2023年06月13日

物価高の家計への影響と消費者の要望-やむを得ず値上げを受け入れる素地の形成、企業には監視の目も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • ニッセイ基礎研究所が20~74歳を対象とした調査では、物価上昇を感じた費目や支出額が増えた費目は「食料」や「電気代・ガス代」に集中する。物価上昇を感じたが支出額は変わっていない、あるいは支出額を減らした費目は「わからない」と「特にない」に約8割が集中することから、物価高進行下で消費者は支出抑制の工夫をするというよりも、値上げをやむを得ず受け入れている様子がうかがえる。
     
  • 属性別には、子育て世帯では生活必需品や教育費、家賃、娯楽費など幅広い費目で物価上昇を感じ、支出額が増えている傾向があるが、背景には経済的な厳しさから物価高を感じやすいことや従来から出費がかさんでいることがあげられる。また、高年収層では経済的な余裕から生活必需員の物価上昇に対する負担感は相対的に弱い一方、日頃から消費意欲が旺盛な娯楽関連の費目で物価上昇を強く感じている傾向がある。
     
  • 消費者の事業者への要望では、そう思う割合が「多少の値上げは仕方ないが、商品の量や質は変えないで欲しい」で58.8%を占めることなどから、デフレ進行下では消費者は価格据え置き志向が高かったが、現在ではコスト増や従業員の賃金への還元などが適切な形で価格転嫁されることは、やむを得ないものとして、ある程度受け入れられる素地が形成されている様子がうかがえる。
     
  • 政府・自治体への要望では、そう思う割合が電気代やガス代など「電気代やガス代などの価格を抑制するような取り組みが必要だ」(70.3%)や「適切にコスト増を価格転嫁できているかの監視が必要だ」(66.0%)、「企業が適切に従業員の賃金に還元しているかの監視が必要だ」(63.1%)などで目立つ。よって、消費者は家計支援策に加えて、適切な価格転嫁や賃金への還元など企業活動の監視も同時に強く求めているようだ。
     
  • これらの背景には、昨今の欧米諸国のインフレや企業のコスト増の状況、欧米と比べて日本の賃金が上がらない状況などから、無理な価格抑制は労働者の賃金上昇を抑え、ひいては日本の競争力低下にもつながりかねないという構造的な理解が広がってきたことがあげられる。また、社会の持続可能性への関心が高まる中、労働者への過剰な負担といった無理を要する企業活動は指示されにくい時代となっているのだろう。
     
  • 5月の5類変更以降、外食や旅行などを中心に消費行動は一層、活発化している。物価高でもコロナ禍で家計の貯蓄が増えている 影響も相まって、今後の個人消費には更なる改善が期待できるだろう。一方で物価上昇に対して実質賃金の伸びが劣後する状況が続けば、消費者の行動欲求が一旦、満たされた後は節約志向が色濃くあらわれる可能性がある。


■目次

1――はじめに~生活必需品を中心とした値上げで家計負担増、現在の消費者意識は?
2――物価上昇を感じた費目や支出額への影響
 ~支出抑制というより値上げをやむを得ず受け入れている
  1|物価上昇の家計への影響~影響ありが80.8%
  2|全体の状況
   ~生活必需品中心に物価高実感、支出抑制というよりやむを得ず値上げを受け入れている
3――物価高進行下の消費者の要望
 ~やむを得ず価格転嫁を受け入れる素地の形成、企業に監視の目
  1|事業者への要望
   ~従業員への還元、「多少の値上げは仕方ないが量・質は変えないで欲しい」58.8%
  2|政府・自治体への要望
   ~家計支援策、適切な価格転嫁や賃上げなど企業活動の監視、税制改正も
4――おわりに
 ~物価高でも5類変更で消費改善に期待、ただし欲求が満たされた後は賃金の伸び次第
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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