2024年03月25日

定額年金主導で米国個人年金販売額は2年連続過去最高を更新-独立系販売チャネルが存在感を増す-

保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴

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1――はじめに

米国で個人年金の販売が好調だ。2021年の販売額2,546億ドルは前年比16%増とパンデミックの影響から早期に回復を果たした。続く2022年は過去最高の販売額3,128億ドルで初の3,000億ドル超えとなった。

この保険・年金フォーカスでは、米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるLIMRAが本年3月に公表した2023年販売実績(確定値)1と昨年11月に公表した中期見通しに基づき、米国個人年金市場の現状をお伝えしたい。
 
1 速報値は本年1月24日に公表されていた。

2――2023年の販売実績

2――2023年の販売実績

2023年も年間を通じて好調な販売が持続された。直近となる第4四半期(2023年10月~12月)の実績は1,157億ドルと、四半期として過去最高であった第1四半期(2023年1月~3月)の実績940億ドルを大きく凌駕した。2023年通年では3,854億ドルと、過去最高であった2022年に比し23%の大幅増加を果たした。

その販売実績の中でも変額年金と定額年金では様相が異なる。変額年金においては、元本保証はないものの伝統的変額年金に比し安全性の高い登録指数連動年金(RILA)が第4四半期(2023年10月~12月)に初めて伝統的変額年金を上回り、通年でも前年比15%増となった。しかし株価が堅調に推移した1年であったにも関わらず、伝統的変額年金が前年比17%の減少に陥ったことを受け、変額年金全体では前年比4%減となった。

その一方、定額年金は通年で前年比37%増の2,866億ドルの販売実績を確保した。

まず確定利付き据置定額年金は第4四半期に四半期としての最高記録を更新する585億ドルに至り、通年でも1,649億ドルと過去最高であった前年比46%の大幅増加となった。人口動態として老後の備えを確保したい60歳以上人口が増えていく中、元本が保証されつつ銀行CDなどよりも高い金利を得られる確定利付き据置定額年金へ高齢層の資金が向かうことに驚きはないと分析されている。

定額指数連動年金(FIA)も前年比20%増の959億ドルで過去最高を更新した。高齢層からの元本確保型商品への需要の高さは前述の通りであるが、定額指数連動年金(FIA)においては独立系販売チャネル(エージェント/ブローカー)の取り扱いが増えていることが指摘されている。前年比で24%増、定額指数連動年金(FIA)の全販売額のうち74%を占める。特に定額指数連動年金(FIA)で独立系販売チャネルの存在感が増していることは、他の定額年金商品に比し販売手数料が高水準にあるものと筆者は推測する。

詳細は図表1の通りとなる。
【図表1:2022年-2023年の商品別個人年金販売額実績(単位:10億ドル)】

3――中期見通し(参考、2023年11月時点)

3――中期見通し(参考、2023年11月時点)

2023年11月時点のものではあるが、米国の個人年金市場に関するLIMRAの2026年までの見通しを紹介したい。骨子は以下4点となる。

(1) 2022年と2023年に経験した勢いが主な商品と業界全体の営業を支える。
(2) 経済環境は改善が見込まれる一方、予想される僅かな金利の低下が逆風となる。
(3) 元本確保機能を持つ商品へは引き続き強い需要がある。
(4) 保証された収入(年金給付)への需要が増大する。

これらを踏まえての具体的な見通しは図表2が示す通りである。2024年は金利の低下を受けて定額年金の販売額が減少するものの、2025年から2026年にかけては全商品において販売額の増加が見込まれている。
【図表2:2023年-2026年の商品別個人年金販売額見通し(単位:10億ドル)】
2023年11月に公表された見通しのため、2023年の水準が前章で報じた同年の確定実績よりもかなり少なくなっている点に留意いただきたい。2023年の後半における定額年金へのニーズが想定を超える強さであったことが伺える。

尚、図表1と2に記された個別商品の概要については図表3を参照いただきたい。
【図表3:個人年金各商品の概要】

4――おわりに

4――おわりに

これまで見てきた通り、元本確保機能を有する定額年金を中心に米国の個人年金市場は絶好調と言える状態にある。2024年の減速を除けば、2025年から2026年にかけて年間3,000億ドルを優に超える販売額が期待されている。

とはいえ見通しの前提となる経済環境や金融政策が想定から外れる可能性もある。また、行政の動きも無視できない。バイデン政権が掲げるムダ手数料削減方針の下、労働省が昨年10月に公表した投資助言受託者の定義を実質的に拡大する規則案が成立した場合、小規模でコンプライアンス対応の体力が限られる独立系販売チャネルによる定額指数連動年金(FIA)販売にブレーキがかかる2ことになろう。

今後の動向を引き続き、保険・年金フォーカスで取り上げていきたい。
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保険研究部   主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任

磯部 広貴 (いそべ ひろたか)

研究・専門分野
内外生命保険会社経営・制度(販売チャネルなど)

経歴
  • 【職歴】
    1990年 日本生命保険相互会社に入社。
    通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
    日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
    2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
    資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。

    【加入団体等】
    日本FP協会(CFP)
    生命保険経営学会
    一般社団法人アフリカ協会
    2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版

(2024年03月25日「保険・年金フォーカス」)

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