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朝鮮半島に春は来るだろうか!―南北統一や東アジアの平和に繋がることを期待する―
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
南北関係改善のきっかけになったのは平昌(ピョンチャン)オリンピックであるだろう。今年2月に開催された平昌オリンピックに北朝鮮はスキー、スケート、アイスホッケーの3競技に22選手とコーチ・役員24人の選手団、そして報道陣21人を派遣した。また、アイスホッケー女子ではオリンピックでは初めて南北単一チームが結成され、2月9日の開会式では南北選手団が「統一旗」を使用し合同行進を行った。平昌オリンピックにての交流は、スウェーデンのハルムスタッドで開かれた2018世界卓球選手権にも繋がり、5月3日には南北女子卓球が、南北単一チームを電撃構成した。南北の卓球チームが一つになったのは1991年千葉世界選手権大会以来27年ぶりだ。
文化芸術分野の交流も活発だ。玄松月(ヒョンソンウォル)団長が率いる137人の団員から成る北朝鮮の三池淵(サムジヨン)管弦楽団は、平昌オリンピックの祝賀イベントとしてソウルや江陵(カンヌン)で2回にわたり公演を行った。抽選により無料で提供された合計780組(1560人)のチケットには15万人を超える応募が殺到したそうだ。また、3月31日は韓国の芸術団約160人が北朝鮮の平壌を訪ねて4月1日と3日に公演を開いた。
このようなスポーツ及び文化芸術の交流の結果は、4月27日の板門店にての南北首脳会談に繋がり、11年ぶりの3回目の南北首脳会談が開かれた。文在寅大統領(以下、文大統領)と金正恩国務委員長(以下、金委員長)は、板門店の韓国側にある「平和の家」で首脳会談を行った後、「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」を発表した。板門店宣言では、朝鮮半島に今後、戦争はないことを宣言しており、その主な内容には、非核化による核のない朝鮮半島の実現、終戦宣言、平和体制の構築、将官級の軍事会談の開催、鉄道や道路の南北連結事業の推進、2018年アジア大会をはじめとした国際競技に共同で出場、離散家族・親戚再会事業の推進、首脳会談やホットラインの定例化、2018年秋の文大統領の平壌訪問などが含まれた。
金委員長が「社会主義経済強国の建設」のために、経済部門を開放すると、文大統領の「朝鮮半島の新経済指導構想」を中心に、北朝鮮の社会間接資本(SOC)に対する韓国側の大々的な投資と開発が行われる可能性が高い。実際、南北の貿易総額は2015年までは増加傾向にあった。特に、2004年末に開城(ゲソン)工団に韓国企業が入居してから貿易量は大きく増加し、2005年には始めて貿易総額が10億ドルを超えた。また、2015年の貿易総額は27億ドルで歴代最高額を更新した。しかしながら、2016年2月に開城工団が閉鎖されてから、南北の貿易量は大きく減少し、現在はほぼ貿易が行われていない状況である。
このように南北関係が改善され、平和統一を成し遂げるのであれば、それ以上望ましいことはないだろう。南北の人口を合わせると約7600万人に達する。これは1990年に統一を達成したドイツの人口約8200万人に匹敵する数値であり、経済規模は今より飛躍的に大きくなる。北朝鮮の資源や労働力、そして韓国の資本や技術を有効に活用すれば、思った以上のシナジー効果が得られるかも知れない。もちろん、統一のためには解決すべき課題も山積している。意識や生活水準、言葉、社会保障、インフラなどの差をどのように縮めて行くのか、緻密な計画を立てる必要がある。特に、多くの費用がかかると予想されている社会保障に対する財源をどのようにまかない、最も効率的に運営するかに関して知恵を絞るべきである。せっかく訪れた平和ムードが台無しにならず、南北統一や東アジアの平和に繋がることを切実に願うところである。
(2018年05月10日「基礎研レター」)
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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