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コラム
2024年02月14日
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1――誰かに選んでもらう、「選ばない消費」
朝起きてから眠るまで、私達は常に小さな決断を迫られる生活を送っています。技術革新やデジタル化の進展によって成熟した消費社会では、実際に手に取れる商品も、ネットを介したデジタルサービスも多くの選択肢があふれています。
多くの選択肢があることは良いことかもしれませんが、日々、スマートフォンから通知される小さな意思決定の量に、ストレスを感じる人も増えているのではないでしょうか。
このような中で最近では、誰かに選んでもらう「選ばない消費」スタイルが注目を集めているようです。その主役は20代から30代のようですが、例えば、今日観る映画やランチを決めてくれる「ルーレットアプリ」、「こんなメイクがおすすめ」と商品を選んでくれる化粧品のAI自販機、好みの曲を自動的に選んで流してくれる音楽配信サービス、スタイリストが選んでくれた洋服を送ってくれるサブスクリプションサービスなどがあります。
多くの選択肢があることは良いことかもしれませんが、日々、スマートフォンから通知される小さな意思決定の量に、ストレスを感じる人も増えているのではないでしょうか。
このような中で最近では、誰かに選んでもらう「選ばない消費」スタイルが注目を集めているようです。その主役は20代から30代のようですが、例えば、今日観る映画やランチを決めてくれる「ルーレットアプリ」、「こんなメイクがおすすめ」と商品を選んでくれる化粧品のAI自販機、好みの曲を自動的に選んで流してくれる音楽配信サービス、スタイリストが選んでくれた洋服を送ってくれるサブスクリプションサービスなどがあります。
2――消費者は、なぜ選ばなくなったのか?
なぜ「選ばない消費」スタイルが登場したのでしょうか。
それは、今はあまりに多くの商品やサービスがあるために、消費者が選びきれなくなっているためでしょう。例えば、昭和の時代では、良いモノ=高いモノ(有名なメーカー品や高級ブランド品など)で、ある程度、価格で品質の住みわけが成されていました。品質にこだわるならば高いものを選ぶなど、商品選択の仕方も単純でした。
一方で、現在の成熟した消費社会では、安価で良質な商品やサービスがあふれています。高級ブランド品などは独自のデザインや世界観を訴求していることで選びやすいかもしれませんが、日用品となると、百円均一やスーパーのPB商品、ファストファッションなどは低価格でも品質は高級品と変わらないものがたくさんあり、選びきれなくなっています。つまり、良いモノが必ずしも高いモノではなくなった今、粗悪品が減り、消費者が選んでも良いと思う商品やサービスの量が各段に増えています。
また、商品やサービスに関わる情報量も各段に増えています。スマートフォンには絶えず情報が届き、商品やサービスを選ぶためにネットやSNSを検索すると大量の情報に行き当たります。そこから取捨選択して、自分で判断することには、かなりの労力がかかることが多いでしょう。
こうした状況から、多くの商品から自分に一番合うものを選んで欲しいという「選ばない消費」需要が成長しているのではないでしょうか。
それは、今はあまりに多くの商品やサービスがあるために、消費者が選びきれなくなっているためでしょう。例えば、昭和の時代では、良いモノ=高いモノ(有名なメーカー品や高級ブランド品など)で、ある程度、価格で品質の住みわけが成されていました。品質にこだわるならば高いものを選ぶなど、商品選択の仕方も単純でした。
一方で、現在の成熟した消費社会では、安価で良質な商品やサービスがあふれています。高級ブランド品などは独自のデザインや世界観を訴求していることで選びやすいかもしれませんが、日用品となると、百円均一やスーパーのPB商品、ファストファッションなどは低価格でも品質は高級品と変わらないものがたくさんあり、選びきれなくなっています。つまり、良いモノが必ずしも高いモノではなくなった今、粗悪品が減り、消費者が選んでも良いと思う商品やサービスの量が各段に増えています。
また、商品やサービスに関わる情報量も各段に増えています。スマートフォンには絶えず情報が届き、商品やサービスを選ぶためにネットやSNSを検索すると大量の情報に行き当たります。そこから取捨選択して、自分で判断することには、かなりの労力がかかることが多いでしょう。
こうした状況から、多くの商品から自分に一番合うものを選んで欲しいという「選ばない消費」需要が成長しているのではないでしょうか。
3――ランダム性を楽しみたい、モノ消費に見えてコト消費
また、あまりに大量の商品があるために、何が当たるのかを楽しむといった考え方も生まれているのかもしれません。今の世の中、どんな商品でも、ある程度の品質は担保されていますので、特にこだわりがなかったり、少し冒険しても良いと思う商品については、何が当たるのかを楽しむといった福袋的な買い方も新鮮に感じられるのかもしれません。
例えば、昔からカプセル玩具を用いた「ガチャシリーズ」が代表的ですが、最近では、目的地がどこになるかわからない「旅ガチャ」、どんな商品が出てくるか変わらない冷凍食品ガチャ、本ガチャ、香水ガチャなどが注目を集めているようです。
サービスを提供する企業側からすれば、過去と比べて商品の機能やデザイン、価格などで差別化が図りにくくなっている現状があり、ガチャ方式のように商品の提供の仕方を変えることによって、新商品の開発に匹敵するような斬新さを打ち出せるのかもしれません。
また、消費者側からすれば、モノを買うことだけでなく、何が当たるかを楽しむサービス(コト)を利用していることにもなるので、ガチャ方式で商品を買うことは「モノ消費に見えてコト消費」という見方もできるでしょう。
例えば、昔からカプセル玩具を用いた「ガチャシリーズ」が代表的ですが、最近では、目的地がどこになるかわからない「旅ガチャ」、どんな商品が出てくるか変わらない冷凍食品ガチャ、本ガチャ、香水ガチャなどが注目を集めているようです。
サービスを提供する企業側からすれば、過去と比べて商品の機能やデザイン、価格などで差別化が図りにくくなっている現状があり、ガチャ方式のように商品の提供の仕方を変えることによって、新商品の開発に匹敵するような斬新さを打ち出せるのかもしれません。
また、消費者側からすれば、モノを買うことだけでなく、何が当たるかを楽しむサービス(コト)を利用していることにもなるので、ガチャ方式で商品を買うことは「モノ消費に見えてコト消費」という見方もできるでしょう。
4――「選ばない消費」の主役は若者
「選ばない消費」の主役は、成熟した消費社会で生まれ育ち、デジタルネイティブで日々、大量の情報に接している20代から30代と見られますが、例えば、SNSなどを見ると「なんでもいいと思うことが多い」「自分で決めるのは疲れるし、責任を取りたくないので運に任せている」「ルーレットで決めれば面白くない映画でも時間を返せとはならない」「情報が多すぎて選べないから選択肢を狭くしてほしい」「(販売員に)要望を言うので、それに合った商品を勧めてほしい」という声のほか、「フィルターバブルのせいで世界が狭くなるからガチャで少し世界を広げたい」といった声もあるようです。
この「なんでもいい」という心理は、先の通り、なんでもそこそこの品質の商品がそろっているという、成熟した消費社会ゆえに生まれる心理でしょう。
同時に、選択肢が多くて選びきれないことで、選んで欲しい需要が生まれているわけですが、「面倒なので選んで欲しい」という心理だけでなく、「自分で選ぶと最適な選択肢を選べないかもしれない」「もっと良い選択肢があるのに、みすみす見逃してしまうのかもしれない」という不安やリスク回避といった心理もあるでしょう。よって、「選ばない消費」は、受益層にとってはコスパ、タイパに優れた消費スタイルと言うこともできます。
また、ガチャ方式で「えっ、こんなの来ちゃったよ」が損とはならないこともSNS世代の面白いところと言えます。「えっ」と思うような商品に当たった場合、逆にSNSのネタになって美味しいと思う若者が多いのではないでしょうか。
横でつながるSNS世代のネタは、人に対してマウントを取らずに、共感を得るような内容であることも重要です。これは、自分で選択をすることを好み、学歴や年収、どこに住んでいるか、どんな車に乗っているかなど、他者との差を競ってきたバブル世代とは違う価値観と言えるでしょう。
よって、SNS世代では「ガチャで変なものが当たってしまった」「へき地へ行くツアーに参加することになってしまった」などは恰好の共感ネタとなります。また、「推し」なども共感を得やすく、自分らしさを表現する消費スタイルの典型的なものと言えるでしょう。
この「なんでもいい」という心理は、先の通り、なんでもそこそこの品質の商品がそろっているという、成熟した消費社会ゆえに生まれる心理でしょう。
同時に、選択肢が多くて選びきれないことで、選んで欲しい需要が生まれているわけですが、「面倒なので選んで欲しい」という心理だけでなく、「自分で選ぶと最適な選択肢を選べないかもしれない」「もっと良い選択肢があるのに、みすみす見逃してしまうのかもしれない」という不安やリスク回避といった心理もあるでしょう。よって、「選ばない消費」は、受益層にとってはコスパ、タイパに優れた消費スタイルと言うこともできます。
また、ガチャ方式で「えっ、こんなの来ちゃったよ」が損とはならないこともSNS世代の面白いところと言えます。「えっ」と思うような商品に当たった場合、逆にSNSのネタになって美味しいと思う若者が多いのではないでしょうか。
横でつながるSNS世代のネタは、人に対してマウントを取らずに、共感を得るような内容であることも重要です。これは、自分で選択をすることを好み、学歴や年収、どこに住んでいるか、どんな車に乗っているかなど、他者との差を競ってきたバブル世代とは違う価値観と言えるでしょう。
よって、SNS世代では「ガチャで変なものが当たってしまった」「へき地へ行くツアーに参加することになってしまった」などは恰好の共感ネタとなります。また、「推し」なども共感を得やすく、自分らしさを表現する消費スタイルの典型的なものと言えるでしょう。
5――「選ばない消費」の行方
今後、「選ばない消費」スタイルはどうなっていくのでしょうか。一層、人任せする消費者が増えるのでしょうか、あるいは、選びたい消費者が増えるのでしょうか。
私は「選ばない消費」が進化していくと見ています。生成AIの進展が著しい中で、すでに音楽配信サービスなどでは存在しますが、他の商品やサービスでも、選んで欲しいと頼むと最適解をはじき出すようなものが増えていくでしょう。
一方で、「選ばない消費」サービスに頼りすぎると、今後さらに増えていく情報に対する耐性や理解力、対応力が不足してしまう懸念があります。つまり、対峙した情報によって何らかのリスク判断を迫られるようなときに、うまく対応ができなくなるのかもしれません。
そうなると、「選ばない消費」は、あくまで旅や映画など余暇を楽しむジャンルに限って活用する、という姿勢でいることが、「選ばない消費」を楽しむコツなのかもしれません。
私は「選ばない消費」が進化していくと見ています。生成AIの進展が著しい中で、すでに音楽配信サービスなどでは存在しますが、他の商品やサービスでも、選んで欲しいと頼むと最適解をはじき出すようなものが増えていくでしょう。
一方で、「選ばない消費」サービスに頼りすぎると、今後さらに増えていく情報に対する耐性や理解力、対応力が不足してしまう懸念があります。つまり、対峙した情報によって何らかのリスク判断を迫られるようなときに、うまく対応ができなくなるのかもしれません。
そうなると、「選ばない消費」は、あくまで旅や映画など余暇を楽しむジャンルに限って活用する、という姿勢でいることが、「選ばない消費」を楽しむコツなのかもしれません。
(2024年02月14日「研究員の眼」)
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経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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