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- ジェロントロジーを学ぶには? その意義やメリットとは?
Q1.これまで「ジェロントロジー」という存在自体知らず、学ぶ機会もなかったのですが、ジェロントロジー教育の実態はどうなっていますか?
日本学術会議が2010年に全国の大学751校を対象にしたアンケート調査1によれば、回答があった361校(国公立106校、私立255校)のうち、「ジェロントロジー(老年学)」の科目や講座、コース、専修、専攻等を「設置している」と回答した大学は140 校(38.8%)にのぼります。約4割の大学で設置されているということで一見多いように見受けられますが、そのほとんどは、文学部の中の「高齢社会論」、看護学部の中の「老年看護学総論」、発達科学部の中の「身体機能加齢論」といった一つの科目の中に埋没してしまっているのが実態でした。これだと学生自身もジェロントロジー、老年学を学んだという自覚は乏しいでしょうし、学ぶ内容も部分的にならざるを得なかったのではないかと想像されます。
筆者が認識する限りで、ジェロントロジーを総合的に体系的に学ぶことができるのは、次の2校に限られます。それは桜美林大学と東京大学です。桜美林大学は日本で初めてジェロントロジーの学位を授与し始めた大学で、大学院国際学研究科内に「老人学専攻修士課程」を2002年に設置しました。また2004年には博士後期課程を増設し(2008年から老年学研究科の中に設置)、ジェロントロジー教育を先導してきています。東京大学では2006年に設置された「総括プロジェクト機構ジェロントロジー寄付研究部門」(現在の高齢社会総合研究機構に発展)が中心となって、2008年から大学3-4年生及び修士課程の学生を対象にした「学部横断ジェロントロジー教育講座」を開始し、さらに2014年からはジェロントロジーのリーディング大学院2も創設して、総合的なジェロントロジーの教育を進めています。ただ、いずれにしても学校教育の中でジェロントロジーはまだまだ広がっておらず、学んだ人、学んだと認識している人が少ないことは確かと思われます。
なお、前述のアンケート調査の中で、「ジェロントロジー教育が必要かどうか」を尋ねた結果では、3分の2(67%)の大学が、ジェロントロジー教育を「必要」と回答しています。では、なぜジェロントロジー教育を行っていないのかその理由を尋ねると、「担当する教員がいない」が最も多く(複数回答で49%)、「ジェロントロジーに関する情報が不足している」が次に多い(同じく39%)結果となっています。
ちなみに、ジェロントロジー教育が先行している米国では、大学及び大学院において264のジェロントロジー教育プログラムが確認されています(2009年時点)3。米国でこれだけの数のジェロントロジー教育が行われている背景には、1965年に国策としてジェロントロジー教育及び研究が推進されたこと、そしてジェロントロジー教育を司る「ジェロントロジー高等教育機関Association for Gerontology in Higher Education(AGHE)」の存在があります。日本でもこうしたジェロントロジー教育を推進する政策や機関の創設が期待されるところです。
1 調査実施主体は日本学術会議内に設置された「持続可能な長寿社会に資する学術コミュニティ構築委員会」
2 文部科学省リーディング大学院プログラム「活力ある超高齢社会を共創するグローバル・リーダー養成プログラム:Graduate Program in Gerontology : Global Leadership Initiative for an Age-Friendly Society(GLAFS)」を指す
3 塚田典子「日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科経営学修士課程における老年学講座の取り組み」(平成21年度総合福祉研究 特集号)より引用
Q2.社会人がジェロントロジーを学ぶにはどうすればよいですか? またジェロントロジーを学ぶ必要性、意義やメリットとは何ですか?
社会教育が充実しているかと言えば、残念ながらそのようなこともありません。そうしたなかでジェロントロジーを学ぶには、ジェロントロジーに関連する書籍を読み漁ることが一つの方法ですが、極めて広範囲に及ぶジェロントロジーの内容を網羅するのは相応の時間と労力が必要になります。そこで比較的短時間で効率よく、少なくともジェロントロジーの「基礎」を身につけたいと思われる方には、「高齢社会検定試験」4にチャレンジすることがお薦めです。この試験は、東京大学の教授陣が中心に構成される一般社団法人未来社会共創センターが実施するもので、公式テキストも同じく東京大学の教授陣が中心となって制作した「東大がつくった高齢社会の教科書」が使われます(ニッセイ基礎研究所は編集協力)。2013年度からスタートし、今年度(2020年度)で8回目を迎えます。試験合格者には、ジェロントロジーの基礎を学んだことを証明する団体認証資格「高齢社会エキスパート」が付与され、昨年度まで2400名超の方が合格されました。その方々からは、仕事とプライベート双方の面から好評な声が寄せられています。
なお、そもそもなぜジェロントロジーを学ぶ必要があるのか、その意義やメリットは何でしょうか。ジェロントロジーを学ぶことは「高齢者及び高齢社会のことを“正しく”知る」ということです。「年をとるとどうなるのか、高齢化が本格化する未来がどうなっていくのか、その社会に必要な商品サービスとは何か、どのようなまちづくりを行っていくのがよいか」、こうしたことを考えていく上で、ジェロントロジーを学ぶことは有効です。高齢者はこうではないかとの推測のもとで、高齢者への対応や高齢者向けの商品サービス開発、または政策立案を行うと、誤った方向に向かってしまう可能性があります。意義やメリットは人それぞれとは思いますが、少なくともジェロントロジーというOS(Operating System)を自分の中に取り入れることで、仕事の面、また自分の将来設計の場面等でより的確な解を見出していける可能性が高まると考えます。
日本の未来は超高齢社会であり、私たちはその中で人生100年時代を歩んでいきます。ぜひ一人でも多くの方がジェロントロジーを学んでいただき、その知識を仕事や人生において活かしていただくことが望まれます。
4 年1回、東京(東京大学)・大阪の2会場で実施。2020年度は10月31日に実施。受験の案内及び申込みは一般社団法人未来社会共創センターHPから可能 http://www.cc-aa.or.jp/
※ その他ジェロントロジー関連のレポートはこちらからご確認下さい。
https://www.nli-research.co.jp/report_category/tag_category_id=15?site=nli
(2020年10月07日「ジェロントロジーレポート」)
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生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任
前田 展弘 (まえだ のぶひろ)
研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)、超高齢社会・市場、高齢者就労問題、ライフデザイン、高齢者のQOL/well-being
03-3512-1878
- 2004年 :ニッセイ基礎研究所入社
2009年度~ :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
2022年度~ :東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員
2021年度~ :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター 訪問研究員
2023年度 :早稲田大学Life Redesign College(人生100年時代の大学)講師
内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)
厚生労働省「生涯現役地域づくり普及促進事業有識者委員会」委員長(2024年度)
財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)
東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)
神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017-19年度)
生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)
全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)
一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)
一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)
【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他
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