2020年10月07日

年を重ねると健康状態はどう変化するのか?

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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Q1.同じ年齢の高齢者でも元気ハツラツと過ごしている人もいれば、そうでない人もいます。自分はいつまで元気なままでいられるのか不安です。高齢になってさらに年を重ねていくと健康状態はどのように変わっていくのでしょうか。

■男性は3パターン、女性は2パターンが描かれる(高齢者約6,000人を約30年間追跡したデータから)
当然ながら、健康状態は人によって異なります。いつ病気になるか、また老いるスピードも人によって様々です。ただ、年を重ねると健康状態がどのように変化していくのか、参考になる貴重なデータがあります。それは、日本の高齢者約6,000人を1987年から約30年以上にわたって追跡して、「加齢に伴う生活の自立度の変化」を明らかにした次のデータです(図表1)。
図表1 加齢に伴う自立度の変化パターン~全国高齢者パネル調査(JAHEAD)結果(n=5715)
データの見方ですが、横軸は年齢、縦軸は生活の自立度の高さを表しています。自立度は、確立された測定スケールである「基本的日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)※1」と「手段的日常生活動作(IADL:Instrumental Activities of Daily Living)※2」の合計点から評価され、レベル3は完全に「自立」(全く他人のサポートがなく生活が可能)な状態、レベル2は「手段的日常生活動作」に援助が必要な状態、レベル1は「基本的&手段的日常生活動作」に援助が必要な状態と、点数が下がるに従い自立度が下がり、生活において他人の援助が必要な割合が増えていきます。レベル0は「死亡」を表します。

※1:基本的日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)
日常生活を送るうえで、必要な最も基本的な生活機能。具体的には、食事や排泄、着脱衣、
移動、入浴など

※2:手段的日常生活動作(IADL:Instrumental Activities of Daily Living)
日常生活を送るうえで、必要な生活機能でADLよりも複雑なものを指す。具体的には、買い物、洗濯、掃除など家事全般、金銭管理や服薬管理、外出して乗り物に乗ることなど

統計的分析の結果、男性では3つのパターンが見られます。約2割(19.0%)の男性は70歳になる前に健康を損ねて死亡するか、重度の介助が必要となってしまいます。その原因の多くは生活習慣病であることもわかっています。他方、約1割(10.9%)の人は80歳、90歳まで元気なまま自立度を維持できています。そして大多数の約7割(70.1%)は75歳頃から徐々に自立度が落ちていきます。

一方、女性については、2つのパターンが見られます。早期に自立度を下げてしまうのは約1割(12.1%)で、約9割(87.9%)の女性は男性の7割の方と同様に70代半ばから緩やかに自立度を下げていきます。これが、年齢と健康状態との関係を表した高齢者の実態です。

Q2.この自立度変化パターンにおける男女の違いは何ですか。またこのグラフ(実態)からどのようなことを読み取り、どんなことを心がけていけばよいのでしょうか。

■男性は生活習慣病の予防、女性は虚弱化の予防を意識して
男性は心臓病や脳卒中などの生活習慣病によって比較的早期の段階で、介助が必要となったり、死亡する人が多いです。若い時から生活習慣病の予防を意識することが肝要です。一方、女性はもっぱら骨や筋力の衰えによる運動機能の低下により、自立度が徐々に落ちていく傾向があります。男性に見られる11%の自立度維持パターンが女性には解析結果として表出していませんが、これは「移動」能力の低下が男性に比べて大きいことが影響しています。女性は男性に比べて総じて骨や筋力が弱いことが原因ですので、女性は足腰が弱らないように「筋トレ」に励むなど、虚弱化の予防を意識することが大事と言えるでしょう。

男女共通して、理想は男性の約1割に見られる高い自立度を維持した生き方パターンが望まれるでしょうが、誰もがそのパターンを歩めるわけではありません。ただ、必要以上に不安がることもよくないでしょう。男性の7割、女性の9割が歩むパターンを見ても、その老いの過程は日常生活の継続を極端に妨げるようなレベルではなく、多少の不自由はあっても暮らしは維持できます。むしろそうした状況を想定しながら、困ったときにどうするか、家族や社会のサポートを駆使しながら自分らしい暮らし方の継続を考えていくことが大切です。

以上、繰り返しになりますが、(1)長寿時代における早世を避けるためにも若年期から生活習慣の改善に取組むこと(特に男性)、(2)移動能力の低下をできるだけ回避するためにも中年期以降は特に虚弱化の予防に取組むこと(特に女性)、(3)老いの過程を受け入れながら、自分らしい暮らしの継続に取組むことを心がけ、自立期間を最大化する(低下するタイミングをできるだけ後ろにずらす)取組みをぜひ心がけてください。また社会においては、こうした高齢者の実態を踏まえながら、予防、サポートの両面から、人生100年時代、最期まで安心して暮らしていける環境づくりがさらに進むことを期待します。

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https://www.nli-research.co.jp/report_category/tag_category_id=15?site=nli
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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

(2020年10月07日「ジェロントロジーレポート」)

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