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Z世代の消費志向とサステナブル意識-経済・社会的背景から見た4つの特徴
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
1――Z世代の成長と経済・社会的背景~日経平均株価と流行語の推移から見えるもの
世代による消費行動の違いを理解するためには、各世代が自分で商品やサービスを選び、消費の楽しさを知るようになった時期に、どのような経済情勢や社会環境に直面していたかが、その後の価値観形成に大きな影響を与えると考えられます。例えば、バブル経済期に社会人となったバブル世代(1965年~1970年頃に誕生した世代)は右肩上がりの経済成長と華やかな消費生活を背景に、物質的な豊かさを追求し、ブランド志向が強いとされています1。
ここであらためて、Z世代の誕生から現在までの状況を振り返ってみましょう。
日経平均株価と各年の世相を反映した主な流行語の推移を見ると、Z世代は、バブル崩壊後の景気低迷期に「貸し渋り」や「年収3百万円」、「格差社会」、「ネットカフェ難民」といった厳しい経済情勢を象徴する言葉が登場する中で、誕生しました(図表1)。さらに、2008年にはリーマンショックによる世界的な金融危機が生じ、2011年の東日本大震災は国内外に大きな影響を及ぼしました。
つまり、Z世代は、幼少期に経済的な不安定さや社会的な格差を目の当たりにしながら成長し、思春期から青年期にかけては経済政策の効果や日経平均株価の回復といった明るい兆しを感じる一方、少子高齢化が進行する中で働き方や価値観の変化、新たな社会課題にも直面しています。このような中では経済情勢が改善されても、消費に慎重な姿勢を持つ傾向も強いのではないでしょうか。
一方で、Z世代の成長とともに進化し続けてきたのがデジタル領域です。Z世代は小学校高学年頃からスマートフォンを持ち始め、中高生になるとInstagramやTikTokなどのSNSを活用するようになり、PayPayなどのキャッシュレス決済サービスにも自然と馴染んでいます。そして、大学生や社会人になる頃には生成AIが登場し、彼らの生活や働き方に大きな影響を与え始めています。つまり、デジタルツールの活用はZ世代の価値観や行動様式に深く根付いており、経済・社会的な背景とともに彼らの価値観を形作る重要な要素となっています。
1 参考:日戸浩之「世代別分析から見た消費行動の展望 関係性の変化がマーケティングに与える影響」、株式会社野村総合 研究所、知的資産創造(2019年10月号)、阪本節郎・原田曜平著「日本初! たった1冊で誰とでもうまく付き合える世代論の教科書―「団塊世代」から「さとり世代」まで一気にわかる」、東洋経済新報社 (2015/10/2)等
次に、体験志向については、若者の消費対象はモノからコト(体験)へと移行しています2。安価で良質な商品に囲まれて育ったZ世代は、モノのスペックよりも、心に残るような体験や珍しい体験に価値を見出す傾向があります。
一方でSNSが普及し、いつでも誰かの体験を見ることができるために、どのような体験でも既視感を覚えやすくもなっています。よって、再現性が低く、限定的で特別感のあるトキ消費3に価値を見出す傾向が強いようです。トキ消費とは、フェスやライブ、ワールドカップ観戦、アイドル総選挙、コラボカフェ、ハロウィンイベントなど、訪れた場所や周りにいる人々と、その瞬間だけでしか味わえない体験に価値を見出す消費行動のことで、非再現性と一体感があることに価値があります。
さらに、選択肢が豊富にある中では、パーソナライズ(カスタマイズ)志向が高い傾向もあるでしょう。デジタル化の進展によって、企業は顧客の属性や行動履歴などに基づいて、一人一人のニーズに合わせた商品やサービスの提供が可能となっています。Z世代は、企業のこのような柔軟な対応を活かして、自分らしさを表現することにも長けています。
最後に、Z世代はエシカル志向や社会貢献意識の高さでも注目されることが多いようです4。幼少期から地球温暖化などの環境問題や、貧困、格差といった社会課題に触れる機会が多く、SDGsに関わる教育も受けてきました。また、成熟した消費社会で生まれ育ったことで、もともと消費生活における満足度が高いために、サステナビリティや企業の社会的責任に関心が向きやすいという面もあるでしょう。したがって、Z世代は環境に優しい商品や社会的に意義のある活動を支持し、消費行動を通じて自身の価値観を表現する傾向も強いのではないでしょうか。
2 例えば、消費者庁「令和4年版消費者白書」第1部 第2章 第2節(1)にて、「若者は「食べること」等にお金をかけつつ、「参加型のイベント」、「有名人やキャラクター等を応援する活動」にお金をかけている」ことが指摘。
3 参考:「消費潮流の最前線 第1回 モノ、コトの次の潮流【トキ消費】とは」、博報堂生活総合研究所(2019/12/15)等
4 例えば、経済産業省「通商白書2021」第Ⅱ部 第2章 第1節2(2)人材の獲得・維持にて「日本に限らずグローバルでみてもミレニアル世代およびZ世代の社会課題への意識は非常に高い。」ことが指摘。
3――Z世代はサステナブル意識が強い?~意識はシニアで高く、情報発信などは若者で積極的
ニッセイ基礎研究所の分析5によると、年齢が高いほど、サステナビリティ関連のキーワードの認知度が高く、「サステナビリティに今すぐに取り組まないと手遅れになる」といった課題意識も強い傾向があります。シニア層では、長年の経験や知識などに基づく深い課題意識を持っていると考えられます。一方で、若年層ほど、サステナビリティに関わる情報発信やボランティア活動に積極的な傾向があります。70歳代では「興味はあるが何をしたらよいか分からない」という回答が多いこともあわせて考えると、デジタルネイティブのZ世代は情報通で、教育機会にも恵まれているために、課題意識を行動に移しやすいと考えられます。なお、シニア層では「価格が安くてもサステナビリティに影響のある製品は買わない」との姿勢が強く、日常の消費生活において個人的に取り組める行動については、若者以上に積極的な傾向があります。
消費者のサステナビリティに関わる取り組みを広げるためには、まずは行政などが、学校や勤め先での教育・研修機会のないシニアや非就業者に対して、サステナビリティに関する情報提供や教育機会を充実させ、意識を行動へ移すための具体的な方法を示すことが重要です。一方で、企業が即効性のある好感度の向上や情報拡散を狙う場合には、情報発信力の高いZ世代などの若者へのアプローチが効果的でしょう。
将来的には、すべての消費者にとってサステナビリティという観点が消費行動の土台となると考えられますが、現時点では年代によって意識と行動には隔たりが見られます。そのため、各層の特徴をしっかりと捉え、適切なアプローチを行うことが求められます。
5 詳細は、久我尚子「サステナビリティに関わる意識と消費行動(1)-SDGsは認知度7割だが、価格よりサステナビリティ優先は1割未満」、ニッセイ基礎研レポート(2023/09/15)や「サステナビリティに関わる意識と消費行動(2)-意識は成長段階・行動は途上段階、教育機会や情報感度、経済的余裕が影響」、ニッセイ基礎研レポート(2023/10/18)。
(2024年09月10日「研究員の眼」)
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/09/26 | 物価と体感-10%以上乖離、値上げに敏感な消費者、価格転嫁は可能か | 久我 尚子 | 基礎研レター |
2024/09/19 | 家計消費の動向(~2024年7月)-物価高で食料や日用品を抑え、娯楽をやや優先だが温度差も | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2024/09/10 | Z世代の消費志向とサステナブル意識-経済・社会的背景から見た4つの特徴 | 久我 尚子 | 研究員の眼 |
2024/08/30 | 子育て世帯の定額減税に対する意識-控除額の多い多子世帯で認知度高、使途は生活費の補填、貯蓄 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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