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ふるさと納税のポイント問題-問題の本質はどこにあるのか

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
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まず、(1)返礼品の調達額を寄付額の30%以下に抑えるルールに加え、(2)寄付金の募集に要した費用を寄付額の50%以下に抑えるルールがある。このため、仲介業者に支払う手数料は最大でも20%(50%-30%)であり、都道府県及び市町村(以下、自治体)には必ず50%以上残る。また、既に自治体に残る割合に下限がある以上、ポイント還元は仲介業者の取り分の一部を寄付者に還元しているだけである。つまり、過度なポイント還元に関する自主規制の本質は、本来競争すべき仲介業者の取り分を減らさないためのカルテルであり、過度なポイントに関する自主規制を支持するべきではない。このようなご意見である。
さて、これは本当だろうか。返礼品の調達額を寄付額の30%以下に抑えるルール(1)はあるが、返礼品の調達額を寄付額の30%ちょうどにすべきルールはない。極論だが、仲介業者に支払う手数料が寄付額の50%でも返礼品を全く提供せず(返礼品の調達額が0%)、仲介業者に支払う手数料以外の費用が一切発生しなければ(1)と(2)いずれのルールにも抵触しない。返礼品を提供しない寄付を仲介し自治体から寄付額の50%の手数料を受け取る仲介業者が、寄付者に寄付額の45%に相当するポイントを付与するケース(以下、極端なケース)を想像して欲しい。極端なケースは法令違反ではないかもしれないが、道義的に問題はないのだろうか。極端なケースの場合、自治体には寄付額の50%しか残らず、地域産業に対する支援効果も一切ないのだから、ふるさと納税の趣旨に反していると考える。
勿論、ふるさと納税の寄付者の大多数は返礼品目的であり、返礼品を提供しない自治体に寄付が集まるはずがない。また、返礼品には地域産業の支援の側面もあるのだから、自治体には返礼品を上限(寄付額の30%)に保つインセンティブがあるので、上記のような極端なケースは起こり得ない。普通は、このように考えるかもしれないが、本当なのだろうか。
そこで、寄付額に占める返礼品の調達費に係る割合と、それ以外の費用の割合の推移を確認してみた(図表1)。上述のルール制定後、寄付額に占める返礼品の調達費に係る割合は減少したが、寄付額に占める返礼品の調達費以外の費用の割合は減少していない。それどころか、ルール制定前で混乱した2018年度を除けば、増加基調にある。このデータは、ポイントの財源である「それ以外の費用の割合」が減らずに、地域産業の支援になる「返礼品の調達費の割合」が減っていることを示しており、ポイント還元に何ら問題はないという判断を簡単に下すべきでないということを明確に提示している。
実は、ルールが厳格化される前から、仲介業者が付与するポイントは問題視されている。2017年4月1日付の総務大臣通知に、仲介業者が付与するポイントは「ふるさと納税の趣旨に反するような返礼品」として明記されている。4年以上も前に既に問題視されていたのに、仲介業者が自主規制を設けるまで放置されて来た。問題視されていたのに4年以上も放置されて来たことこそが、ふるさと納税のポイント問題の本質ではないだろうか。
1 仲介業者が付与するポイントには有効期限が設定されている場合もあり、無期限に保存できるとは限らない。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年11月29日「研究員の眼」)

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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