2022年07月15日

物価高と消費者の暮らし向き-子育て世帯で徹底的に支出減、安価な製品への乗り換えも

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • エネルギー価格の上昇や原材料高、円安の進行によって消費者物価は上昇しており、今年4月以降、生鮮食品を除く総合指数は2%台にのぼる。また、消費者物価指数を構成する10大費目では、光熱・水道や食料など生活必需性の高い費目で上昇が目立ち、家計への負担が増している。その結果、2022年6月では二人以上世帯で1年後に物価が上昇するとの回答は実に94.2%、+5%以上上昇するとの回答は60.9%を占める。
     
  • ニッセイ基礎研究所が20~74歳を対象に暮らし向きについて調査した結果では、コロナ禍を経て暮らしにゆとりがある層は減少し、暮らし向きは悪化している。1年後の見通しは、現在と大きくは変わらないが、不透明感を感じる消費者の存在がうかがえる。年代別には1年後の見通しに違いがあり、シニアでは悲観的(あるいは慎重)、若者ではやや改善されるとの見方が強いが、従来から見られる傾向である。
     
  • 暮らし向きにゆとりがない層は、女性より男性、ライフステージ別には子育て世帯、職業別には自営業・自由業やパート・アルバイト、無職であり、個人年収や世帯年収別には、おおむね低年収であるほど多い。属性によらず、暮らし向きはコロナ禍前より悪化傾向だが、個人年収1千万円以上などの高収入世帯では、そもそも現段階で半数以上は暮らし向きにゆとりがある。
     
  • 暮らし向きにゆとりがなくなった理由は圧倒的に食料品などの生活必需品や光熱費、ガソリン代の値上がりがあがる。また、ゆとりがなくなったことで取った行動は「できるだけ不要品を買わない」「ポイントやクーポンの活用」「生活必需品の安価な製品への乗り換え」などが上位にあがる。
     
  • 属性別には、生活費の値上がりによる負担感は年金生活のシニアで強いものの、生活必需品の安価な製品への乗り換えは子育て世帯で多く見られた。暮らし向きが悪化した子育て世帯では、生活費の負担増に加えてコロナ禍で世帯収入が減少したことで、家計の見直しのほか、安価な製品への乗り換え、中古品・シェアサービスの活用、自家用車を手放す、教育費の削減など、多方面に渡って徹底的に支出を抑える傾向が強い。
     
  • 今後1年程度は食料を中心に物価高が続くことが見込まれる中、経済状況の厳しい世帯では必需性の低い消費を一層、強く抑制するほか、教育費など必需性が高いと見られる消費も抑制せざるを得ない。一方で、消費者の約2割には暮らし向きにゆとりがあり、温度差が生じている。個人消費がコロナ禍前の水準に戻らない中、暮らし向きが悪化した世帯の家計を支援するとともに、あわせて消費刺激策を講じる必要がある。


■目次

1――はじめに
 ~消費者物価は2%台へ、1年後も物価上昇と考える消費者は9割超、+5%以上は6割
2――暮らし向き
 ~コロナ禍前より悪化、1年後はシニアで悪化・若者でやや改善だが従来からの特徴
  1|全体の状況
   ~コロナ禍前より悪化、1年後は現在とあまり変わらないが先行き不透明感も
  2|性年代やライフステージ別の状況
   ~1年後はシニアで悪化、若者でやや改善だが従来からの特徴
  3|職業や個人年収、世帯年収別の状況
   ~高年収層もコロナ禍前より悪化傾向だが半数以上はゆとりあり
3――暮らし向きにゆとりがなくなった理由
 ~シニアを中心に生活費負担増、現役世代では収入減も
  1|全体の状況
   ~生活必需品や光熱費、ガソリン代の値上がりが圧倒的で6割強、コロナ禍による収入減も
  2|性年代やライフステージ別の状況
   ~シニアは生活費負担増、子育て世帯は収入減や教育費負担増
  3|職業別の状況
   ~自営業や正規雇用者は収入減、専業主婦や無職は生活費負担増
  4|個人年収や世帯年収別の状況
   ~現役世代の多い年収帯は収入減、シニアが多いと生活費負担増など
4――ゆとりがなくなって取った行動
 ~シニアは購入控えや貯蓄切り崩し、子育て世帯は徹底的に支出減
  1|全体の状況
   ~必需性の低い消費を控え、ポイント活用や安価な製品への乗り換えなど支出抑制の工夫
  2|性年代やライフステージ別の状況
   ~子育て世帯で徹底的に支出減、安価な製品への乗り換えも
  3|個人年収や世帯年収別の状況
   ~現役世代の多い年収帯は家計の見直しや支出減
5――おわりに
 ~5月の個人消費はコロナ禍前の水準に戻らず、家計支援策と消費刺激策両面の必要性
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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