2020年10月07日

ジェロントロジーとは?~人生100年時代の基礎知識

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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Q1.最近、“ジェロントロジー”という言葉をよく見聞きすることが増えました。 ジェロントロジーとは一体どのようなものですか?

■ジェロントロジーとは、『人生100年時代の基礎知識』
ジェロントロジー(Gerontology)は、“AGING”、つまり個人の「加齢(年をとること)」と、社会の「高齢化」を研究対象とした一つの学問であり知識基盤です。「加齢に伴う心身の変化を研究し、高齢社会における個人と社会の様々な課題を解決することを目的とした、AGING(加齢・高齢化)を科学する学問」がジェロントロジーと言えます1。ギリシャ語の「高齢者」の意味を表すGerontに、「学」を表すologyがついた造語です。日本では「老年学」「加齢学」と訳されることが多いですが、それ以外にも「長寿学」「高齢学」「熟年学」「創齢学」「人間年輪学」「長寿社会の人間学」「人生の未来学」「生きがいの科学」など多様な訳が見られます。筆者もメンバーであります東京大学高齢社会総合研究機構(Institute of Gerontology)では「高齢社会総合研究学」と訳しています。

ジェロントロジーの歴史は実は古く、すでに1世紀の時が経っているのです。1903年にフランス・パスツール研究所のメチニコフ博士が長寿に関する研究をジェロントロジーと命名したとされ、1930年代以降、主にアメリカを中心に発展してきました。現在もアメリカでは約250の大学や研究機関でジェロントロジーの研究や教育が進められています。日本では1960年代以降、日本老年学会を中心とした学会での活動は行われてきましたが、世間一般までの広がりはなかったように思われます。しかしながら、上述のとおり、人生100年時代の到来を前にいま、ようやく日本でもジェロントロジーに注目が寄せられてきています。
ジェロントロジーとは
 
1 筆者がジェロントロジーの実態を踏まえて整理した解釈。ジェロントロジーの定義に関しては、『現代エイジング辞典』(1996年)では「老年学は人口の高齢化にともなって起きてきた種々の変化や問題を解決するために、生物学、医学、心理学、経済学、社会学、社会福祉学、建築学などの自然科学と社会科学の関連した科学の協力によってできた総合科学」とされる。

Q2. なぜ最近、ジェロントロジーが注目されるようになったのでしょうか?

■ジェロントロジーが必要とされる理由
その背景には“人生100年時代”というキーワードがあります。進行を深める「高齢化」と「長寿化」という人口動態の大きな変化の中で、人生100年をどう生きるか、その人生を社会や企業としてどのように支えればよいか、社会全体の大きな関心事となっていると思います。この解を求めていくと、おのずとジェロントロジーに辿り着くということだと思います。少し具体的に見ていきましょう。

日本は世界で最も人口の高齢化が進んだ“高齢化最先進国”として、現在もこれからも世界の先頭を歩み続けていきます(図表1)。やがて2030年頃には、人口の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になるといった“本格的な超高齢社会”が訪れます(図表2) 。なお、現在(2020年)の高齢化率は28.7%、すでに4人に1人以上が65歳以上の高齢者が占める社会となっています。女性だけを見れば、すでに30%を超えています。高齢者の男女比を見ても女性が相対的に多く、75歳以上では男性:女性の割合は2:3となっています(図表3)。これが今の日本の高齢化の実態です。
図表1 世界各国の高齢化率の推移と推計
図表2 日本の未来の姿(人口ピラミッドの変化)
図表3 日本の高齢化状況(2020年9月)
このように日本の未来は高齢者がマジョリティとなる社会になっていきます。こうした高齢者が増えていく未来を考えるにあたって、まちづくりや商品サービス開発を進める場面でも、高齢者の生活課題やニーズなどを理解する必要がありますが、いざ「高齢者とは」を考えるとどうでしょうか、漠然としたイメージが想起されるだけに止まる人が多いのではないでしょうか。人によっては、年老いて介護が必要な弱々しい人を思い浮かべるでしょうし、かたや元気ハツラツと自由な時間を謳歌している人を思い浮かべるかもしれません。いずれも間違いではないですが、いずれも一部にすぎません。

他方、一人ひとり自分の将来(高齢期の生活)を考えたときに、明確なビジョンを描けている人はどれだけいらっしゃるでしょうか。人生100年時代と言われ、80歳、90歳、100歳の生活をどれだけイメージできるでしょうか。「そんな先のことはわからない」、「いまが忙しくて考える暇がない」、「考えたくもない」、そのような声が多いのが現実ではないかと考えます。

年を重ねるとどうなっていくのか、高齢者が増える社会にどう対応していけばよいか、「高齢者及び高齢社会」のことは未だわからないことだらけなのです。そこでジェロントロジーがいま必要とされているのだと思います。

Q3.ジェロントロジーから何を学ぶことができるのですか?

■ジェロントロジーに含まれる知識と情報
では、ジェロントロジーはどのような知識や情報を私たちに提供してくれるのでしょうか。その範囲は極めて広範多岐に及びますが、中心となる骨格は次の2つです。一つは、個人が“より良く”長生きしていくために知っておくべき「長寿時代(人生100年時代)のライフデザイン」に関わる知識と情報です。「健康」に関することはもちろん、理想の「生き方や老い方」、高齢期の「活躍」の仕方、「お金」や「住まい」のこと、医療や介護そして終末期のことなどが含まれます。もう一つは、社会が持続的に発展していくための「超高齢社会のデザイン」に関わる知識と情報です。社会保障制度全般から、医療、介護、年金、住宅、交通システムに関わる制度・政策、ジェロンテクノロジー(福祉工学)や高齢者に関わる法制度などを含みます。下記の書籍「東大がつくった高齢社会の教科書」(東京大学高齢社会総合研究機構編著、㈱ニッセイ基礎研究所編集協力、東京大学出版会、2017年)の目次を見ていただくと、ジェロントロジーのカバー範囲がご理解いただけるかと思います。この書籍は東京大学の諸先生方とニッセイ基礎研究所にて、世間一般の方にもわかりやすくジェロントロジーを伝えていくために制作したものです。
<ジェロントロジーの教科書>
以上のように、ジェロントロジーが取り扱う範囲は極めて広いわけですが、当HPで紹介する「ジェロントロジーを学ぼう」を読み進めていただければ、ジェロントロジーの主なエッセンスはご理解いただけると思います。ぜひ、ジェロントロジーをご理解いただき、これからの人生設計、また企業としての新たな事業展開、地域の新たなまちづくりなど多様な面でジェロントロジーから得た知識と情報を活かしていただければ幸いです。

※ その他ジェロントロジー関連のレポートはこちらからご確認下さい。
https://www.nli-research.co.jp/report_category/tag_category_id=15?site=nli

(2020年10月07日「ジェロントロジーレポート」)

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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)、超高齢社会・市場、高齢者就労問題、ライフデザイン、高齢者のQOL/well-being

経歴
  • 2004年   :ニッセイ基礎研究所入社

    2009年度~ :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員

    2022年度~ :東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員

    2021年度~ :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター 訪問研究員

    2023年度  :早稲田大学Life Redesign College(人生100年時代の大学)講師

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    厚生労働省「生涯現役地域づくり普及促進事業有識者委員会」委員長(2024年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017-19年度)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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