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- オルタナティブデータで見る新型コロナウイルスと人の移動-各都道府県の新型コロナ感染リスクと流動人口の比較
2020年09月23日
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1――はじめに
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大は、経済や社会に甚大な影響をもたらしている。現在の危機は「大封鎖(The Great Lockdown)」1と称される。世界金融危機を超える経済の落ち込みが、社会的隔離政策のもと人の移動が制限されたことによりもたらされたためである。テレワークやeコマースなどデジタル技術の活用により、経済活動を一部では維持しているものの、人の移動の復活なくして、経済の本格回復はのぞめないだろう。したがって、現在の人の動き(流動人口)を把握することは、経済の先行きを占う上で重要である。
これまで日本におけるオルタナティブデータの活用は進んでこなかったが、新型コロナウイルスの感染拡大以降、関心が高まっている2。オルタナティブデータとは、経済統計や財務情報などこれまで伝統的に活用されてきたデータ以外の非伝統的なデータの総称である。伝統的なデータと比べて、オルタナティブデータは頻度が高いデータや粒度が細かいデータをタイムリーに取得できることが多い。スマートフォンの位置情報データは代表的なオルタナティブデータであり、本稿ではGoogleが提供するデータをもとにコロナ禍における流動人口を確認する。
1 IMF(2020)
2 辻中(2020)
これまで日本におけるオルタナティブデータの活用は進んでこなかったが、新型コロナウイルスの感染拡大以降、関心が高まっている2。オルタナティブデータとは、経済統計や財務情報などこれまで伝統的に活用されてきたデータ以外の非伝統的なデータの総称である。伝統的なデータと比べて、オルタナティブデータは頻度が高いデータや粒度が細かいデータをタイムリーに取得できることが多い。スマートフォンの位置情報データは代表的なオルタナティブデータであり、本稿ではGoogleが提供するデータをもとにコロナ禍における流動人口を確認する。
1 IMF(2020)
2 辻中(2020)
2――コロナ禍における流動人口
Googleは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けて、流動人口データを期間限定で提供している3。人々が訪問する場所を、「職場」、「乗換駅」、「小売・娯楽」、「食料品店・薬局」、「住宅」、「公園」の6つのカテゴリ4に分類し、2020年1月3日~2月6日の 5週間における該当曜日の中央値を基準とし、その基準値からの変化率として公表している。
3 COVID-19: コミュニティ モビリティ レポート <https://www.google.com/covid19/mobility/>
4 住宅については滞在時間、その他カテゴリは訪問者数を示している。
3 COVID-19: コミュニティ モビリティ レポート <https://www.google.com/covid19/mobility/>
4 住宅については滞在時間、その他カテゴリは訪問者数を示している。
1|全国と東京都の流動人口の推移
まず、コロナ禍における全国と東京都の流動人口の推移を確認する(図表 1)。2020年9月11日時点5の「職場」の流動人口は、全国が対基準比▲14%であるのに対して、東京都は▲21%となった。全国と東京都の差は、5月に緊急事態宣言が全国で解除された後に縮小したものの、7月以降の両者の差は概ね一定で推移している。この傾向は「乗換駅」と「小売・娯楽」においても同様で、「乗換駅」は全国が対基準比▲24%、東京都が▲30%、「小売・娯楽」は全国が▲9%、東京都が▲21%となっている。また、「食料品店・薬局」は全国が対基準比▲1%、東京都が▲2%と、双方とも概ねゼロ近辺で推移している。「住宅」は外出自粛により滞在時間が増加し、全国が対基準比+6%、東京都が+10%となっている。なお「公園」は、全国が対基準比+8%と増加しているのに対して、東京都は▲9%と減少している。このように、東京都は全国と比較して外出自粛傾向が強く、その背景として感染リスクが全国と比べて高いためと考えられる。
まず、コロナ禍における全国と東京都の流動人口の推移を確認する(図表 1)。2020年9月11日時点5の「職場」の流動人口は、全国が対基準比▲14%であるのに対して、東京都は▲21%となった。全国と東京都の差は、5月に緊急事態宣言が全国で解除された後に縮小したものの、7月以降の両者の差は概ね一定で推移している。この傾向は「乗換駅」と「小売・娯楽」においても同様で、「乗換駅」は全国が対基準比▲24%、東京都が▲30%、「小売・娯楽」は全国が▲9%、東京都が▲21%となっている。また、「食料品店・薬局」は全国が対基準比▲1%、東京都が▲2%と、双方とも概ねゼロ近辺で推移している。「住宅」は外出自粛により滞在時間が増加し、全国が対基準比+6%、東京都が+10%となっている。なお「公園」は、全国が対基準比+8%と増加しているのに対して、東京都は▲9%と減少している。このように、東京都は全国と比較して外出自粛傾向が強く、その背景として感染リスクが全国と比べて高いためと考えられる。
5 本稿では特に断りがない限り、2020年9月11日時点のデータを用いる。
6 「公園」の流動人口は、新規感染者数が少ない都道府県では増加している一方、多い都道府県では減少している。つまり、感染リスクが一定以上高まると、気晴らしのため近場の公園に行くような行為も自粛する傾向が強まることが示唆される。
7 九州と沖縄は台風10号の影響により、外出自粛傾向が一時的に強く表れている可能性がある。
3――各都道府県の新型コロナウイルスの感染リスクの比較
8 感染者数は、累積感染者数の対人口比(1万人あたり)。感染拡大率は、新規感染者数の過去7日平均の過去30日平均からの変化率、致死率は、死亡者数の累積感染者数に対する割合。
4――おわりに
本稿では、流動人口データを確認することで、(1)新型コロナウイルスの感染リスクが高いほど、流動人口が減少する傾向にあること9、(2)東京都は高い感染リスクと比較しても他の地域より外出自粛傾向が強いこと、(3)新規感染者数の減少を受けて外出自粛傾向が幾分緩和していること、を示した。経済が本格回復するためには、人の移動が従来に近い水準まで戻ることが欠かせず、今後も流動人口や感染リスクの動向を継続的にモニタリングしていくことが重要であろう10。
9 「コロナ疲れ」や「コロナ慣れ」が進み、新型コロナウイルスの感染リスクと流動人口の関係が低下することもあり得る。各都道府県の流動人口と新規感染者数の関係を、過去7日平均と過去30日平均のデータで比較すると、過去7日平均の方が、新規感染者数に対する流動人口の感応度が低下している。
10 今後、本稿で示した図表などを定期的にアップデートし、公表していく予定である。
9 「コロナ疲れ」や「コロナ慣れ」が進み、新型コロナウイルスの感染リスクと流動人口の関係が低下することもあり得る。各都道府県の流動人口と新規感染者数の関係を、過去7日平均と過去30日平均のデータで比較すると、過去7日平均の方が、新規感染者数に対する流動人口の感応度が低下している。
10 今後、本稿で示した図表などを定期的にアップデートし、公表していく予定である。
参考文献
- Google,「COVID-19: コミュニティ モビリティ レポート」
- https://www.google.com/covid19/mobility/>2020年9月17日参照
- IMF(2020), “World Economic Outlook, April 2020 : The Great Lockdown”, 2020年4月14日, https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2020/04/14/weo-april-2020
- 佐久間誠(2020)「オルタナティブデータから見たコロナ禍における宿泊業の現状-不動産市場分析におけるオルタナティブデータの応用可能性(1)」、不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2020年9月14日< https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65458?site=nli>
- 高山武士(2020)「新型コロナウイルスと各国経済-コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か?49か国ランキング」、基礎研レター、ニッセイ基礎研究所、2020年7月3日< https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64863?site=nli>
- 辻中仁士(2020), 「COVID-19でにわかに注目を集めるオルタナティブデータ ~オルタナティブデータで捉える経済(1)」『経済セミナー』、2020年9月号、pp.52-57、日本評論社
- 東洋経済オンライン「新型コロナウイルス 国内感染の状況」制作:荻原和樹 < https://github.com/kaz-ogiwara/covid19>2020年9月17日参照
- 水野貴之・大西立顕・渡辺努(2020), 「流動人口ビッグデータによる地域住民の自粛率の見える化 - 感染者数と自粛の関係 -」、一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所<https://cigs.canon/article/20200422_6369.html> 2020年9月17日参照
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2020年09月23日「基礎研レポート」)
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03-3512-1778
経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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