2020年10月07日

何歳まで車の運転を続けても大丈夫?

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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Q1.何歳まで運転を続けても大丈夫でしょうか?

■一般的に、75歳以上で運転を続けることは事故のリスクが上がります。
近年、高齢ドライバーの車が重大事故を起こしたり、高速道路を逆走したりするニュースが増えました。自身、または親の運転について「若い頃に比べて下手になってきた」と感じている人も多いのではないでしょうか。いつまで運転を続けようか、もしやめたら、どうやって生活していこうか――。遅かれ早かれ、多くのドライバーがこのような悩みを持つでしょう。

それでは、何歳頃から運転能力が低下するのでしょうか。その傾向を表した統計があります。免許人口10万人当たり、何件の死亡事故が発生しているかを、警察庁が年齢層別にまとめたものです(図表1)。棒グラフを下から見ると、16~19歳が多く、20~24歳もやや多くなっています。25~29歳以上になると落ち着きますが、75~79歳あたりからまた多くなり、85歳以上で最多となっています。つまり、24歳までの若者と、75歳以上の後期高齢者の死亡事故が相対的に多いのです。一般的に、高齢者の方が現役世代よりも運転頻度が低いにも関わらず、このような結果になっているのです。75歳以上になってから運転するのは、現役世代の運転に比べてリスクが高いと言えるでしょう。
図表1 年齢層別の免許人口当たり死亡事故件数(免許人口10万人当たり、2018年)
警察庁によると、75歳以上の死亡事故の原因で最も多いのは、ハンドルの操作ミスやブレーキとアクセルの踏み間違いなどの「操作不適」です。次に多いのが、「安全不確認」や、漫然運転などの「内在的前方不注意」です(図表2)。これは、加齢に伴って身体機能や認知機能、視力など様々な機能が衰えてくるためです。
図表2 75歳以上ドライバーによる死亡事故の人的要因(2018年)
しかし、長い運転のキャリアがある高齢者の中には、自身の運転能力を過信している人もいます。上述した傾向を念頭に置き、いつまで運転を続けられるか、冷静に判断することが大切です。

「運転免許証を身分証明書として使用しているので、無くなると不便だ」という人もいると思いますが、自主返納したり、更新せずに免許が失効したりした人は、代わりに「運転経歴証明書」を交付してもらうことができます。また都道府県などによって、自主返納するとバスやタクシー運賃の割引などの特典が受けられます。

Q2.自動運転車両はできないのですか?

市場化の見通しは立っていません。
そうは言っても、マイカーを運転できなくなると不便だという人は多いでしょう。「自動運転が早く実現すれば良いのに」というのは、多くの人に共通する願いではないでしょうか。

自動運転は一般的に、人間による運転よりも安全性が高いと考えられ、実用化すれば、過疎地等における高齢者の移動手段になると期待されています。政府の目標では、2025年度までに、一定の条件を満たした道路で、自動運転による輸送サービスを拡大するとしていますが、実現するかどうかは分かりません。2020年時点ではまだ、メーカーが開発と実証実験を繰り返している段階です。市場化するには技術的な課題が多く、法制度の見直しやインフラ整備も必要です。仮に将来、市場化したとしても、自動運転車両が走行できる道路は、過疎地や専用道路などに限定される可能性があり、自宅前から自身の行きたいところまで送迎してくれるとは限らないのです。

現状では、自動運転とまでは行きませんが、自動ブレーキや、アクセルとブレーキの踏み間違いによる急発進抑制装置をつけた車があります。新車販売時から搭載されているものも、後付けできるものもあります。いずれも、65歳以上のドライバーが購入する場合は、国から補助金を受け取ることができます。これらの装置が搭載された「安全運転サポート車」の限定免許制度も2022年6月までに始まります。

Q3.運転をやめたら、どうやって移動したら良いの?

地域の様々な公共交通機関や、市町村によるタクシー利用券等の支援制度を確認してください。健康状態を維持するために、運転をやめても外出を減らさないことが大事です。
運転をやめた後の移動をどうするかは大きな問題です。家族や知人に送り迎えを頼むことが難しい場合は、代わりの移動手段が必要です。近年では、公共交通として、バス会社が運行する路線バス以外にも、市町村が「コミュニティバス」や「乗合タクシー」などを運行するケースが増えています。後期高齢者を対象に、タクシー利用券を配布している市町村もあります。

移動距離が短い場合は、電動車椅子を用いるという選択肢もあります。道路交通法では「歩行者」の扱いになるため、運転免許証を返納した後も乗ることができます。最高速度は時速6キロ以下で、所要時間はかかりますが、自分の都合に合わせて外出することができます(「歩くのが大変になったら買い物をどうするか?」参照)。

最も注意しなければならないのは、運転をやめた後に自宅に閉じこもりがちになることです。外出機会が減ると、身体機能が衰え、要介護リスクが上がることが明らかになっています。運転を中止した高齢者は、継続していた高齢者に比べて要介護リスクが約8倍高い、という調査結果もあります。健康状態の悪化を防ぐために、運転をやめても、できる範囲で歩いたり、体を動かしたりする習慣をつけましょう。

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https://www.nli-research.co.jp/report_category/tag_category_id=15?site=nli
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2020年10月07日「ジェロントロジーレポート」)

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