コラム
2020年12月17日

ふるさと納税6割返礼品の価値-新型コロナウイルス関連の緊急対策との比較

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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【6割返礼品と、そのからくり】

ふるさと納税に伴い提供する返礼品等の調達費用は、寄付額の3割以下でなければならない。しかし、緊急支援の名の下に、到底寄付額の3割とは考えられない返礼品(以下、6割返礼品)が話題になっている。これには、国産農林水産物等販売促進緊急対策の補助事業が関係している。この事業は、民間の販路を活用する取組と業界団体が主体となって実施する取組で構成され、このうち民間による取組は4つの事業から構成される(図表1)。民間による4つの事業の中に「地域の創意による販売促進事業」があり、これが6割返礼品の出現において重要な役割を果たす。
【図表1】 国産農林水産物等販売促進緊急対策(補助事業)の全体像
地域の創意による販売促進事業紹介資料によると、支援内容は「道の駅や直売所などの販促キャンペーンなどで使用する食材費などを支援」であり、補助内容は「対象品目の食材費とイベント経費の1/2を補助」である。地域の創意による販売促進事業をふるさと納税制度に活用すると、寄付額の6割に相当する返礼品であっても、1/2が補助されるので、調達費用が寄付額の3割に収まるというからくりである。

【ふるさと納税に伴い受領する返礼品は課税対象である】

ふるさと納税に伴い受領する返礼品は課税対象であることはご存じだろうか。一般的に、「収入」から「収入を得るために支出した金額」を差し引いた額が所得である。返礼品(収入)を受け取ったとしても、返礼品(収入)を得るために返礼品の価値以上の金額を寄付しているのだから所得はないと考えるかもしれないが、その考えは間違っている。本来、寄付とは金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与なので、寄付額は返礼品を得るために支出した金額とは認められない。このため、返礼品を受領した場合、返礼品の価値が一時所得(収入)として認識される。
 
幸い、一時所得には最大50万円までの特別控除があるので、大多数の人は気にする必要はない。返礼品の価値が寄付額の3割かつ、返礼品以外の一時所得1がない場合、50万円以上の返礼品を受け取るには166万円(50万円÷3割)以上寄付する必要があり、ふるさと納税による自己負担額が実質2,000円に収まる寄付上限額が166万円を超えるには、給与所得者の場合でおよそ5,000万円以上の給与収入が必要だからだ。
 
6割返礼品の是非についてはあまり関心がないが、一時所得を把握する上で6割返礼品の価値がどのように扱われるかが気になって仕方がない。6割返礼品の是非については新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う対策という性質上、恒常的な事業ではないし2、今困っている人を助けるという大義名分にも異論はないが、恒常的ではないとはいえ、6割返礼品の課税上の取扱いよって所得税額に影響があるほどの高額所得者を優遇する理由はないからである。

寄付額の6割相当の返礼品なのだから、6割返礼品の課税上の価値は寄付額の6割相当だと考えるのが自然だと思うのだか、6割返礼品の課税上の価値について一緒に考えてみたい。
 
1 一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得のことで、懸賞や福引きの賞金品、競馬や競輪の返戻金、生命保険の一時金や損害保険の満期返戻金、遺失物拾得時に受け取る放浪金などが該当する。
2 キャンペーン実施期間に制限があり、地方公共団体と連携する場合は連続1か月、それ以外は、連続又は非連続で合計14日間以内である。

【道の駅や直売所で同商品を半額で購入した場合は、課税対象なのか?】

「地域の創意による販売促進事業」の支援内容は「道の駅や直売所などの販促キャンペーンなどで使用する食材費などを支援」であり、「地域の創意による販売促進事業」を実施するのはふるさと納税の返礼品だけではない。販促キャンペーンの一環として道の駅や直売所などで返礼品と同じ商品が半額で売られていた場合を考える。実質的には、商品の購入者が購入額相当の補助額(=経済的利益)を受け取ったことになるが、これは課税対象だろうか。値引き販売自体は決して珍しいことではなく、通常、値引きによる購入者の経済的利益は課税対象ではない。

ならば、6割返礼品の課税上の価値は寄付額の6割相当ではなさそうだ。道の駅や直売所などの割引販売も6割返礼品も同じ「地域の創意による販売促進事業」に基づくのに、補助額の課税上の取扱いが異なるのはおかしい。寄付額の6割のうち3割相当が課税対象外の値引き分ならば、6割返礼品の課税上の価値は寄付額の3割相当と考えられる。

【サービス産業消費喚起(Go To)事業の給付は課税対象である】

新型コロナウイルス関連の緊急対策として、サービス産業消費喚起(Go To)事業が話題であるが、給付額は一時所得として所得税の課税対象である。Go To トラベル事業とGo Toイート事業の両事業とも、事業に関するQ&Aにおいて給付額(Go To トラベル事業は、旅行代金の1/2相当額、Go Toイート事業の内プレミアム付食事券は購入額の25%相当額、オンライン飲食予約は500円または1,000円のポイント付与額)は一時所得として所得税の課税対象であると明記されている。新型コロナウイルス関連の緊急対策であっても消費者が得る経済的利益は課税対象であると考えれば、6割返礼品の課税上の価値は寄付額の6割相当に間違いないようにも思える。

【補助や給付を受けるのは誰か】

サービス産業消費喚起事業(Go To トラベル事業)給付金給付規定には、「給付金は(中略)旅行者又は同旅行者であって宿泊地の属する都道府県及び当該都道府県に隣接する都道府県(中略)において商品・サービスを地域共通クーポンを利用して購入した者に対して給付する。」と記載されている。サービス産業消費喚起事業(Go To Eatキャンペーン)給付金給付規定も同様に、消費者に対して給付することを明記している。これに対して、国産農林水産物等販売促進緊急対策事業実施要綱では、「(前略)定める要件を満たす団体等に対してその経費を補助する。」と記されている。

同じ新型コロナウイルス関連の緊急対策とはいえ、一方は消費者(又は旅行者)に対する給付であり、他方は消費者に対する給付ではないということだ。であれば、サービス産業消費喚起(Go To)事業により享受する経済的利益と、6割返礼品により享受する経済的利益のうち半分(補助分)の取扱いが異なるのも当然なのかもしれない。そう考えると、6割返礼品の課税上の価値はやはり寄付額の3割相当なのだろうか。
 
いろいろ考えてみたけれど、6割返礼品の課税上の価値はよくわからない。しかし、6割返礼品の課税上の価値が寄付額の6割相当なら、同じ事業に基づくのに、道の駅や直売所等で購入した場合と取扱いが異なるという違和感が残る。とはいえ、寄付額の3割相当なら、コロナ禍に乗じて一部の高額所得者3の支払うべき税金が減免され、お金持ちが優遇されているようで、なんとなく腑に落ちない。
 
3 返礼品の価値が寄付額の6割かつ、返礼品以外の一時所得 がない場合、50万円以上の返礼品を受け取るには83万円(50万円÷6割)以上寄付する必要があり、ふるさと納税による自己負担額が実質2,000円に収まる寄付上限額が83万円を超えるには、給与所得者の場合でおよそ2,500万円以上の給与収入が必要になる。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2020年12月17日「研究員の眼」)

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