活動等)が展開されてはいるが、改めて未来視点に立った地域における高齢者の活躍を導き出す方策が求められていると言える。
このようななか、今年度からそのことを推し進める国主導の取り組みが示された。本稿では、高齢者の就業実態を概観した後、高齢者雇用政策の経緯と新たな展開の概要を確認し、今後の地域における高齢者の多様な就業機会の確保・拡充に向けて考察していきたい。
1 2016年6月2日に閣議決定された。理想の一億総活躍社会の実現に向けては、新たな三本の矢である「名目GDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」の政策目標の達成と、三本の矢を貫く横断的課題とされる「働き方改革」、「生産性向上」に取り組んでいくことが必要とされている。
2 アベノミクス第1ステージにおける3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)
2――高齢者の就業実態
高齢者の就業状況は、緩やかながら改善が見られている。年齢段階別に60歳以上の人の「就業率3」の推移をみても(図表1)、75歳以上の層は僅かに低下傾向にあるものの、60~74歳までは男女ともに緩やかに上昇傾向にある。65-69歳(男女計)では、この10年の間に就業率は7ポイント上昇している。しかしながら、例えば65-69歳のまだまだ活躍が可能で期待できる比較的若い高齢者でも約4割しか就業できていない現状は課題と言える。さらに将来的な労働力の年齢別の構造をみてもわかるように(図表2)、非労働力人口となる高齢者が増え続ける結果、労働力人口は2014年から2040年にかけて全体で▲1353万人減少し、非労働力人口は+137万人増加する4。非労働力人口に占める65歳以上の割合は、2014年が64.8%であったのが、2040年には73.9%まで約10ポイント増加する見通しにある。非労働人口になってしまう高齢者を如何に社会の支え手に回ってもらえるかどうか、社会として重要な課題であることが再認できる。
3 人口(各年齢階級)に占める就業者の割合。就業者は、自営業主、家族従事者(自営業主の家族でその自営業主の営む事業に無給で従事している者)、雇用者(会社、団体、官公庁または自営業主や個人家庭に雇われて給料・賃金を得ている者及び会社、団体の役員)を指す
4 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「平成25年度労働力需給の推計」によれば、2020年の労働力人口は6190万人、2030年は5683万人(いずれも経済成長がゼロ成長、かつ女性・高齢者の労働市場参加が2012年水準から進まなかったとき)と推計されている
全国の状況はよく知られたことと思われるが、本稿で焦点を当てる「地域」に目を転じるとどのような状況にあるのか。都道府県別の高齢化率や高齢者の就業率等の基礎データは図表4に掲載したが、ご覧のとおり高齢者の就業率は最も高い長野県27.8%から最も低い沖縄県15.7%まで区々な状況にある。今少し地域の高齢者の就業に関する状況を理解するために図表3では、高齢者の就業率と無業者に占める求職者(仕事を探している高齢者)の割合をあくまで参考程度にみている。縦軸が高齢者の就業率であり、横軸が求職者の割合である。上に位置するほど就業率は高く、右に位置する求職者の割合が高いことになる。これをみると長野県は働く高齢者が多く仕事を求める高齢者の割合は平均的であり、東京都は働く高齢者も多いが仕事を求める高齢者も多い、秋田県は働く高齢者は比較的少ないが仕事を求める高齢者も少ないなど、地域別の状況がうかがえる。また京都府、大阪府、埼玉県、神奈川県などは(都市近郊地域が多い)、求職者の割合が多くかつ就業率も高くないため、高齢者の活躍場所の開拓をより支援していくことが課題と見受けられる。
(2016年06月20日「基礎研レポート」)

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任
前田 展弘 (まえだ のぶひろ)
研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)、超高齢社会・市場、高齢者就労問題、ライフデザイン、高齢者のQOL/well-being
03-3512-1878
- 2004年 :ニッセイ基礎研究所入社
2009年度~ :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
2022年度~ :東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員
2021年度~ :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター 訪問研究員
2023年度 :早稲田大学Life Redesign College(人生100年時代の大学)講師
内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)
厚生労働省「生涯現役地域づくり普及促進事業有識者委員会」委員長(2024年度)
財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)
東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)
神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017-19年度)
生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)
全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)
一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)
一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)
【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他
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