2024年09月13日

ECB政策理事会-予想通り利下げ、今後は引き続きデータ次第

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:利下げを決定

9月12日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利の引き下げを決定(預金ファシリティ金利で0.25%ポイントの引き下げ)

【記者会見での発言(趣旨)】
・見通しは実質成長率を24年0.8%、25年1.3%、26年1.5%と予想(下方修正)
(前回6月は24年0.9%、25年1.4%、26年1.6%
インフレ率を24年2.5%、25年2.2%、26年1.9%と予想(変更なし)
(前回6月は24年2.5%、25年2.2%、26年1.9%
コアインフレ率を24年2.9%、25年2.3%、26年2.0%と予想(24年・25年を上方修正)
(前回6月は24年2.8%、25年2.2%、26年2.0%
0.25%ポイントの利下げは全会一致で決定した

2.金融政策の評価:タカ派でもハト派でもない

ECBは今回の会合で、市場予想通りとなる預金ファシリティ金利の0.25%ポイントの引き下げを決定した(なお、3月に決定していた運用枠組み見直しの結果に基づき、その他の政策金利はスプレッドが縮小された)。今回の利下げサイクルにおいては、前々回6月の利下げに続く2回目の利下げとなる(前回7月は金利を据え置き)。

今回公表されたスタッフ見通しではインフレ見通しは変更なし、コアインフレ率はやや上昇修正、成長率はやや下方修正という内容だった。コアインフレ見通しにはサービスインフレの高止まりを反映、成長率は内需の弱さが反映された。総合インフレはエネルギー価格の低下がサービスインフレの高止まりを相殺する形となった。見通し数値は小幅に修正されたが、大きなディスインフレが着実に進み、実質所得の改善によって成長率が回復していくというシナリオに変更はなかった。金融政策への示唆としても、サービスインフレの粘着性は慎重な利下げにつながる一方、景気減速懸念の高まりは利下げを促す要因にもなり、タカ派ともハト派とも言えない内容と考えられる。

質疑応答では、今後の利下げや中立金利に関する質問が見られたが、ラガルド総裁は先行きの金融政策に関する言質は与えず、データに依存して会合毎に決定を行うこと、特定のデータではなく様々なデータを勘案すること、中立金利は観測不可能であり都度データを見ながら確認すること、など従来のスタンスを述べるにとどまっている。

当面はこれまでと同様、データ依存のもとインフレ率や賃金・利益・生産性といった関連データ、理事会メンバーの発言に注目が集まる状況が続くだろう。

3.声明の概要(金融政策の方針)

今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • 理事会は本日、金融政策姿勢の操作に用いる預金ファシリティ金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した
    • 理事会の更新されたインフレ見通し、基調的なインフレ動向、金融政策の伝達の強さの評価に基づいて、金融政策の引き締め度合いを一段と緩和させることが適切である
 
  • 最新のインフレデータは総じて予想通りであり、最新のECBスタッフの見通しは前回のインフレ見通しを再確認するものとなった
    • スタッフ見通しでは総合インフレ率を年平均で24年2.5%、25年2.2%、26年1.9%と見ており、6月見通しと同じである
    • インフレ率は、エネルギー価格の前年比での急落が終わることで、今年の残りは再び上昇すると予想される
    • その後、インフレ率は来年後半にかけて我々の目標に向かって低下するだろう
    • コアインフレ率見通しは、サービスインフレが予想よりも高いことから、24年と25年をやや上方修正した
    • 同時にスタッフは、コアインフレが急速に低下し、今年の2.9%から25年は2.3%、26年は2.0%となると予想している
 
  • 賃金が依然として急ペースで上昇しているため、域内インフレは引き続き高い
    • しかしながら、人件費圧力は緩和しており、利益は高い賃金によるインフレへの影響を部分的に緩和している
    • 資金調達環境は引き続き制限的で、経済活動は、弱い民間消費と投資を反映して依然として低迷している
    • スタッフ見通しでは、経済は24年に0.8%成長し、25年に1.3%、26年に1.5%に上昇する
    • これは先々数四半期の域内需要が弱いことを主因として、6月の見通しよりやや下方修正された
 
  • 理事会は、確実にインフレ率を速やかに中期的に2%という目標に戻すと決意している
    • この目的のために、政策金利を必要とされる期間にわたり十分に制限的に維持する
    • 理事会は適切な制限水準と期間を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う
    • 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
    • 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
 
  • 24年3月13日に公表された通り、金融政策の運用枠組みの変更が9月18日から開始される
    • 特に、主要リファイナンスオペ金利と預金ファシリティ金利のスプレッドは0.15%ポイントとなる
    • 限界貸出ファシリティ金利と主要リファイナンスオペ金利のスプレッドは0.25%ポイントで変更されない
 
(政策金利、フォワードガイダンス)
  • 理事会は預金ファシリティ金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した(金利の引き下げを決定、運用枠組み見直しにもとづくスプレッドの縮小も実施)
    • 預金ファシリティ金利は理事会が金融政策姿勢の操作に用いる金利である
    • 加えて、24年3月13日の運用枠組み見直しで公表された通り、主要リファイナンスオペ金利と預金ファシリティ金利のスプレッドは0.15%ポイントとなる
    • 限界貸出ファシリティ金利と主要リファイナンスオペ金利のスプレッドは0.25%ポイントで変更されない
      • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:3.65%
      • 限界貸出ファシリティ金利:3.90%
      • 預金ファシリティ金利:3.50%
      • 24年9月18日から実施
 
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • APPの元本償還分の再投資(変更なし)
    • APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
 
  • PEPP元本償還分の再投資実施(更なし)
    • ユーロシステムはもはやPEPPの元本償還の全額を再投資せず、月額平均75億ユーロ削減する
    • 理事会はPEPPの再投資を24年末で終了する予定である
 
  • PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
    • 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(変更なし)
    • 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
 
(その他)
  • 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
    • インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
    • 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • (声明文冒頭に記載の政策金利、経済見通し、政策姿勢への言及)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • 経済は1-3月期の0.3%成長の後、4-6月期は0.2%成長となり、我々の最新の見通しを下回った
    • 成長は、主に純輸出と政府支出からもたらされた
    • 民間域内需要は弱く、家計消費は低下し、企業は設備投資を縮小し、住宅投資は落ち込んだ
    • サービスが成長を支える一方で、工業と建設業はマイナス寄与となった
    • サーベイ指標によれば、回復は引き続き向かい風に直面している
 
  • 我々は、時間の経過とともに、実質所得の上昇が家計消費の増加を促し、回復が進むと予想している
    • 制限的な金融政策が段階的に緩和される効果も、消費と投資を支えるだろう
    • 輸出も、引き続き世界需要の回復が進むにつれて、成長に寄与するだろう
 
  • 労働市場は引き続き強靭である
    • 失業率は概ね変わらず、7月は6.4%となった
    • 同時に雇用者数の伸びは、1-3月期の0.3%から4-6月期には0.2%に減速した
    • 最近のサーベイ指標では労働需要のさらなる緩和が示されており、求人率はコロナ前の水準まで低下した
 
  • 財政政策、構造政策は我々の経済をより生産的にし、競争力を向上させるために実施されるべきであり、これは中期的な潜在成長力の向上とインフレ圧力の削減に寄与するだろう
    • マリオ・ドラギ氏の欧州の競争力の将来に関する報告書とエンリコ・レッタ氏の単一市場の強化に関する報告書は、喫緊の改革の必要性とそれを実現するための具体的な提案を実施している
    • EUの修正された経済統治枠組み(economic governance framework)が完全に、透明性を持って、遅延なく実行されることは、政府の財政赤字と債務比率を持続的な基準に引き下げる助けになるだろう
    • 政府は財政・構造政策の中期計画(medium-term plans for fiscal and structural policies)において、この方向に向けた力強い一歩を踏み出すべきである

(2024年09月13日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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