2018年03月14日

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5|従業員の安全やBCP(事業継続計画)など安全性に配慮する視点
我が国でのオフィスビルの選択基準において、所有・賃借を問わず、東日本大震災以降、ビルの耐震性能、省エネ性能、自家発電機能の装備、地盤の強さなど安全性・BCPの要因が重要な条件として追加され、これまでより強く意識されるようになったとみられる。

森ビルが、主に東京23区に本社が立地する企業で資本金上位の約1万社を対象に実施したアンケート調査によれば、オフィスの新規賃借予定のある企業が新規賃借する理由の中で、「耐震性の優れたビルに移りたい」との回答数の多さの順番は、2010年調査での7番目から、東日本大震災が発生した2011年調査で3番目、2012年調査で1番目まで急上昇し、その後は3~5番目に位置している17(図表3)。
図表3 主に東京23区に本社が立地する企業:オフィスを新規賃借する理由
オフィスビルのBCP強化施策メニューとしては、(1)耐震補強・省エネのための改修や(2)非常用発電機および燃料タンクの装備など既存ビルでの施策、(3)老朽化した自社ビルのBCPに対応できる設備仕様を備えたオフィスビルへの建替え(既存ビルの敷地内での建替えだけでなく、新規立地へ移転して建て替えるケースも想定され得る)、(4)老朽化した自社ビルの売却およびBCPに対応できる設備仕様・立地条件を備えた賃貸ビルへの移転、(5)バックアップオフィスの確保(所有または賃借)、(6)食料・水・防災用品の常時備蓄、(7)バックアップ構築を含めた堅牢なITインフラの整備、などが挙げられ、不動産との関わりが大きいものが多い(図表4)。

このためCRE部門は、経営企画部門、人事部門、IT部門、財務部門、事業部門など社内の関連部署との連携を図りつつ、外部の不動産サービスベンダーも戦略的に活用することにより、主導的な立場に立ってオフィスビルのBCP強化施策を経営トップに提案し、実施していくことが求められる。

最近我が国で新設された先進的な研究所は、強力なBCP機能を備えていることが多いため、災害時のBCPとして本社のサブオフィス機能を担わせることも一法だろう(図表4)。
図表4 本社オフィスにおけるBCP強化の施策メニューとCRE戦略との関わり
 
17 直近の同調査(2017年12月20日)では、5位となっている。
6|「健康経営」を実践する視点(従業員の心身の健康への配慮)
「『健康経営』とは、従業員等の健康保持・増進の取り組みが、将来的に企業の収益性等を高める投資であるとの考えの下、従業員等の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に取り組むことである。健康経営の推進は、従業員の活力や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績や企業価値の向上につながると期待される。経済産業省と東京証券取引所は、アベノミクスの成長戦略に位置付けられた『国民の健康寿命の延伸』に対する取り組みの一環として、『健康経営銘柄』を選定している」18

また、世界最大の資産運用会社である米ブラックロックは、企業の長期的成長には働き方改革による従業員の働きがい・満足度の向上が不可欠であると考えている。

このように健康経営や働き方改革の推進を通じた、従業員の活力や働きがいの向上は、企業の環境、社会、企業統治への取り組みを重視して株式の投資銘柄を選別する「ESG投資」の拡大とも相まって、資本市場での企業価値評価において重要なポイントになってきている。

一方、米国では、WELL認証(WELL Building Standard)と呼ばれる、入居者の健康や快適性に焦点を当てて建物を評価する世界初の認証制度が、2014年からスタートしている。

このように企業の健康経営や働き方改革の取り組みへの関心が高まる中、経営トップは、創造的なオフィスづくりを健康経営や働き方改革の推進のドライバーに位置付けるべきだ。海外の先進企業では、既にそのような考え方をいち早く取り入れている。
 
 
18 経済産業省、株式会社日本取引所グループ「健康経営銘柄2017 選定企業紹介レポート」2017年2月21日より引用。
 

4――メガプレートを備えた大規模ビルへの戦略的移転・集約

4――メガプレートを備えた大規模ビルへの戦略的移転・集約

我が国で創造的なオフィスづくりに取り組む事例では、本社機能などのオフィス移転・集約を契機に、業務改革やワークスタイル変革を標榜したオフィス改革を新たに断行するケースが散見される。その中で、フロア面積の広いメガプレートを備えた大規模ビルへ、分散していた本社機能などを戦略的に移転・集約する事例が一部で見られる19。その戦略的な狙いは、単純なスペースの見直しや賃料削減などコスト削減だけに終わらせるのではなく、関連性のある複数の部署やグループ会社をワンフロアに集めることにより、社内のインフォーマルなコミュニケーションやコラボレーションの活性化を図り、グループのシナジー創出につなげることだ。これは、前述の「企業内ソーシャル・キャピタルを育む視点」に他ならない。

研究拠点についても、本社ビルと同様に移転・集約を契機に、研究開発組織の刷新や研究開発体制の変革とともに、創造的なオフィスづくりに取り組む先進事例が見られる。また、その際にワンフロア面積の拡大を図り、関連のある複数の部署を集結して研究者・技術者同士のつながりを促進しようとするケースも一部で見られる。例えば、前出のキユーピーが開設した仙川キユーポートは、首都圏に点在するグループ17事業所のオフィス機能を集約したものであり、ワンフロア面積は約6,400㎡と当時都内最大級だった(テナントビルを除く)。

大規模ビルへの戦略的な移転・集約においては、CRE部門は、移転先オフィス物件の選定、移転・集約に関わる一連のプロジェクトマネジメント、既存不動産の売却・転用など移転集約プロジェクトの主要な業務について、外部の不動産サービスベンダーの力も借りながら、主導的な役割を果たすことが求められる。
 
19 主要な事例として、キリンホールディングス、ファーストリテイリング、三菱ケミカルホールディングス等が挙げられる。事例の詳細は、拙稿「コーポレートガバナンス改革・ROE経営とCRE戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2017年3月29日を参照されたい。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、AI・IOT、スマートシティ、CSR・ESG経営

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【クリエイティブオフィスのすすめ-創造的オフィスづくりの共通点】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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