2024年09月18日

欧州経済見通し-景況感の回復に乏しく、成長は緩慢

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. 欧州経済はロシア・ウクライナ戦争を機に発生したエネルギー価格の高騰とインフレ急進、金融引き締めの影響を受けて停滞感が強まっていた。足もとでは停滞から脱しつつあるもののそのペースは緩慢である。
     
  2. 4-6月期の実質成長率は前期比0.2%(年率0.8%)となり、1-3月期(前期比0.3%、年率1.3%)に続き、年率1%前後の成長率を維持した。ただし、消費や投資といった内需に力強さは見られず、景況感の改善にも乏しい。
     
  3. インフレ率は、総合指数の前年比で2%台前半まで低下し、総じてディスインフレ傾向が続いている。ただし、賃金上昇圧力の根強さからサービスインフレが4%前後で高止まりしており、コアインフレ率は粘着性の強い動きとなっている。
     
  4. ECBは、インフレ圧力の緩和や2%目標達成への確度が高まったことを受けて利下げサイクルを開始、6月と9月にそれぞれ0.25%ポイントの利下げに踏み切った。
     
  5. 今後については、引き続き実質賃金の回復が続くことが見込まれることが、消費を後押しする要因となるだろう。また、ECBが段階的な利下げを実施していることも追い風となる。成長率は24年0.7%、25年1.4%、インフレ率は24年2.4%、25年2.1%を予想している(図表1・2)。ECBはディスインフレ傾向が続くと見込まれるなか、引き続きデータを確認しつつ、当面は四半期に1度のペースで段階的に利下げを継続すると予想する。
     
  6. 予想に対するリスクは、成長率見通しに対しては下方に傾いており(域内、域外経済それぞれに減速リスクを抱える)、インフレ見通しに対しては上方(賃金上昇率の高止まりによる想定以上のインフレ圧力など)と下方(需要減速によるディスインフレ加速など)の双方に不確実性があると考える。

 
(図表1)ユーロ圏の実質GDP/(図表2)ユーロ圏の物価・金利・失業率見通し
■目次

1.経済・金融環境の現状
  ・実体経済:上半期は年率1%前後の成長
  ・景況感の改善には乏しい
  ・雇用のひっ迫状態は継続
  ・物価・賃金:ディスインフレ過程が進む
  ・財政政策:財政健全化へ向けた動きは継続
  ・金融政策・金利:利下げサイクル開始
2.経済・金融環境の見通し
  ・見通し:引き続き実質賃金の上昇が成長要因
  ・リスク:成長率は下方、インフレは上下双方にリスク

(2024年09月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

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