2024年04月12日

ふるさと納税、使途選択の効果-人気の使途は寄付額アップにつながるのか?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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5――寄付額に及ぼす使途間の相互作用

最後に、突出して支持されている「子ども・子育て」が与える、他の使途への影響を確認する。通常、一回の寄付に対して使途は一つしか選べないので、突出して支持されている「子ども・子育て」が選択可能か否かによって、他の使途の選択が制限される可能性があるからである。具体的には「子ども・子育て」を選択可能な地方公共団体と、選択不可能な地方公共団体に分けて、それぞれ4章と同様の分析を行い寄付者の選択の効果を求め、その比を確認する。
【図表5】 「子ども・子育て」の選択可否と寄付者の選択 結果は図表5の通りで、「子ども・子育て」を選択できるか否かで、「教育・人づくり」が選択される割合は2倍以上の差がある一方、「環境・衛生」及び「災害支援・復興」が選択される割合は1.2倍程度の差しかない。この結果には、使途間の類似性が影響していると考えられる。「教育・人づくり」に関心が高い人は「子ども・子育て」に対する関心も高いと考えられるので、「子ども・子育て」を選択できるか否かで選択される確率が大きく左右される。一方、「環境・衛生」及び「災害支援・復興」に対する関心が高い人は、「子ども・子育て」を選択できるか否かに関わらず、「環境・衛生」及び「災害支援・復興」を選択するのであろう。
 
2章で「教育・人づくり」は「子ども・子育て」の次に寄付額の多いのに、「教育・人づくり」を選択できる地方公共団体の方が寄付額は少ない傾向がみられたのも、「子ども・子育て」と「教育・人づくり」の類似性が影響していると思われる。「子ども・子育て」を選択できない地方公共団体に限定して、図表2の分析をすると、結果は逆転し、「教育・人づくり」を選択できる地方公共団体の方が寄付額は多くなる。

「子ども・子育て」が選択不可の場合、「教育・人づくり」と「地域・産業振興」の寄付者の選択の効果は1.5倍(31.47%÷20.27%)の差があり、かつ「子ども・子育て」が選択可能な寄付が全体の57.5%に及ぶことを考えると、「教育・人づくり」と「地域・産業振興」に対する支持率の差は、4章の分析結果(22.1 % vs 16.1%)以上であると考えられる。
 
以上から、寄付受領団体が提示する使途のラインナップに含まれるか否かだけでなく、ラインナップの構成(選択可能な使途のバリエーション)の影響も無視できないことが分かる。

6――まとめと今後の課題

6――まとめと今後の課題

今回の分析結果から、現状は多くの寄付者が望む分野を使途として選択できるか否かが、各地方公共団体の寄付受領額に影響を及ぼすことは無い、もしくは影響があっても極めて軽微であるということが分かった。使途を指定しない寄付が寄付総額の4割超を占めるだけでなく、それ以外の寄付の大部分も使途に対する関心は低く、返礼品等を基準に寄付する地方公共団体を選択した後に、当該地方公共団体が提示する使途のラインナップの中から使途を選択していると考えられる。
 
一方、使途が各地方公共団体の寄付受領額に影響を及ぼさなくても、使途別の寄付額の差には寄付者の考えや想いはある程度は反映されている可能性はある。但し、寄付を受領する地方公共団体が提示するラインアップ(選択可能な使途のバリエーションを含む)による影響が大きい点には注意が必要である。使途別の寄付額の比率と寄付者の考えや想いの比率が完全に対応しているとは考えない方がいい。更に、ポータルサイトの設計が使途別寄付額に影響を及ぼしている可能性もある。この可能性は総務省の調査結果では検証できないので、サンプリング調査等を行い影響の有無を確認する価値はあるだろう。
 
加えて、興味深いのは寄付を受領する地方公共団体が必要とする使途と寄付者の考えや想いとの間にズレが生じている点である。地方公共団体が提示する使途に対しては、地方公共団体自身がその必要性を感じているはずである。このため、多くの地方公共団体で指定できる使途は、多くの地方公共団体が必要とする使途であると考えられる。調査対象全10分野のうち指定可能な地方公共団体数が多い使途は「健康・医療・福祉」、「地域・産業振興」や「環境・衛生」(図表1)であり、寄付者の支持が高い「子ども・子育て」や「教育・人づくり」とは異なる。財務省の資料2によると、ふるさと納税制度導入後の寄付受入額上位団体の歳出については、児童福祉費や商工費の伸びが全国の水準を上回っているが、児童福祉費よりも商工費の伸びの方が全国の水準をより大きく上回っている。このように、地方公共団体が必要とする使途と寄付者の考えや想いとの間にズレが生じている状況のままで、ふるさと納税の規模が拡大し、一部の地方公共団体に集中することの影響については、今後調査してみる価値があると思われる。
 
2 財政制度分科会(2023年10月4日開催)資料参照
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2024年04月12日「基礎研レポート」)

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