コラム
2020年06月26日

ふるさと納税のウソ、ホント-年間上限額を少し超える程度が丁度いい?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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昨年12月の話である。男性上司と女性部下風の2人が、ふるさと納税について以下のような会話を交わしていた。
 
女性部下:
今年分のふるさと納税(寄付)、もうやりましたか?

男性上司:
大部分はやったけど、あと少し残っている。
年間上限額を少し超える程度が丁度いいしね。

女性部下:
そんな訳ないじゃないですか。年間上限の範囲内がいいに決まっていますよ。
それに、生命保険料控除等も考えれば、年間上限額より控えめにすべきですよ。
 
そもそも、丁度いいふるさと納税額とは何か。おそらく、寄付額の30%相当の返礼品を受け取ることを前提に、最も得する納税額を議論しているのであろう。

筆者が考えるに、男性上司の思考は以下のようなものである。
 
年間上限額まで残り9,000円だとする。年間上限額を超過した分は自己負担になるので、追加的に10,000円寄付すると、自己負担分が1,000円(10,000円―9,000円)増える。しかし、追加的に3,000円(10,000円×30%)相当の返礼品を受け取れるのだから、追加的に2,000円(3,000円―1,000円)の益がある。このため、10,000円納税した方が得なので、「年間上限額を少し超える程度が丁度いい」はホントである。
 
合理的な考え方の持ち主だと感心するが、女性部下も侮れない。筆者が考えるに、女性部下の思考は以下のようなものである。
 
年間上限額まで残り9,000円だとする。9,000円の寄付に対し、2,700円(9,000円×30%)相当の返礼品を受け取れる寄付先を探せば、自己負担は増えない。追加的な益は2,700円なので、年間上限額の範囲内に止めるべきである。つまり、「年間上限額を少し超える程度が丁度いい」はウソである。
 
このように見ると、女性部下の方が正しいように思えるが、果たしてそうだろうか。そこで、男性上司の方が正しいと判断するために必要な要素を二つ考えてみた。
 
一つ目の要素は、年間上限額までの残金に見合った返礼品を探すための時間(労力)に関係する。返礼品を探すために1時間かかるなら、男性上司の時給が700円(2,700円―2,000円)以下でない限り割に合わない。令和元年度の最低時給が700円より高いので、返礼品を探すための時間を考えると、やはり「年間上限額を少し超える程度が丁度いい」はホントである。これには、二つの反論が予想される。

一番目の反論は、ふるさと納税関連サイトで条件を指定して検索すれば、さほど時間はかからないといった反論である。しかし、2,700円相当の返礼品が、男性上司にとって2,700円の価値があるとは限らない。返礼品を転売せず、世帯内消費が前提なら、いかに高級な肉であろうとベジタリアン世帯には無価値である。年間上限額までの残金に見合いかつ自身の嗜好にあった返礼品を探すとなれば、それなりの時間を要するだろうし、そのように好都合な返礼品が存在しない可能性もある。

二番目の反論は、ポイント制を利用すればよいという反論である。ポイント制とは、寄付額に応じてポイントが付与され、ポイント付与後有効期限内の好きなタイミングで、ポイントを好きな返礼品に交換するという仕組みである。有効期限は自治体やポイント制度運営主体によって差はあるが、決して短くない。このため、当年中に9,000円分寄付し付与されたポイントと、翌年に寄付し付与されるポイントを合算して、好みの返礼品に交換することが可能である。

二番目の反論には「ぐう」の音もでない。ポイント付与を受けるための最低寄付額があり、有効期限と同様に、自治体やポイント制度運営主体によって様々であるが、最低寄付額を9,000円以下に設定している自治体は決して少なくないからだ。男性上司がワンストップ特例制度申請しており、かつすでに5自治体に寄付してしまっている上、既に寄付済みの自治体にはいずれもポイント制度がないか、最低寄付額が9,000円を超えるなら、「ポイント制を利用できない」と反論し返すこともできる。しかし、ワンストップ特例制度利用の条件、5自治体を超えるなら、確定申告すればいいと再反論されるのが落ちである。やはり、「年間上限額を少し超える程度が丁度いい」はウソなのだろうか。
 
二つ目の要素は、ふるさと納税に関する寄附金控除の仕組みに関係する。一般的に、ふるさと納税の年間上限額とは自己負担額が2,000円に収まる上限額であって、寄付額の30%相当の返礼品を前提に、最も得する金額とは限らない。ふるさと納税による減税は所得税の減税分(図表の①)と住民税の減税分(図表の②と③)で構成される。住民税の減税分は一般分②と特例分③からなる。住民税の自己負担額が2,000円に収まる上限額とは、特例分③が適用される上限額であり、①と②が適用される上限は、はるかに高い。このため、実は「追加的に10,000円寄付すると、自己負担分が1,000円(10,000円―9,000円)増える」というのが間違いで、自己負担額は1,000円より少なくなる。例えば、所得税率(復興特別所得税込み)が45.945%の超高所得者の場合は、年間上限額を超える寄付1,000円につき、自己負担額の増加は441円である。従って、10,000円の寄付で3,000円の返礼品がもらえて、上限超過した寄付1,000円の自己負担が441円なので、追加的な益は2,559円(3,000円―441円)となる。所得税率が低くなると年間上限を超える寄付1,000円当たりの自己負担額は高くなるが、所得税率が5.105%でも自己負担額は849円なので1,000円よりは少ない。男性上司が考えるよりお得なのである。とはいえ、ポイント制を利用するなどして、年間上限額との差額9,000円の寄付に対し、2,700円(9,000円×30%)相当の返礼品を受け取る方がよりお得である。しかし、些細な差しかないので「年間上限額を少し超えても大差ない」というのが正解ではないだろうか。
【図表】 ふるさと納税に関する寄附金控除の仕組みと上限額を超過した場合の自己負担額
「年間上限額を少し超える程度が丁度いい」がホントかウソかは、極めて些細な話だが、ふるさと納税に関する寄附金控除の仕組みは理解しておいた方が良い。うっかりふるさと納税の合計金額が、年間上限額を超えてしまった場合、ワンストップ特例制度を利用せず確定申告した方が、自己負担額が少ないかもしれないからだ。ワンストップ特例制度を利用した場合、年間上限を超える寄付金額に相当する①の適用は受けられない。1,000円の超過なら、所得税率(復興特別所得税込み)が33.693%の高所得者でも、337円(900円―563円)の違いだが、10,000円の超過なら約3,370円、20,000円の超過なら約6,740円の違いになる。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

(2020年06月26日「研究員の眼」)

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