コラム
2020年07月27日

明細はどこへ消えた?-ふるさと納税の自己負担額を確認できない人がいる

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   高岡 和佳子

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先日、知人から「ふるさと納税の自己負担額はどうやって確認すればよいのか?」と聞かれた。知人は、ワンストップ特例制度を利用しているという。ワンストップ特例制度を利用している場合、自己負担額の確認は簡単である。6月頃に勤め先から配布される特別徴収税額の決定・変更通知書(以下、特別徴収税額決定通知書)を確認すればよい。親切な市町村(特別区を含む、以下同じ)ならば、左下の摘要欄(図表1 左下)に寄附金税額控除額として明示してくれているので、この金額と前年のふるさと納税支払い総額との差額が自己負担額である。
【図表1】特別徴収税額決定通知書(納税義務者用)
知人は、摘要に記載がないと訴える。では、税額記載欄(図表1 中央部)のその内訳項目「税額控除額」はどうか?と問えば、税額控除額の文言はどこにもないと答える。特別徴収税額決定通知書の様式は地方税法施行規則で定められている。はてさて、これはどういうことだろうか。
 
どうやら筆者は、知人の絶大な信頼を得ているらしい。知人が特別徴収税額決定通知書を見せてくれた。知人の特別徴収税額決定通知書は、筆者が受け取る紙ベースの特別徴収税額決定通知書より一歩先を行くWeb形式だが、記載内容は毎月の納付額と摘要のみであった。実は特別徴収税額決定通知書には2種類ある。図表1のような納税義務者用(以下、納税義務者を「本人」と記す)と、税金の徴収業務を担う特別徴収義務者用(以下、特別徴収義務者を「勤め先」と記す)である。勤め先用の記載内容は毎月の納付額と摘要のみである。知人の勤め先は、特別徴収税額決定通知書(勤め先用)の内容をWeb上に表示しているものと推測できる。
 
2016年10月に総務省行政評価局長から総務省自治税務局長に宛て『個人住民税の特別徴収税額決定通知書(納税義務者用)の記載内容に係る秘匿措置の促進(あっせん)』が出ている。これは、勤め先を経由して本人に交付される特別徴収税額決定通知書(本人用)には、勤め先の知る必要のない情報が含まれており、プライバシー保護の観点から、特別徴収税額決定通知書(本人用)には情報を秘匿するための何らかの措置を講じて欲しいといった苦情への対応である。秘匿措置を講じることを指示するものではなく、市町村による秘匿措置の検討に資するよう、秘匿措置の実施状況を把握し、それを地方公共団体に提供することを求める内容であるが、これにより、秘匿措置を実施する市町村が拡大し、プライバシーの保護が図られることが期待されている。

しかしながら、1,741市町村のうち817市町村(46.9%)は秘匿措置実施予定なしと回答している(2017年1月時点)。
 
知人の特別徴収税額決定通知書の摘要欄に寄附金税額控除額の記載がない理由は、市町村の不親切ではなく、寄附金税額控除の適用を受けているか否かは、勤め先の知る必要のない情報なので、勤め先用の摘要欄には記載されていないのであろう。知人と同一の市町村に住む別の知人(冒頭の知人とは勤め先が異なる)は、ちゃんと勤め先経由で特別徴収税額決定通知書(本人用)を受け取っており、摘要欄に寄附金税額控除額が記載されていたと聞く。
【図表2】個人住民税の特別徴収決定通知書の流れ
市町村は特別徴収義務者(=勤め先)を指定し、勤め先に税金を徴収させなければならず、更に徴収対象金額を、特別徴収の方法によって徴収することを勤め先及び、勤め先を経由して本人に通知しなければならない。ただし、勤め先の同意がある場合には、勤め先に対する通知を電子的方法で情報提供することが認められている(地方税法第321条の4の第1項、7項~9を意訳)。筆者が確認する限り、特別徴収税額決定通知書(勤め先用)は電子的方法が認められているが、特別徴収税額決定通知書(本人用)については、電子的方法が認められていない。冒頭の知人の特別徴収税額決定通知書(本人用)も、市町村から勤め先に送付されているはずであるが、一体どこへ消えたのだろう?

なお、筆者が確認する限り、勤め先に課せられた義務は適切な徴収と納入、それに関連する届出書の提出だけである。
 
昨今のコロナ禍によるリモートワークの進展等の状況に照らし、給与明細表を含む様々な書類の電子化が急速に進むと思われる。これまでは、特別徴収税額決定通知書(本人用)も紙媒体の給与明細と併せて勤め先に配布させることで、行政側および社会全体の業務負荷を軽減することができていたと推測する。

しかし、電子化が進み、給与明細も電子ファイル等で配布されることによって、紙媒体の給与明細の配布が行われない世界を考えた時、勤め先を経由して通知する現行の仕組みが、社会全体の業務負荷を軽減させるとは思えない。当然、市町村は本人の住所を把握しているのだから、本人に直接郵送するように変更すれば良いのではないだろうか。本人に直接通知するなら、秘匿措置を講ずる必要もない。将来的には、本人にも電子的方法で通知してもいい。
 
せめて、特別徴収税額決定通知書(本人用)に記載されている明細情報が漏れなく納税者に通知される体制が必要ではないだろうか。あってはならないことだが、寄付金受領自治体の事務ミスや寄付金受領自治体と居住地自治体間の連絡ミスにより、減税が不十分であったとしても、本人の明細情報がない場合、納税者のタックス・リテラシーや計算能力がよほど高くない限り気づくことすらできない。こういう納税者が簡単にチェックできないという状況は好ましくない。早急な解決が必要なのではないだろうか。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

(2020年07月27日「研究員の眼」)

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