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- J-REIT市場の収益見通し。今後5年で分配金6%成長を見込む~シナリオ別の分配金レンジは▲2%~+14%の見通し~
2019年11月07日
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1――今年に入り、J-REIT市場は一段と上昇。投資主価値の向上を評価
こうしたJ-REIT上昇の要因の1つに、投資主価値の持続的向上が挙げられる。「投資主価値の向上とは、1口当たり分配金(Distributions Per Share、以下DPS)と1口当たりNAV(Net Asset Value Per Share、以下NAVPS)を高めること」を言い、J-REIT市場の共通認識として定着している。過去5年間(2014年9月~2019年9月)の市場全体のDPS成長率は35%(年率6.2%)、NAVPS成長率は49%(年率8.3%)となり、同期間における東証REIT指数の上昇率(30%)を上回る(図表―2)。東証REIT指数が昨年から大きく上昇しているにも関わらずバリュエーション面でさほど割高感が強まっていない理由は、J-REIT各社の投資主価値が着実に向上しているためだと言える。
それでは、現在のマーケット上昇を支えるDPS成長は今後も期待できるのであろうか。以下では、まず、J-REIT市場を取り巻く収益環境を確認する。次に、現在の環境下において各種シナリオ(オフィス賃料見通し、物件取得要件、金利見通しなど)を想定し、今後5年間のDPS成長率を試算したい。
それでは、現在のマーケット上昇を支えるDPS成長は今後も期待できるのであろうか。以下では、まず、J-REIT市場を取り巻く収益環境を確認する。次に、現在の環境下において各種シナリオ(オフィス賃料見通し、物件取得要件、金利見通しなど)を想定し、今後5年間のDPS成長率を試算したい。
2――保有不動産は物流施設の占率が高まる。DPSは足もと前年比で4~5%増加
J-REITは、エクイティ資金及び借入金を調達して賃貸不動産に投資し、そこから得られる賃貸事業収益(Net Operating Income、以下NOI)を原資に利益のほぼ全額を分配する金融商品である。J-REITの運用を担う資産運用会社は、主に、(1)賃料や稼働率を高めるなどして保有不動産の収益力を高める「内部成長」、(2)資金を調達し不動産を新規取得する「外部成長」、(3)財務基盤を強化し金融コストを低減する「財務戦略」、の3つのルートを通じてDPS成長を図り、投資主価値の向上に努めている。
2019年6月末時点の運用不動産は市場全体で約3,900棟、金額にして約21兆円である(図表―3)。アセットタイプ別では、オフィスビルが8.7兆円(42%)、商業施設が3.3兆円(16%)、物流施設が3.2兆円(15%)、住宅が3.1兆円(15%)、ホテルが1.7兆円(8%)、その他(底地など)が0.8兆円(4%)となっている。2015年以降の累計取得額(約7.3兆円)をみると物流施設(22%)の割合が増加し、物流施設の保有額が住宅を抜いて第3位となった。
2019年6月末時点の運用不動産は市場全体で約3,900棟、金額にして約21兆円である(図表―3)。アセットタイプ別では、オフィスビルが8.7兆円(42%)、商業施設が3.3兆円(16%)、物流施設が3.2兆円(15%)、住宅が3.1兆円(15%)、ホテルが1.7兆円(8%)、その他(底地など)が0.8兆円(4%)となっている。2015年以降の累計取得額(約7.3兆円)をみると物流施設(22%)の割合が増加し、物流施設の保有額が住宅を抜いて第3位となった。
3――各種シナリオを想定し、今後のDPS成長率を試算する
1|保有オフィスビルのNOI成長率は直近4年間で9.7%プラス。引き続き、プラス成長が見込まれる
三鬼商事によると、都心5区の平均募集賃料(2019年6月)は2013年12月を底に66カ月連続でプラスとなりこの間の上昇率は33%となった(図表―6)。オフィス市況の改善は地方都市にも波及し空室率低下と賃料上昇の局面が続く。こうした市況改善を背景にJ-REITの保有ビルでも賃貸事業収益(NOI)が拡大している。継続比較可能なオフィスビル対象にNOI成長率(前期比)を確認すると、2015年下期から8期連続でプラスとなり直近4年間で9.7%増加した。また、各社の開示データなどをもとに保有ビルの賃料ギャップ(継続賃料と市場賃料のかい離率)を集計すると、継続賃料が市場賃料の上昇に追いついておらず賃料ギャップは全体で▲7%(継続賃料<市場賃料)と推計される。したがって、市場賃料の上昇が一息ついたとしても賃料ギャップの解消を通じて継続賃料が上昇し、今後もNOIの拡大が期待できそうだ。
三鬼商事によると、都心5区の平均募集賃料(2019年6月)は2013年12月を底に66カ月連続でプラスとなりこの間の上昇率は33%となった(図表―6)。オフィス市況の改善は地方都市にも波及し空室率低下と賃料上昇の局面が続く。こうした市況改善を背景にJ-REITの保有ビルでも賃貸事業収益(NOI)が拡大している。継続比較可能なオフィスビル対象にNOI成長率(前期比)を確認すると、2015年下期から8期連続でプラスとなり直近4年間で9.7%増加した。また、各社の開示データなどをもとに保有ビルの賃料ギャップ(継続賃料と市場賃料のかい離率)を集計すると、継続賃料が市場賃料の上昇に追いついておらず賃料ギャップは全体で▲7%(継続賃料<市場賃料)と推計される。したがって、市場賃料の上昇が一息ついたとしても賃料ギャップの解消を通じて継続賃料が上昇し、今後もNOIの拡大が期待できそうだ。
(2019年11月07日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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