2024年03月28日

健康無関心層へのアプローチ

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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3――「自分の健康状態を常に把握している」人の健康状態、健康行動

続いて、自分の健康状態を常に把握しているかどうかで、健康行動、疾病罹患や医療等サービスに関する不安とそれへの対応策、主観的健康感にどのような差があるかを見る。

まず、健康行動として、睡眠や喫煙、体重等いわゆる健康と関連が深いとされるいくつかの健康行動や習慣について、それぞれあてはまるかどうかを尋ねた結果を、全体と、自分の健康状態はいつも自分で把握している人とで比較した(図表3)。その結果、自分の健康状態を常に把握している人では、健康に良いとされる行動や習慣を行っている割合が高かった。特に、「適正な体重を維持する」「過度の飲酒をしない」「ふだん、できるだけ歩くように心がけている」「食べるものにはいつも気を配っている」「定期的に健康診断を受けている」は全体と比べて20ポイント以上高かった。なお、「気を付けていることはない」は一人もいなかった。
図表3 健康行動や習慣の実施状況
次に、疾病罹患や医療等サービスに関する不安について、それぞれあてはまるかどうかを尋ねた結果を、全体と比較した(図表4)。その結果、自分の健康状態を把握している人は、「ガン、心疾患、脳血管疾患にかかる」「認知症になる」「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「感染症・伝染性の病気にかかる」「手厚い介護サービスを受けられない」の5項目で全体を上回った。このうち、「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「認知症になる」「ガン、心疾患、脳血管疾患にかかる」は全体で上位3位に入る不安項目であることから、自分の健康状態を把握している人は、全体で上位にあがる項目について、より不安を感じる人が多いようだった。それ以外の14の不安項目については大きな差はなかった。
図表4 疾病罹患や医療等サービスに関する不安
こういった疾病罹患や医療等サービスに関する不安への対応策について、あてはまるかどうかを尋ねた結果を、全体と比較した(図表5)。その結果、自分の健康状態を把握している人は、すべての項目で全体を上回り、何等かの対策を講じている割合が高かった。特に、「かかりつけ医など、信頼のできる相談相手を身近にみつける」は全体を15ポイント上回った。

一方、「特にない」は全体では半数近くあったのに対し、自分の健康状態を把握している人では25.6%と低かった。
図表5 不安への対応策
最後に、主観的健康感を尋ねた結果を比較した(図表6)。その結果、自分の健康状態を把握している人では「健康である」が全体を5ポイント上回り、「まあ健康である」「健康でない」「あまり健康でない」が少しずつ低くなっていた。
図表6 主観的健康感
以上のとおり、「自分の健康状態を常に把握している」人は、疾病罹患や医療等サービスに関する不安では19項目のうち5項目で、全体と比べて不安を感じている人が多かったが、それ以外の14項目では全体との差はあまり大きくない。しかし、疾病罹患や医療等サービスに関する不安への対応策は全体と比べてすべての項目で上回り、不安に向けて何らかの対策をとっている人が多いと言えそうだ。特に、「かかりつけ医など、信頼のできる相談相手を身近にみつける」は半数程度が実施しており、自分の体調や疾病歴も踏まえて相談できるかかりつけ医を持っているようだ。

また、健康行動を実践している割合も高い。特に、「適正な体重を維持する」「過度の飲酒をしない」「ふだん、できるだけ歩くように心がけている」「食べるものにはいつも気を配っている」「定期的に健康診断を受けている」は全体を大きく上回っていた。「定期的に健康診断を受けている」は、自分の健康状態を把握するための手段の1つであるが、全体の35.9%、把握していない人でも28.7%(図表略)が受けており、健康診断を受けていても、自分の健康状態を把握しているとは限らないようだ。

自分の健康状態を常に把握している人で、「健康である」と回答した割合が有意に高かった。自分の健康状態を把握していることで、自分の健康に自信を持つことができる可能性もあるし、自分の健康に自信を持っている人が積極的に健康状態を把握しようとしている可能性もあるだろう。

4――「自分の健康状態を常に把握していない人」の把握

4――「自分の健康状態を常に把握していない人」の把握

本稿では、20~74歳を対象として行ったアンケート調査から、「自分の健康状態を常に把握している」と回答した23%の人の、健康行動、疾病罹患や医療等サービスに関する不安、不安への対処法の特徴をみた。健康状態を把握している人で、疾病罹患や医療等サービスに関する不安に大きな差があるわけではなかったが、健康行動を実践しており、疾病罹患や医療等サービスに関する不安への対処を行っている可能性があった。このことから、健康状態を把握することが、健康行動を実践したり、疾病罹患や医療等サービスに関する不安に対処することに至るモチベーションの1つとなり得る可能性が考えられた。

また、健康状態を把握している人は「健康である」と回答した割合が有意に高かった。図表1、2に示したとおり、高齢者や疾病経験をもつ人で、健康状態を把握している人が多かったが、健康状態を把握し、適切な対応をとることが、健康の自信につながる可能性が考えられた。また、健康であることに自信をもつことで、自身の健康状態に関心をもつ可能性も考えられた。

今回の結果では、定期的な健康診断を受けていても、自分の健康状態を把握しているとは限らないことから、例えば、若年齢者には、職場等で受ける健康診断で、疾病リスクを発見するだけでなく、いかに自分自身の健康状態が良いのかを再認識できるようなものとすることで、さらに積極的に健康状態を把握しようとする関心につなげることができるかもしれない。さらなる分析をおこなっていきたい。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2024年03月28日「基礎研レポート」)

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