- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- 消費者行動 >
- 最近の訪日外国人消費-旅行者増で消費額増。中国人の「爆買い」は中身が変わるも消費意欲は変わらず。今後はコト消費拡大が鍵。1泊増で+0.4兆円。
最近の訪日外国人消費-旅行者増で消費額増。中国人の「爆買い」は中身が変わるも消費意欲は変わらず。今後はコト消費拡大が鍵。1泊増で+0.4兆円。
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
1――はじめに
本稿では、改めて近年の訪日外国人消費の状況を見ていく。
2――訪日外国人旅行消費の概況
観光庁「訪日外国人消費動向調査」1によると、旅行者数と消費額は増加傾向が続く(図表1)。2011年から2016年にかけて、旅行者数は622万人から2,404万人へと3.9倍に、旅行消費額は0.8兆円から3.7兆円へと4.6倍にも増えている。また、対前年増加率では、どちらも2015年に最も大きな伸びを見せたが、2016年では旅行者数は+20%以上を保つ一方、消費額は+7.8%にとどまり、直近で消費額の伸びはやや鈍化している。
1 成田国際空港をはじめとした日本国内の18空海港にて、訪日外国人旅行客に対して調査員が聞き取り調査を行った結果に対して、日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数」の統計データを用いて訪日外国人旅行消費額の総額を試算。
消費額の内訳を見ると、いずれもおおむね増加傾向にあるが、2015年から2016年にかけて「買い物代」(▲278億円)が減少している(図表2a)。また、内訳が全体に占める割合は、以前は「宿泊料金」が最も多かったが(2011年で34.6%)、2014年から「買い物代」が上回っている。なお、「買い物代」は2015年には4割を超えたが、2016年にはやや低下し38.1%となっている。
また、1人当たりの消費額は、2015年まではおおむね増加していたが、2016年は減少している(図表2b)。内訳を見ると、2016年では前年より全ての項目が減っているが、特に「買い物代」の減少が目立つ。1人当たり消費額の減少(▲2.0万円)のうち、約7割は「買い物代」(▲1.4万円)によるものだ。
つまり、図表1で2016年に訪日外国人旅行消費額の伸びがやや鈍化していた背景には、「買い物代」をはじめとした1人当たり消費額が減った影響がある。
なお、2015年は円安が進んだ時期であり、流行語大賞に中国人の「爆買い」が選ばれた年でもある。百貨店で高級ブランド品を買ったり、ドラッグストアやスーパー等で化粧品や医薬品、菓子類などを大量買いする中国人旅行客が目立った。後述するが、「買い物代」をはじめ1人当たり消費額が減った要因には為替の変動の影響があり、関税引き上げ等を背景に「爆買い」の状況も変わっているようだ。
3――国・地域別に見た訪日外国人旅行消費
旅行者数について、上位を占める顔ぶれを見ると、2016年では1位中国(637万人、全体の26.5%)、2位韓国(509万人、21.2%)、3位台湾(417万人、17.3%)、4位香港(284万人、7.7%)、5位米国(124万人、5.2%)の順であり、上位5位までで全体の77.8%を占める。2011年以降、上位の中で入れ替わりはあるが(首位が2013年までは韓国、2014年は台湾)、顔ぶれに変化はない(図表3a)。
消費額は、2016年では中国が圧倒的に多く(1兆4,754億円、全体の39.4%)、2位台湾(5,245億円、14.0%)、3位韓国(3,577億円、9.5%)、4位香港(2,947億円、7.9%)、5位米国(2,130億円、5.7%)の順であり、上位5位までで全体の76.5%を占める。2011年以降で順位に大きな変化はない(図表3b)。
これらの主要国・地域では、いずれも旅行者数・消費額ともに増加傾向にあるが、全体同様、2016年では消費額の伸びがやや鈍化している傾向がある。それぞれの旅行者数と消費額の対前年増減率を比べると、2013年から2015年頃は消費額の増減率が旅行者数の値を上回ることが多かったが、2016年では、いずれも旅行者数の方が大きい(図表3c)。つまり、主要国・地域からの旅行者数は比較的、堅調な伸びを維持しているのに対して、旅行消費額の伸びは鈍化している。
なお、前項で述べたように、2014年から消費額の首位を「買い物代」が占めるようになったが、その頃から中国人旅行客の消費額が飛躍的に伸び(2014年は対前年+102.4%、2015年は+153.9%)、全体に占める割合も3割を超えて上昇するようになっている。一方で2016年は中国人の消費額の伸びは鈍化している(+4.1%)。よって、2016年に訪日外国人旅行消費全体の伸びがやや鈍化していた背景には、消費額の約4割を占めて圧倒的に多い中国人旅行客の消費が鈍化した影響がある。
(2017年07月25日「基礎研レター」)
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/09/19 | 家計消費の動向(~2024年7月)-物価高で食料や日用品を抑え、娯楽をやや優先だが温度差も | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2024/09/10 | Z世代の消費志向とサステナブル意識-経済・社会的背景から見た4つの特徴 | 久我 尚子 | 研究員の眼 |
2024/08/30 | 子育て世帯の定額減税に対する意識-控除額の多い多子世帯で認知度高、使途は生活費の補填、貯蓄 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2024/08/21 | 訪日外国人消費の動向(2024年4-6月期)-円安効果で四半期で初の2兆円超え、2024年は8兆円台が視野に | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年09月20日
消費者物価(全国24年8月)-既往の円安の影響で食料(生鮮食品を除く)の伸びが1年3ヵ月ぶりに拡大 -
2024年09月19日
米FOMC(24年9月)-政策金利▲0.5%引き下げを決定。20年以来となる利下げを開始 -
2024年09月19日
資金循環統計(24年4-6月期)~個人金融資産は前年比98兆円増の2212兆円と過去最高に、リスク性資産への投資が進む -
2024年09月19日
家計消費の動向(~2024年7月)-物価高で食料や日用品を抑え、娯楽をやや優先だが温度差も -
2024年09月19日
米住宅着工・許可件数(24年8月)-着工件数は前月、市場予想を上回る。住宅ローン金利の低下が住宅需要に追い風
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【最近の訪日外国人消費-旅行者増で消費額増。中国人の「爆買い」は中身が変わるも消費意欲は変わらず。今後はコト消費拡大が鍵。1泊増で+0.4兆円。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
最近の訪日外国人消費-旅行者増で消費額増。中国人の「爆買い」は中身が変わるも消費意欲は変わらず。今後はコト消費拡大が鍵。1泊増で+0.4兆円。のレポート Topへ