2024年07月17日

IMF世界経済見通し-インフレの短期的な上振れリスクが目立つ

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.内容の概要:成長率は4月時点の見通しからほぼ変更なし

7月16日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)の改訂版を公表し、内容は以下の通りとなった。
 

【世界の実質GDP伸び率(図表1)】
2024年は前年比3.2%となる見通しで、24年4月時点の見通し(同3.2%)と同じ
2025年は前年比3.3%となる見通しで、24年4月時点の見通し(同3.2%)から上方修正

(図表1)世界の実質GDP伸び率/(図表2)先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率

2.内容の詳細:インフレ率に関して短期的な上振れリスクが目立つと評価

IMFは、今回の見通しを「足踏み状態の世界経済(The Global Economy in a Sticky Spot)」と題して作成した1
 
IMFは足もとの経済状況について、日本(自動車産業での供給制約)と米国(消費減速と純輸出のマイナス寄与)で予想外の下振れが発生したものの、欧州(サービス業の改善)や中国(国内消費の復活)を含む多くの国で成長が上振れしたと評価した。

将来については、4月時点の見通しから大きく変わっていない(24年3.2→3.2%、25年3.2→3.3%)。個別の国でも大幅に見通しが変更された国は限定的だったが、次に見るように中国やスペイン、サウジアラビアはやや改定幅が大きかった。
 
成長率見通しを地域別に見ると(前掲図表2、図表3)、先進国の見通しは修正がなく、新興国・途上国で若干上方修正された(先進国:24年1.7→1.7%、25年1.8→1.8%、新興国・途上国:4.2→4.3%、25年4.2→4.3%)

先進国では、米国は年初の成長率下振れを反映して24年が若干下方修正された(24年:2.7→2.6%、25年1.9→1.9%)。ユーロ圏はサービス業の成長と純輸出の上振れにより24年の成長率が若干上方修正された(24年0.8→0.9%、25年1.5→1.5%)。国別には特にスペインでの上振れが目立った(24年1.9→2.4%、25年2.1→2.1%)。日本は自動車生産にかかる供給制約と投資の低迷で24年の見通しが下方修正された(24年0.9→0.7%、25年1.0→1.0%)。
 
新興国・途上国のうち、中国の成長率は年初の個人消費の回復、好調な輸出を受けて大幅に上方修正された(24年4.6→5.0%、25年4.1→4.5%)。ただし、中期的な成長率は、高齢化や生産性成長率の鈍化を受けて29年までに3.3%まで減速すると予想されている。インドも過去の成長率上振れのゲタ効果と、農村地域を中心にした個人消費の見通し改善により24年の成長率がやや上方修正された(24年度6.8→7.0%、25年度6.5→6.5%)。その他、ブラジルでは洪水の影響による修正(24年2.2→2.1%、25年2.1→2.4%、25年は反動増)、メキシコは需要減による下方修正(24年2.4→2.2%、25年1.4→1.6%)、サウジアラビアは原油減産延長で下方修正された(24年2.6→1.7%、25年6.0→4.7%)。
(図表3)主要国・地域の成長率と実質GDP水準
国別の改訂状況を見ると、改訂見通しで公表している30か国中、24年(度)は11か国が上方修正、同じく10か国が下方修正、残りの9か国は横ばいだった2。また、25年(度)は上方修正が7か国、7か国が下方修正、16か国が横ばいとまちまちの結果となった。
(図表4)先進国と新興国・途上国のインフレ率 インフレ率については(図表1・4)、先進国でやや上方修正される一方、新興国・途上国で下方修正され、世界全体で見ると25年のみやや下方修正となった(世界:24年5.9→5.9%、25年4.5→4.4%、先進国:24年2.6→2.7%、25年2.0→2.1%、新興国・途上国:24年8.3→8.2%、25年6.2→6.0%)。

先進国では、これまで見通しと同様にサービスインフレの粘着性や、一次産品価格の上昇のため、ディスインフレペースの鈍化が想定されているが、IMFは、労働市場が冷え込み、エネルギー価格が低下すれば、総合インフレ率は25年末までに目標に戻る見込みだとする。ただし、特に米国では、ディスインフレの進展が鈍化しているとも指摘する。

IMFは今回の見通しに対するリスクについては、おおむね均衡しているとして、前回24年4月と同様の評価だった。一方で、インフレ見通しについては、ディスインフレの進展不足(特にサービスインフレと賃金インフレ)、貿易摩擦や地政学的緊張の再燃といった短期的な上方リスクが目立つようになっていると評価している。この高インフレリスクは、高金利の長期化をもたらし、借入コストがさらに上昇する、金利差によってドル高が長期化し資本フローが混乱するリスクに繋がることも指摘されている。

また、今年の選挙を受けて経済政策が大きく振れる可能性があり、見通しの不確実性が高まっている点も指摘する。これらは財政リスクや関税や産業政策の強化といった保護主義的政策に繋がり得る。生産性や成長の押し上げに寄与する、多国間主義でマクロ構造改革を促進するような政策が必要だとする。
 
なお、IMFは4月時点では成長率に対する具体的な下振れリスクとして「地理的な紛争を受けた商品価格の高騰」「インフレの長期化と金融ストレス」「中国の回復失速」「財政調整の混乱と債務危機」「改革機運を削ぐ政府不振」「地政学的分断の加速」を、上振れリスクとして「選挙を控えた短期的な財政出動」(ただしインフレ圧力と高金利を招く可能性あり)、「供給力改善による金融緩和余地の拡大」「人口知能による生産性向上」「構造改革機運の高まり」を挙げている。
 
1 同日に「ディスインフレが鈍化し政策の不確実性が増すなか、世界成長率は安定(Global Growth Steady Amid Slowing Disinflation and Rising Policy Uncertainty)」との題名のブログも公表している。
2 修正幅が四捨五入して0.0%ポイントの国を横ばいとした。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年07月17日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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