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- 「札幌オフィス市場」の現況と見通し(2020年)~新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえた市場見通し
2020年07月30日
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1. はじめに
札幌市では、IT関連企業やコールセンターを中心として新規開設および拡張移転の動きが活発で、空室が減少している。需給環境の逼迫により空室率が低下するなか、募集賃料は上昇している。一方、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う外出自粛要請並びに緊急事態宣言の発令は、経済活動に対して広範囲にわたって甚大な影響をもたらしている。本稿では、札幌のオフィスの現況を概観した上で、新型コロナウィルスの感染拡大が及ぼす影響を踏まえて、2024年までの賃料予測を行う。
2. 札幌オフィス市場の現況
2-1. 空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、札幌市の空室率(2020年7月時点)は低下傾向で推移しており、3.1%となった(図表-1)。札幌では、過去5年間のオフィスの新規供給量は、年間2,600坪程度と限定的であったのに対し、ソフト開発等のIT関連企業やコールセンター1企業を中心とした新規開設および拡張移転等を背景に、オフィス需要は底堅く、需給環境は逼迫している。空室率を規模2別にみると、移転集約等を受け皿となる「大規模ビル」は1.1%(前年比▲0.3%)と低水準での推移が続く一方、「小型ビル」は5.7%(同+0.2%)と上昇しており、規模間で格差がみられる。募集賃料は、2020年7月時点で9,900円/月・坪(前年比+6.0%)と上昇基調を維持している(図表-2)。
三幸エステートによると、札幌市の空室率(2020年7月時点)は低下傾向で推移しており、3.1%となった(図表-1)。札幌では、過去5年間のオフィスの新規供給量は、年間2,600坪程度と限定的であったのに対し、ソフト開発等のIT関連企業やコールセンター1企業を中心とした新規開設および拡張移転等を背景に、オフィス需要は底堅く、需給環境は逼迫している。空室率を規模2別にみると、移転集約等を受け皿となる「大規模ビル」は1.1%(前年比▲0.3%)と低水準での推移が続く一方、「小型ビル」は5.7%(同+0.2%)と上昇しており、規模間で格差がみられる。募集賃料は、2020年7月時点で9,900円/月・坪(前年比+6.0%)と上昇基調を維持している(図表-2)。
1 オペレーターが、電話やメール等を用いて、商品やサービス等に関する問い合わせ対応や注文受付、勧誘等を行う事務所。
2 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、札幌ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、新規供給が限定的であったことに加え、築古ビルの取り壊し等が進んだことで、2009年末の49.3万坪から2019年末の51.2万坪へと10年間で1.8万坪(年率+0.4%)の増加に留まった。一方、テナントによる賃貸面積は、2009年末の43.8万坪から2019年末の50.2万坪へと10年間で6.3万坪坪(年率+1.4%)と大きく増加した(図表-3)。
この結果、札幌ビジネス地区の空室面積は、2010年末の5.7万坪をピークに減少し、2019年末には1.0万坪と、ファンドバブル期のボトムである2007年末(3.9万坪)の約1/4の水準となった。
三鬼商事によると、札幌ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、新規供給が限定的であったことに加え、築古ビルの取り壊し等が進んだことで、2009年末の49.3万坪から2019年末の51.2万坪へと10年間で1.8万坪(年率+0.4%)の増加に留まった。一方、テナントによる賃貸面積は、2009年末の43.8万坪から2019年末の50.2万坪へと10年間で6.3万坪坪(年率+1.4%)と大きく増加した(図表-3)。
この結果、札幌ビジネス地区の空室面積は、2010年末の5.7万坪をピークに減少し、2019年末には1.0万坪と、ファンドバブル期のボトムである2007年末(3.9万坪)の約1/4の水準となった。
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2019年末時点で最も賃貸可能面積の大きいエリアは「駅前東西地区(29.6%)」であり、次いで「駅前通・大通公園地区(27.3%)」、「創成川東・西11丁目近辺地区(15.8%)」、「南1条以南地区(14.5%)」、「北口地区(12.8%)」の順となっている(図表-5)。昨年からの増減をみると、「駅前東西地区」(前年比+1.1千坪)や「創成川東・西11丁目近辺地区」(+0.7千坪)、「北口地区」(+0.5坪)が増加する一方、「駅前通・大通公園地区(▲2.8千坪)」や「南1条以南地区」(▲0.3千坪)が減少し、全体で▲0.8千坪の減少となった(図表-6)。
一方、賃貸面積は、「駅前通・大通公園地区」を除く全ての地区で増加し(前年比+1.4千坪)、空室面積は減少した(前年比計▲2.2千坪)。
三鬼商事によれば、2019年末時点で最も賃貸可能面積の大きいエリアは「駅前東西地区(29.6%)」であり、次いで「駅前通・大通公園地区(27.3%)」、「創成川東・西11丁目近辺地区(15.8%)」、「南1条以南地区(14.5%)」、「北口地区(12.8%)」の順となっている(図表-5)。昨年からの増減をみると、「駅前東西地区」(前年比+1.1千坪)や「創成川東・西11丁目近辺地区」(+0.7千坪)、「北口地区」(+0.5坪)が増加する一方、「駅前通・大通公園地区(▲2.8千坪)」や「南1条以南地区」(▲0.3千坪)が減少し、全体で▲0.8千坪の減少となった(図表-6)。
一方、賃貸面積は、「駅前通・大通公園地区」を除く全ての地区で増加し(前年比+1.4千坪)、空室面積は減少した(前年比計▲2.2千坪)。
3. 新型コロナウィルスの感染拡大がオフィス需要に及ぼす影響
札幌の底堅いオフィス需要を支えているのは、IT関連企業やコールセンター企業による新規拠点開設および拡張移転である。直近の移転事例をみると、「さっぽろ創世スクエア」(2018年5月竣工)にはコールセンター大手の「りらいあコミュニケーションズ」や「トランスコスモス」が、「創成イーストビル」(2019年3月竣工)にはIT大手の「富士ソフト」が、「南大通ビルN1」(2019年7月竣工)には「LINE Pay」が入居する等、コールセンター企業やIT関連企業の入居が目立つ。
札幌市では、1980年代により「札幌テクノパーク」(札幌市厚別区)を整備するなど、全国の主要都市に先駆けて、IT企業の誘致を積極的に行ってきた。近年も2016年に「さっぽろ未来創生プラン」を策定し、IT産業などの理系人材の雇用の受け皿となる産業の振興に力を入れている。一般社団法人北海道IT推進協会「北海道ITレポート」によれば、北海道における情報産業の売上高は、2012年以降着実に成長しており、2019年には約4,700億円(見込み)に達している(図表-8)。
札幌市は、他の地方主要都市と比較して、低コストでかつ効率よくオペレーターを確保することが可能な環境にあり、コールセンター企業からのニーズは旺盛である3。また、札幌市は、「札幌市コールセンター・バックオフィス4等立地促進補助金」をはじめとして、コールセンター運営をサポートする様々な施策を講じている。こうした背景により、札幌市にコールセンターを開設する企業は増加している。リックテレコム「コールセンター立地状況調査」 によれば、札幌市におけるコールセンターの拠点は81拠点(2018年度)から96拠点(2019年度)に増加し、地方都市の中でトップであった(図表-9)。
札幌市では、1980年代により「札幌テクノパーク」(札幌市厚別区)を整備するなど、全国の主要都市に先駆けて、IT企業の誘致を積極的に行ってきた。近年も2016年に「さっぽろ未来創生プラン」を策定し、IT産業などの理系人材の雇用の受け皿となる産業の振興に力を入れている。一般社団法人北海道IT推進協会「北海道ITレポート」によれば、北海道における情報産業の売上高は、2012年以降着実に成長しており、2019年には約4,700億円(見込み)に達している(図表-8)。
札幌市は、他の地方主要都市と比較して、低コストでかつ効率よくオペレーターを確保することが可能な環境にあり、コールセンター企業からのニーズは旺盛である3。また、札幌市は、「札幌市コールセンター・バックオフィス4等立地促進補助金」をはじめとして、コールセンター運営をサポートする様々な施策を講じている。こうした背景により、札幌市にコールセンターを開設する企業は増加している。リックテレコム「コールセンター立地状況調査」 によれば、札幌市におけるコールセンターの拠点は81拠点(2018年度)から96拠点(2019年度)に増加し、地方都市の中でトップであった(図表-9)。
しかし、今後に目を転じると状況は大きく変わる。北洋銀行「道内企業の経営動向調査」によれば、売上が前期から「増加した」と答えた企業の割合から「減少する」と答えた企業の割合を引いた「売上DI」(2020年第2四半期)は▲59(前期比▲35)、「利益DI」も▲57(前期比▲34)となり、2001 年の調査開始以来、最も低い水準となり、低下幅も過去最大となった(図表-10)。
また、札幌市経済観光局「新型コロナウィルス感染症に伴う市内実態調査結果」によれば、「新型コロナウィルス感染拡大に伴う経営状況(2020年3~4月)」について、「宿泊業」と「飲食サービス業」は、無回答を除き、全ての事業者が「悪化」(「悪化している」もしくは「やや悪化している」)と回答した。IT関連企業やコールセンター企業が含む「情報通信業」も6割以上の事業者が「悪化」と回答している(図表-11)。
企業の経営環境が急速に大きく悪化したことで、企業の設備投資にも縮小の兆しが見える。帝国データバンク「2020 年度の設備投資に関する道内企業の意識調査」によれば、2020 年度の設備投資計画に関して、設備投資計画が「ある」との回答割合(「すでに実施した」、「予定している」、「実施を検討中」の合計割合)は51.4%となり、前回(2019 年度・61.8%)の水準を下回った。また、「予定している設備投資の内容」について、「事業所等の増設・拡大(建替え含む)」との回答は15.6%に留まった。
足もとでは、新型コロナの感染拡大を受けて企業の業績が急速に悪化しており、先行きの不透明感も強まっている。今後、企業業績の悪化や設備投資の縮小とともに、オフィスの新規開設や拡張移転の動きは当面鈍化する可能性が高い。
また、コールセンターは、特に3密(密閉、密集、密接)の環境になりやすく、集団感染(クラスター)が生じるリスクが指摘されている。感染対策として、有人による通話対応に代わり、有人チャットやチャットボット、AIを用いた自動応答を導入する事業者が増えている5。AI技術等を活用した顧客対応の自動化が進むと、人手に依存する大規模なコールセンターへの需要は減少することも想定される。
以上のことを鑑みると、IT関連企業やコールセンターがこれまで通り札幌のオフィス需要を牽引することは当面難しく、需要が鈍化する可能性がある。
また、札幌市経済観光局「新型コロナウィルス感染症に伴う市内実態調査結果」によれば、「新型コロナウィルス感染拡大に伴う経営状況(2020年3~4月)」について、「宿泊業」と「飲食サービス業」は、無回答を除き、全ての事業者が「悪化」(「悪化している」もしくは「やや悪化している」)と回答した。IT関連企業やコールセンター企業が含む「情報通信業」も6割以上の事業者が「悪化」と回答している(図表-11)。
企業の経営環境が急速に大きく悪化したことで、企業の設備投資にも縮小の兆しが見える。帝国データバンク「2020 年度の設備投資に関する道内企業の意識調査」によれば、2020 年度の設備投資計画に関して、設備投資計画が「ある」との回答割合(「すでに実施した」、「予定している」、「実施を検討中」の合計割合)は51.4%となり、前回(2019 年度・61.8%)の水準を下回った。また、「予定している設備投資の内容」について、「事業所等の増設・拡大(建替え含む)」との回答は15.6%に留まった。
足もとでは、新型コロナの感染拡大を受けて企業の業績が急速に悪化しており、先行きの不透明感も強まっている。今後、企業業績の悪化や設備投資の縮小とともに、オフィスの新規開設や拡張移転の動きは当面鈍化する可能性が高い。
また、コールセンターは、特に3密(密閉、密集、密接)の環境になりやすく、集団感染(クラスター)が生じるリスクが指摘されている。感染対策として、有人による通話対応に代わり、有人チャットやチャットボット、AIを用いた自動応答を導入する事業者が増えている5。AI技術等を活用した顧客対応の自動化が進むと、人手に依存する大規模なコールセンターへの需要は減少することも想定される。
以上のことを鑑みると、IT関連企業やコールセンターがこれまで通り札幌のオフィス需要を牽引することは当面難しく、需要が鈍化する可能性がある。
3 吉田資「地方都市のオフィス需要を牽引するコールセンター」(2019.7.4)不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所
4 企業等の内部事務や業務支援サービスの提供を集約的に行う事務所
5 日本流通産業新聞「〈コールセンター業界〉 加速するAI活用/アフターコロナの在宅化を推進」(2020年7月16日)
(2020年07月30日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
経歴
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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