2020年09月28日

人口動態データ解説-合計特殊出生率誤用による少子化の加速に歯止めを-自治体間高低評価はなぜ禁忌か

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー   天野 馨南子

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2――TFRへの女性人口移動の影響

1章で、少々乱暴ではあるがTFR理解を平易にするための計算モデルを示したが、同様に計算モデルを使用して、女性の人口移動がTFRに及ぼす影響について説明する。

本来は15歳から49歳の各年齢の出生率の積み上げ計算結果の合計がTFRであるが、これを10代から40代の4つの年代出生率の積み上げ計算結果に置き換えつつ、今度は人口移動も含めて考えてみたい。
女性の人口移動がTFRに及ぼす影響
上の例(発生事実)を言葉(解釈)にすると、
 
X年において、AエリアとBエリアの女性は、10代では子どもを産まず、20代では6割が子どもを産み、30代では4割が子どもを産み、40代では2割が子どもを産む、という出産ライフデザイン傾向がある。
 
という1章と同じ解釈となる。
 
しかしここで、現状起こっている東京一極集中に近似させた自治体間女性移動(2005年国勢調査から2015年国勢調査の10年間で、東京都に37万人=長野県長野市の人口に匹敵する女性が地方からの転入転出差だけで純増。純増女性の9割が20代、3:1で20代前半女性が多くほぼ未婚層)を加味したモデルを示してみたい。
東京一極集中に近似させた自治体間女性移動
重要なのは、AB両エリアのTFRのX年とY年での変化は、ともに女性人口が移動しただけで起こった結果ということである。

若い独身女性を転出させただけで、AエリアはTFRが1.2から1.6にまで上昇している。一方で、Bエリアは若い独身女性を受け入れただけでTFRが1.2から0.83にまで下落している。

ただし、今後のAエリアとBエリアの人口動態を考えて見よう。AエリアのTFRは上昇したものの、そもそもの女性人口(母親候補人口)が減少しているので、Aエリアの今後の子ども人口の減少は避けられない点(=少子化の一層の進展)が懸念されるであろう。一方、BエリアのTFRは減少したものの、女性人口(母親候補人口)の増加により、今後の子ども人口の増加も期待できるであろう。

このモデルでは特に全体TFRに最も相関の高い20代女性を大きく移動させているため、わかりやすいまでのTFR上昇と下落の結果を示している。

東京一極集中の象徴である「20代女性の人口移動による人口純減」が、2019年は39道府県において発生しているため(基礎研レポート「人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(上)」参照)、この39道府県ではAエリアのように、少子化対策とされてきた政策とは関係しない原因で「TFRの上昇」傾向が発生している。その一方で、20代女性の移動による純増が集中している東京エリアでは、Bエリアのように、これまで少子化対策とされてきた政策とは関係なくTFRが低下する傾向にある。
 
統計指標の計算上、人口移動による自治体TFR上下動が発生しているゆえに、東京都の子ども人口は20年以上増加し続けているという、TFR低下とは反対の子ども増加現象がおきているのである。

図表1で示したように、TFRが都道府県の子ども人口の増減指標にならないのは、TFRの計算式からは当たり前ともいえるのである。

TFRは「そのエリアに残る女性が生涯に産むだろう赤ちゃん数を示しているにすぎず、エリアから去り行く女性が産んでくれたであろう赤ちゃん人口の損失を加味する指標ではない」からである。
 

3――おわりに

3――おわりに

今年2月の全国自治会・東京事務所長会総会における講演会で、計算式こそ示さなかったものの、口頭にてTFRのもつ地域少子化加速トラップのイメージをお伝えした際、大きな反響があった。

これまでの自治体施策が「少子化指標といえばTFR」だったからである。

残念なことに、若い独身女性が去るからこそ高止まりしているといえるAエリアタイプの過疎地域の高TFRを目標に、「(Aエリアタイプの)中山間地域Yこそ子育てにむいている。理由は高TFRだからだ。広々とした空間で子沢山エリアYをモデルエリアに」という、統計的因果関係を無視したいささか暴力的な解釈がまかり通ってしまった自治体もあったとのことであった。
 
少子化、とは子どもの実数が減ることであり、TFRは利用条件付き測定手法の1つに過ぎない。
 
国全体の少子化指標として機能していることには留意しつつも、TFRはあくまでも
 
「エリアに残っている女性の出産ライフデザインを反映した、女性1人当たりの子どもの数」
であり、
 
「エリアから去り行く女性がその地に授けるはずであった子どもの損失を一切加味しない指標」
であることを、強く主張しておきたい。

【参考文献一覧】
 
総務省. 「国勢調査」
 
厚生労働省.「人口動態統計」
 
国立社会保障・人口問題研究所. 「人口統計資料集」
 
天野 馨南子.“人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(上)” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年8月3日号
 
天野 馨南子.“人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(下)-なぜ「子育て世帯誘致」では奏功しないのか)” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年8月17日号
 
天野 馨南子.“人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(上)-10年間エリア子ども人口の増減、都道府県出生率と相関ならず-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年6月10日号
 
天野 馨南子.“人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(中)-女性人口エリアシャッフル、その9割を東京グループが吸収-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年7月16日号
 
天野 馨南子.“人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(下)-女性人口を東京へ一体なにが引き寄せるのか” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年11月11日号
 
天野 馨南子.“強まる東京一極集中(総数編)社会純減2019都道府県ランキング分析-最新純減ランキングにみる新たな動向-” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年4月13日号

天野 馨南子.“令和元年2019人口動態データ分析-強まる東京「女性」一極集中(1)~追い上げをみせる大阪府、愛知県は社会減エリアへ” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年2月25日号
 
天野 馨南子. “強まる「女性」東京一極集中(2)~転出男女アンバランス 都道府県ランキング-高まる地方男性の未婚化環境-”ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年3月9日号

天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)-地方の人口流出は阻止されるのか-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月6日号
 
天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月13日号
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

(2020年09月28日「基礎研レポート」)

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